「お前の運命は、僕が決める」
「ふっ、ふざけるなっ! ちょっと優位に立ったからって、もう勝ったつもり!? まだ私は戦える! 上位種に進化を果たした私が、お前如きに負けるはずがない!!」
込み上げてきた恐怖を怒りの感情で押し殺したリエルが、大声で吼えながら立ち上がる。
しかし、その声と表情に先ほどまでの余裕はなく、彼女が追い詰められていることは明らかだ。
それでも進化を果たした者としてのプライドにかけ、ただの人間であるリュウガに負けるわけにはいかないと自身を奮い立たせたリエルは、折られた双剣を再生させると彼に向かって叫んだ。
「どう? 武器を壊して調子に乗っていたみたいだけど、いくらでも再生できるのよ!? もう同じ手は食らわないわ! 今度こそお前を斬り刻んで――!!」
リュウガに対する叫びは、最後まで響くことはなかった。
その最中に、再生したはずの双剣が再び叩き斬られたからだ。
驚きに言葉を失ったリエルはただただ唖然とすることしかできない。
リュウガが何をしたのか、どうやって自分の剣を叩き斬ったのか、何一つわからない彼女は、その手から折られた双剣を取りこぼすとわなわなと全身を震わせ始めた。
「あ、ああ、あ、ああああ……っ!?」
「……どうやら、彼我の実力差が理解できたようだな。心が折れた、と言った方が正しいか」
怒りでごまかしていた恐怖が、圧倒的な実力差を見せつけられたことで爆発した。
人間を超え、更なる進化を果たしたはずの自分がまるで歯が立たないという事実を前に、リエルは怯えの感情を抱くことしかできていない。
「どうした? かかって来ないのか、上位種? 自分より強い者に勇気を振り絞って立ち向かう……お前が見下している人間の子供ですらできたことだぞ?」
(何なのよ、こいつ……? この制服、さっき戦った五人組と同じ学校の生徒ってことでしょう? それなのにどうして、ここまで強いのよ!? わからない、わからないわ!!)
兄のトリルと一緒だったとはいえ、自分はつい先ほど、同じルミナス学園の生徒であるシアンたちを一方的に叩きのめしたはずだ。
あの時と違い、一対一の勝負だというのに……リュウガには、シアンたちを打ち倒した自分の強さが全く通用しない。
勝てないと、本能的に理解した。戦ってはいけない相手だと、そのことがようやくわかった。
目の前にいるこの青年は、強さというピラミッドにおいて自分よりも上位に存在する生物だと……そのことを理解したリエルは、恥も外聞もなく戦いの場から逃走し始める。
「いやああああああああっ!!」
「……そうだ、一つ言い忘れていた。随分と速さに自信があるみたいだが……僕は、お前より速いよ」
龍王牙を鞘に納めたリュウガが静かにそう呟きながら魔力を漲らせる。
自身の背後で雷光の如く弾ける魔力を感じ取ったリエルは、喉も裂けろとばかりにあらん限りの力を振り絞ると、大声で叫んだ。
「助けて! 兄さぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「嵐龍剣術・
全速力で逃亡するリエルの背を捉えたリュウガが、息を吐いた後で一歩踏み込む。
次の瞬間、まるで瞬間移動でもしたかのように彼女を追い越してみせたリュウガは、愛刀を鞘に納めながら静かに呟いた。
「――【
「あ、が、あ……っ!?」
キンッ、という鍔鳴りの音に遅れて、斬撃がリエルを襲う。
白目を剥き、全身を脱力させていく彼女の横を通り過ぎる最中、リュウガが口を開いた。
「お前は速かったのかもしれない。だが、それだけだ。僕の相棒はお前より速く、強く、そして動きが読めない。それに比べれば、速さにのみ頼ったお前など、欠片も怖くはなかったさ」
「が、ああ、あああああああっ!?」
リエルの体に黄金の雷が迸っていく。
光よりも速い斬撃を見舞われた彼女は、ようやくその威力の全てを身に受け、断末魔の悲鳴を上げながら大爆発にその身を飲まれていった。
「……上位種としての運命ももう終わりか。随分と儚い物語だったな」
魔鎧獣から人間に戻り、黒焦げになった状態のリエルが生きていることを確認したリュウガがその傍に落ちていたクワガタの角のような物体を刀で貫く。
そうした後で妹たちの下に向かった彼は、ユイを守ってくれたフィーへと声をかけた。
「フィーくん、大丈夫か? すぐに医者に連れていくから、もう少しだけ辛抱してくれ」
「ありがとうございます……やっぱりリュウガさんは強いなぁ……!」
「僕は勝てる相手に勝っただけに過ぎない。自分より強い者に諦めず立ち向かった君こそが、真の強者だよ」
フィーを抱え、ユイと共に歩き出したリュウガが妹の恩人に最大級の賛辞を贈る。
その言葉を聞きながらも、自分たちの下に駆け付けるよりも前に館内に蔓延っていた魔物たちを全員倒してきたリュウガの強さに感服したフィーは、そこではっとすると共に彼に尋ねた。
「そ、そうだ、兄さんは? 兄さんは今、どうしてるんですか……?」
「大丈夫、心配はいらないさ。ユーゴのことだ、今頃、人々を守るために戦っている頃だろうさ」
未だに通信は通じないが、自分も倒せた敵にユーゴが負けるとは思っていないリュウガがフィーを安心させるように言う。
今は兄として、妹を守ってくれた恩人の傷を治療することが最優先だと考えながら、彼はユイとフィーを連れて、安全地帯へと駆け出すのであった。
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