リュウガVSリエルLevel2

「殺してあげる! あなたたち全員、斬り刻んであげるわ!」


「……ユイ、フィーくんと一緒にそこで待っていろ。すぐに終わらせる」


 フィーの挑発と突如として割って入ったリュウガに邪魔されたことで、リエルは相当頭に血が上っているようだ。

 残像を生み出すほどの速度で動き回りながら、威圧するように壁や床に剣を擦らせ、傷を作りながら三人へと接近していった彼女は、怯え竦んでいるユイに狙いを定め、双剣を振り下ろしたのだが……横から伸びてきた刀に、容易くその斬撃を止められてしまった。


「なっ……!?」


「そうくると思ったよ。自分より弱い者しか狙えない、臆病者の取りそうな行動だ」


 平然とした様子でリエルの動きを見切ってみせたリュウガは、冷ややかな声で彼女を挑発してみせた。

 彼の挑発に更に頭に血を登らせたリエルは、ユイとフィーから狙いをリュウガへと変え、双剣での乱舞を繰り出していく。


「臆病者、ですって? 人間を超え、上位種へと進化を果たしたこの私を、臆病と罵るかっ!? 絶対に許さないっ! 許さないわっ!」


 両手に握る双剣を振り回し、リュウガを斬り刻むべく攻撃を繰り出し続けるリエル。

 二本の剣を一本の刀で受ける彼は防御が精一杯といった様子で、反撃に転じる暇もないようだ。


「ほらほらほらぁ! どうしたの? そんなことじゃあ、私の剣があなたの体をズタズタにしてしまうわよ!?」


 自身の優位を感じ取ったリエルが、余裕を取り戻した声で吼える。

 リュウガを着々と追い詰めていきながら、彼女はこれまでの仕返しとばかりに彼を嘲り始めた。


「格好つけて妹のピンチに駆け付けた割には、何もできていないわね!? 助けて、お兄様! だなんて無様に泣き喚いたあの子の姿はとてもとても滑稽だったわ! あの子の目の前であなたを斬り殺してあげたら、どんな顔をするのかしら? きっと絶望に染まった表情を見せてくれるんでしょうね!!」


「………」


 嵐のように振るう刃を捌きながら、黙ってリエルの挑発を聞き続けるリュウガ。

 彼が自分に成す術なく追い詰められていると確信している彼女は、ニィッと笑うと……彼にではなく、彼の最も大切な者を嘲る一言を発した。


「ああ、でも……そうでもないかしら? だってあの子、目が見えないんでしょう? じゃあ、大好きなお兄様が殺されてもわからないかもしれないわね! 良かったじゃない、自分の無様な死に様を妹に見せずに済んで!」


「………」


「あの子も、あなたもそうよ! 弱者は強者の糧となる、それが世界の真理、この世の運命! あなたたちは私たちに蹂躙される運命なの!!」


 その叫びと共に、リエルが振るう双剣の勢いを更に激しくする。

 剣劇の音が鳴り響く中、どんどんリュウガを押し込んでいく彼女は、勝利を確信して叫びを上げた。


「さあ、これで終わりよ! あなたの次は、あの目が見えない失敗作の妹を始末して――え?」


 リュウガの首を刎ねるべく、X字を描くように双剣を振るったリエルであったが……その手に伝わってきた感触に違和感を覚え、戸惑いの声を漏らした。

 振るおうとした双剣の刀身が、途中からぽっきりと折れている。いや、折れているのではない。途中からすっぱりと斬り落とされているではないか。


 鋭利な刃物で叩き斬られたとしか思えないその切り口を目にしたリエルは、一瞬何が起きたかわからなかった。

 しかし……その直後に本能が警鐘を鳴らすほどの殺気を感じた彼女が全身から冷や汗を噴き出すと共に、何が何だかわからない内に壁に叩きつけられる。


「がっはっ! え? えっ……?」


「思ったより頑丈だな。これなら、もう少しだけ本気を出しても良さそうだ」


 リエルの肺から漏れ出した息と困惑の声を聞きながら、彼女の様子を確認したリュウガが静かに呟く。

 肉体的なダメージはそうでもないが、理解できない間に壁に叩きつけられたことへの精神的ショックで心を強く揺るがされた彼女は、自分を見つめるリュウガへと愕然とした視線を向けた。


「……ユイとフィーくんの前だ、本気を出し過ぎてお前の体を真っ二つにしてしまうのも良くないだろう。だから、どの程度の力で戦ってやれば殺さずに済むのか試していたんだが……少し頭に血が上った、ここは反省だな」


「て、手加減してた、ですって? そんな、まさか……!?」


 こんなものは偶然だと、ただのハッタリだと、そう言いたかった。

 しかし、最初からリュウガが自分の動きを見切り、ユイへの攻撃を防いでみせたことを思い出した彼女は、先ほどまでとは違った意味で余裕を失うと共に、言葉も失っていく。


 吹き飛ばされる寸前、彼は繰り出される双剣を一太刀で叩き斬り、そのまま自分へと一撃を繰り出したのだと……自分が何をされたのかということと、その動きを全く感知できなかったという事実を理解した彼女が握り締めた拳を震えさせる中、リュウガが淡々と言う。


「弱者は強者の糧となり、蹂躙される運命さだめ……お前はそう言っていたな。なら、お前より強い者として、こう言ってやるよ」


 静かに、刀の切っ先を討つべき敵へと向ける。ゆらりと、怒りを込めた青い炎のような魔力を立ち昇らせる。

 一切の慈悲を感じさせない表情を浮かべながら、その目に魔鎧獣の姿を捉えたリュウガは、ただ一つの事実を突き付けるようにしてリエルへとこう言い放った。

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