プラント・パニック・ホスピタル!!
「なっ、なんだ!?」
「地震!? 結構大きいですよ!」
突如として発生した地響きに驚き、周囲を見回すユーゴとライハ。
他の患者たちも悲鳴を上げたり驚いたりしている中、ユーゴは違和感に気付く。
「なんか、外が暗くなってないか……?」
ほんの僅かではあったが、数秒前に比べて外から差し込む光の量が減っているような気がしたユーゴが、窓の外を見やる。
青い空が広がっている外の景色は大して変わりがないように思えたが……次の瞬間、その窓に何かが見えると共に、けたたましい音を響かせながらガラスが砕け散った。
「きゃああああっ!?」
「な、何かが入ってくるぞ~っ!!」
地震の時よりも大きく、そしてパニックになった人々の悲鳴がこだまする。
その声に反応するユーゴたちの前で、窓から巨大な蔦のような物体が入り込んできた。
驚きながらそれを避け、どうにか外の様子を窺うべく蔦が入り込んでいない窓から身を乗り出したユーゴは、病院の外壁を蔦たちが覆い隠さんばりに這い回っている様を目にして、目を見開く。
そして、その蔦が上から伸びていることと、緑色のそれから鋭い棘が生えてきたことを確認したところで、病院内に身を引っ込めて大声で叫んだ。
「みんなっ、窓から離れるんだ! 棘で怪我するぞっ!!」
窓から入り込んだ巨大な蔦……もとい茨は、棘もかなりの大きさだ。
うっかり刺さったらただ事じゃ済まないと、ここが病院とはいえ、怪我人なんて出ない方がいいに決まっているとユーゴが注意を促したところで、フィーとユイが病室から飛び出してきた。
「兄さん! いったい何が起きてるの!?」
「わからねえ! けど、ただの地震じゃあないみたいだ! 二人とも、俺の傍から離れるなよ!」
なにか想像を超えた事態が発生しているということを察したユーゴが子供たちに叫ぶと共に、どうすべきかを考え始める。
この茨は上から伸びてきているということは、異常の元凶は屋上にあるのではないかと、そう考えて様子を見に行くことを考えた彼であったが……またしてもここで問題が発生した。
「フィー、ユーゴさん……何かが、何かが来ます……!」
「く、来るって、何が!?」
「わからない! でも、何か良くないものが近付いてくる! 方向は――!!」
視覚ではなく、魂で物を視ているユイが、接近する怪しい何かを感じ取ったようだ。
彼女がそれが近付いてくる方向を指し示すより早く、人々が悲鳴と共にこちらへと逃げてくる。
人の波からフィーとユイを庇うように背を向け、逃げる人々の気配や足音を感じながら振り向いたユーゴは、その視線の先に異形の存在を確認するとライハへと言った。
「……ウツセミさん、二人を頼みます」
「は、はいっ!」
ライハの返事を確認し、フィーとユイを彼女に任せてから前へ。
逃げ惑う人々を掻き分け、彼らとは逆方向に歩みながら、怪物へと迫る。
「フジュッ、ジュルッ、ジュッ、フジュルッ!」
「魔鎧獣……こいつがこの異変の元凶か?」
緑と赤、その二色がユーゴの前に立つ魔鎧獣を構成している。
全身の至る所に生えている棘と緑色の体を見れば、どんな馬鹿でもその魔鎧獣が植物の属性を有していることがわかるだろう。
比較的細めの体躯をしている魔鎧獣の腕部分からは茨の鞭が伸びており、それを武器にして戦うことは容易に想像できた。
同時に、ユーゴはその魔鎧獣のもう一つの特徴的な部分へと目を向ける。
(あの赤いのはなんだ? 種子か何かか……?)
その魔鎧獣の顔には鼻や目といった器官がなく、代わりに真っ赤な実のような物体が埋め込まれている。
頭部を囲むように咲いた花弁がどうにも薄気味悪いと、植物系怪人と相対したユーゴはそのビジュアルの奇妙さに気持ちを押されそうになるも、相手の背後に逃げ遅れた人々がいることに気付くと、即座に弱気な気持ちを吹き飛ばした。
「こっち見ろよ、緑野郎。お前の相手は、俺だ」
「グジュッ、ジュッ、ジュッ!!」
挑発するように魔鎧獣へと手招きをすれば、相手はそれに反応してユーゴに敵意を向け始めた。
どこからかグジュグジュという汚い音を漏らしながら、手首付近から伸びる茨の鞭を振るって攻撃を仕掛けてきた魔鎧獣に対して、ユーゴは咄嗟に飛び退きながら鋭い視線を向ける。
(そうだ、それでいい! 俺だけを狙ってこい!)
状況は不透明、この魔鎧獣が元凶なのかもわかっていない。
ただ、この場でヒーローがすべきことは病院内に取り残された人々を守ることであることは間違いない。
この病院の患者にも、医師たちにも、手は出させない。
絶対に彼らを守ってみせると自分自身に誓いながら、ユーゴは魔鎧獣との戦いに身を投じる。
二度、三度と繰り出される鞭での攻撃を回避し、魔鎧獣へと接近していったユーゴは、己の信念を拳の中に握り締めながら跳躍すると、倒すべき敵に向かいながら叫んだ。
「変、身っっ!!」
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