激突!ユーゴVSトリルLevel2
紅の光の中を駆け抜けたユーゴの体を、漆黒の鎧が包み込む。
真っ向からトリルへと挑みかかっていった彼は、右腕をドリル状に変化させるとそれを魔鎧獣の外殻へと叩き込んでみせた。
「ドリルアームっ!! てやああっ!!」
「ふふふっ! 甘い、甘いなぁ!」
唸りを上げて回転するドリルの先端を、敢えて受けるトリル。
微粒子金属で構成されているドリルは魔鎧獣と化した彼の体にぶち当たるも、その硬さに負けて弾かれてしまった。
「ちっ! マジかよ……!?」
「その程度か!? 次は私の番だな!」
ブルゴーレムの体を粉砕したドリルアームが全く通じないことに舌打ちするユーゴ。
そんな彼の反応に高笑いしてみせたトリルは、自身の武器である直剣を振り上げて彼へと襲い掛かる。
「ぬぅうんっ! はあああっ!!」
「ほっ、はっ!!」
頭上からの振り下ろしと突き。パワフルな剣での攻撃をユーゴがリズミカルに回避する。
そうしながら、自分が次に採るべき戦法を考えるユーゴは、まずはと敵の動きを観察していく。
(奴の硬い外殻は脅威だが、動きはそうでもねえ。太刀筋も、リュウガに比べればまんま素人だ)
トリルのパワーは尋常ではない。直撃すればただでは済まないだろう。
しかし、その動きは力の比重を置き過ぎているせいか緩慢で、回避するのも見切るのも容易い。
最強の剣士であるリュウガの目で追うことすらやっとの太刀筋を見ていて良かったと思いながら、ユーゴはここからの戦法を組み立てていく。
(制限時間のある炎の鎧をこのタイミングで切るのは尚早だ。パワータイプの紫の鎧で真っ向勝負を仕掛けるより、通常のブラスタで隙を突いた方がいいとは思うが……)
問題は、あの硬い外殻をどう砕くかだ。
攻撃を通すためにはトリル自慢の黒光りする鎧を粉砕しなくてはならないが、そういった物体の破壊に適したドリルアームですら歯が立たないとなれば、有効打がない。
そういった相手にはそれなりの戦い方があるにはあるが……トリルの勢いを止めるためには、彼が絶対的な信頼を置いているあの外殻を粉砕するべきだと、そう考えたユーゴは一つの策を編み出し、それに賭けることにした。
「ふぅぅぅぅぅ……っ!」
息を吐き、精神を集中させながら左の拳に魔力を溜める。
急に動きを止めたユーゴが何かを仕掛けようとしていることを察知したトリルであったが、何をしようとも自分の外殻を貫くことはできないと、絶対的な防御力を頼りに彼へと剣を振り下ろす。
「もらったぁぁっ!!」
自分の頭上から剣が迫っても、ユーゴは慌てない。
ゆるゆると迫るその剣が自分に当たる寸前で握り締めた左拳を突き出した彼は、トリルの腹部に捻りを加えたパンチを叩き込んだ。
「ぬぐっ……!?」
一瞬、強い衝撃に襲われたトリルが呻き声を漏らす。
鎧を思わせる外殻に見合った重い体がユーゴの正拳突きの威力に負けて後方へと滑るように押し込まれていくが、それでもトリルは余裕を崩さない。
「ふふふ……っ! 何かを企んでいたようだが、無駄だったみたいだな。何をしようとも、私の外殻を砕くことなどできないさ!」
魔力を充填して威力を高めた突きでも、大したダメージを与えることはできなかった。
涙ぐましい努力を嘲笑うトリルであったが……そんな彼へと、兜の下で不敵な笑みを浮かべたユーゴが言う。
「さて、それはどうかな? 自分の腹をよく見てみろよ」
「なに……? なっ……!?」
意味深な言葉のままに今しがた殴られた自身の腹部を見たトリルは、そこに広がっているひびを目にして愕然とした呻きを漏らした。
ただのパンチを受けただけなのに、どうして鉄の剣すら通さない自分の鎧に傷が入ったのかと、この事象が理解できないでいる彼に対して、ユーゴが言う。
「裏当てって技術、知ってるか? 無茶苦茶な話だが、一発の突きの中で二回の衝撃を与えることで、突きの衝撃を相手の体により深く、強く浸透させるって技だ。普通なら俺みたいなちょっと鍛えただけの野郎が使える技術じゃねえんだけどよ……ちょっと工夫すれば、この通りさ」
どこかの少年漫画にもあった、瞬時に二発分の突きを叩き込むことで対象を粉々にするほどの衝撃を与えるという技術。
長きに渡る修練の果てに習得できるその技を、ユーゴは魔力を用いることで使ってみせた。
拳に込めた魔力は突きの威力を高めるためのものではなく、物理的な衝撃を与えた直後に相手の体にぶつけることによって、疑似的な二連撃を生み出すために集中させたものだったのである。
「う、おお、おぉ……!? わ、私の鎧が、絶対的な防御が……っ!?」
絶対の信頼を置いていた外殻が砕かれたという事実は、トリルの心に大きな衝撃を与えた。
肉体的なダメージは浅いが、精神が粉々に砕けてしまうほどの衝撃を味わい、自信をぐらつかせる彼へと、ユーゴは猛攻をかけて畳みかけていく。
「うおおおおおおおっ!!」
「ぐっ、ぬうっ!?」
彼の右腕が再びドリルに変形していることを見て取ったトリルは、咄嗟にバックラーを構えて相手の攻撃を防御しようとする。
しかし、それを読んでいたユーゴはドリルアームを囮にして、スライディング気味にトリルの膝関節を蹴り飛ばしてみせた。
「あがっ!?」
如何に硬い鎧に覆われていようとも、関節に逆方向の力を加えられれば純粋な打撃とは違う痛みに襲われてしまう。
骨を折られんばかりの激痛に襲われたトリルがよろめきながら後退して動きを止めたところで、ユーゴは今度こそ右腕のドリルをひびが入った彼の外殻へと叩き込んでやった。
「があああああっ!? ぐあああああああっ!!」
先ほどは弾かれたドリルも、外殻のひびに先端を突き入れたことでその威力を思う存分に発揮してくれた。
旋回と共に奥へと進行していくドリルが魔鎧獣の鎧を砕き、一部に大きな穴を空けて内部を露出させれば、その激痛にトリルが大きな悲鳴を上げる。
「な、なんだ……? 君はいったい、何者なんだ? 人間を超えた存在を更に超越した私をここまで追い込む君は、いったい……?」
「別に、あんたが思うような存在じゃあないさ。上位種でも何でもない、強いて言うとすれば、俺は――」
ズキズキと痛む傷を押さえながら顔を上げたトリルからは、最初の自信満々といった雰囲気は感じられない。
呼吸を荒げ、首を左右に振りながら、自分を追い込む青年へと唸るようにして質問した彼へと、ユーゴはこう答えた。
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