私の方が、おっぱい大きいわ!

「……恋仲? こいなか? コイ、ナカ……?」


 セツナの口から飛び出してきた四文字の言葉を、イントネーションを変えて何度も繰り替えすユーゴ。

 一瞬どころか数秒の間、彼女が言ったことの意味がわからないでいた彼であったが……自分が今、告白されたのだと理解したその瞬間、彼に代わってメルトが大声で叫んだ。


「だだだだだだ、ダメに決まってるじゃない! そんな、急に、何を言ってるの!?」


「あなたには聞いてないわ。大事なのはユーゴの意見、そうでしょう?」


「いや、あの、お、俺もそんな急に付き合わないかだなんて言われても、はいわかりましたとは言えないっつーか……」


 ヒートアップしているメルトのお陰で逆に落ち着くことができたユーゴが、しどろもどろになりながらもノーの返事をセツナへと告げる。

 それに対して彼女は怒ることもせず、ふぅと小さく息を吐きながらも緩く笑みを浮かべてからこう返した。


「まあ、そうね。ここでがっつくような男なら、もうとっくに周りの女子たちに手を出してるはずよね。周囲に学園でも指折りの美少女がいるっていうのに、恋人と呼ぶような相手はいない。初心というべきか硬派というべきかはわからないけど、出会って間もない相手と交際するような男じゃあないってことは予想できていたわ」


「じゃあ、なんでわざわざそんな質問を? それに、俺が一番求めているものを与えられるって、どういう意味なんだ?」


「一つずつ説明しましょう。まずは私がどうしてあなたに交際を持ち掛けたか、という点についてね」


 戸惑うユーゴの問いに対して、立てた人差し指を彼に見せつけながらセツナが解説を始める。

 その間に割って入ったメルトが警戒を剥き出しにした表情を浮かべて威嚇する中、セツナは大してそれを気に留めることもなく、話をしていった。


「さっきも言った通り、私はあなたを高く評価してるし、あなたの自由な発想は巫女装束の改良に大きな発展をもたらしてくれるはずよ。それに加えて、あなたの実力はこの学園でもトップクラス……いいえ、飛び抜けていると言っても過言ではないわ。その上で、両親から勘当を告げられているお陰でお家騒動のしがらみもなし。そこにいる元婚約者との関係も破棄済み。ここまで話せばわかるでしょう? ユーゴ、あなたは私にとって、超がいくつも付くほどの優良物件なのよ。その男を囲い込んでおきたくなる気持ちも、理解してもらえるでしょう?」


「囲い込むって、その言い方だと、お前――」


「ええ。私は将来的にあなたをヤマトに連れ帰って、夫にするつもりよ。この学園で恋仲になるのは、その前段階って感じかしらね?」


「ぶふおぉっ!?」


 あまりにも堂々と夫にするという最終目的を言ってのけたセツナの態度に、ユーゴが驚きのあまり噴き出す。

 げほごほと彼がむせる中、そんなユーゴに代わってメルトが異議を申し出た。


「ちょっと待った! そっ、そんなのダメに決まってるじゃん! 付き合うだけならまだしも、結婚だなんて……そんなの急に決められるわけないし、決めていいことでもないよ!!」


「ええ、そうね。だから、今すぐに結論を出せとは言わないわ。幸い、私はあなたの一味に加わることになった。そうなれば、これからの学園生活を一緒に過ごす時間も増えるはずよ。その中で私の人となりを知り、恋人、ひいては妻として申し分ない人間だと思ったら……私の申し出を飲めばいい。私を一番だと明言してくれるなら、側室を何人作っても問題ないわ。私以外の女を好きになって、その子と恋仲になったとしても、それは私の魅力が足りなかっただけって話だから諦めもつく。まあ、負ける気はさらさらないけどね」


「むぅっ……!!」


 ちらりとこちらを見ながらのセツナの発言に、メルトが小さく唸る。

 これが彼女からの宣戦布告だということを理解したメルトへと、セツナはこう続けた。


「メルト・エペ……記憶喪失になって孤立したユーゴを現在まで支え続けたあなたには、私と勝負するだけの資格がある。アンヘル・アンバー、あなたにもね。でも、残念ながら……ユーゴが求めているものを与えられるのは、私だけよ」


「ふ、ふんっ! それが何なのかはわかんないけど、私たちだってあなたが持ってないものを持ってるよ!!」


 意味深なその言葉に圧されそうになりながらも、自分を奮い立たせるように胸を張ったメルトが堂々とその大きな膨らみをセツナに見せつける。

 そんな彼女の姿と、苦笑を浮かべているアンヘルの作業着の上からでもわかるくらいの巨乳を順番に見たセツナは、ふっと微笑むと一歩前に足を進め、メルトの真正面に立つとこう言った。


「ああ、なるほどね。それなら心配いらないわ。私も、だから」


「はっ? それ、どういう――なっ!?」


 ぼいんっ、という音がした。いや、そんな感触が自身の胸に伝わってきた。

 まるで唐突に膨れ上がった風船とぶつかったような、そんな感覚を覚えたメルトが視線を少しだけ下に向ければ、先ほどまで平らだったセツナの胸が大きく膨れ上がり、自分の胸に張り合うようにして押し当てられている様が目に映る。


「ん? あれ? な、なんか、急に胸がデカくなったような……?」


「大きくなったんじゃなくって、これが本当のサイズってだけよ。私は弓使い、大きな胸は邪魔になるだけだからね。普段はサラシと風の魔法で押さえつけてるの。それを解除すればまあ、このくらいはあるってこと。あなたは胸の大きな女性が好みなんでしょう? だったら、しっかりその部分もアピールしておかないとね」


「い、いや、俺は別に巨乳好きってわけじゃないんだが……?」


「ぐぬぬぬぬぬぬ……! ま、負けるもんかぁ!! 私の方が、おっぱい大きいもん! 私の方が! おっぱい大きいもんっ!!」


「んなこと大声で叫ぶな、メルト! ここだけ聞かれたら誤解されかねないだろうが!!」


 不死身の兵士たちの中で的なポジションを担当する鞭使いの男(心は女性)のようなことを叫ぶメルトへと、鋭いツッコミを入れるユーゴ。

 なんだか話が大きくなってきたなと焦りながらも、彼はもう一つの疑問についてセツナへと尋ねる。


「それで……さっきから言ってる、俺が一番求めてるものってなんだ? 別に俺、そこまで彼女がほしいとか思ってないし、大きいおっぱいにも興味はなくはないけど一番ほしいってわけじゃないぞ?」


「そうでしょうね。そんなもので満足するような男なら、私も自分の夫にしようだなんて考えないわ。あなたが今、最も欲しがっているもの……多分あなたも自覚しているはずよ?」


 そう言いながら、メルトの横をすり抜けたセツナがユーゴへと近付く。

 拘束を解除した大きな胸を彼に押し当てながら、ある種の誘惑とこれが偽物ではないという証明を同時に行いながら……セツナは、自分がユーゴに与えられるもの。彼が今、最も欲しているものを口にしてみせた。


「私があなたに与えられるもの、それは……この学園での立場よ」

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