フィーとユイを探せ!

「まったく! お前と一緒だと退屈しないな! 行く先々で騒動に巻き込まれる!!」


「弄んないでくれよ、マルコス! 自分でも結構気にしてるんだからさ!」


 シアンのパーティが魔鎧獣兄妹によって全滅させられたのと同じ頃、ユーゴたちもまた突然出現した魔物たちと激しい戦いを繰り広げていた。


 最初は巨大な甲虫といった風貌だった魔物が、突如としてゴブリンじみた人型のそれに変化したことを驚く彼らであったが、それでもやることは変わらない。

 幸いにも進化した魔物たちの強さはそこまででもなく、最後の一体をマルコスとの抜群のコンビネーションで粉砕したユーゴは、周囲の安全を確認すると共に仲間たちと自分たちの近くにいた初等部の生徒たちへと声をかける。


「とりあえず、この辺にいた奴らは倒せたみたいだ。でも状況がまるでわからねえ。何がどうなってるんだ?」


「通信機も使えなくなってる。ちょっと前にシアンたちが二体の魔鎧獣と戦闘に入るって連絡が来たっきり、何の反応もなくなっちまったよ」


「シアンたちが、か……あいつらが勝ってくれてればいいけど……」


 元凶と思わしき魔鎧獣との戦っているシアンたちの勝利に期待するユーゴであったが、似たような事件であるラッシュの件を考えると、仮に彼らが勝ったとしても魔鎧獣が生み出した魔物たちはそのまま消滅したりはしないのだろう。

 そう簡単にこの騒動が治まらないことを予想したユーゴへと、不安気なメルトが言う。


「ねえ、確かシアンたちが所属してるグループって、ユイちゃんとフィーくんも一緒だったはずだよね? じゃあ、二人は今、魔鎧獣の近くにいるってことなんじゃ……!?」


「キャッスル先生が引率してくれているとはいえ、不安だね。全員、無事だといいけど……」


 それはユーゴも不安に思っていたことであった。

 今、弟たちのすぐ傍では、この事件の犯人と思わしき魔鎧獣たちがシアンたちと戦いを繰り広げている。

 ただでさえ不安で仕方がないというのに、戦いの最中に突如として姿を変えた魔物たちを見ているユーゴは、その異常事態に更に不安を煽られていた。


 どうやらそれはリュウガも同じのようで、表情にどこか苦しさがにじみ出ている。

 今すぐに弟たちを助けに行きたいと思いながらも、保護した初等部生徒たちのグループを安全地帯まで送り届けなければならないという状況に板挟みの苦しみを味わうユーゴであったが、そんな彼へとマルコスが言う。


「ふん……! 何をぼさっとしている。そんなに心配なら、とっととフィーとユイを探しに行けばいいじゃないか」


「マルコス、でも……!」


「でも、なんだ? あのグループを安全地帯まで護衛しなければならない、か? それとも、私たちだけでは何かあった時不安だとでも言うのか? あまり私を見くびるなよ、ユーゴ。弟妹の安否に気を取られて集中できないお前たちがいても邪魔なだけだ。この子供たちの護衛は私たちが引き受けてやるから、お前たちはとっとと二人を探してこい」


 はんっ、と鼻を鳴らしながらユーゴとリュウガへと放ったマルコスの言葉に、メルトとアンヘルも笑みを浮かべながら頷いてみせる。

 冷たく突き放すようではあるが、自分たちのことを気遣ってくれている彼の気持ちを汲み取ったユーゴは、マルコスへと感謝を述べながら大きく頷いた。


「ありがとう、マルコス。そっちはみんなに任せたぜ」


「ああ、任せろ。お前たちは、お前たちの大切な者を守りに行け」


「ユーゴ、これを。役に立つかはわからないが、ある方がないよりかはマシだろうさ」


 そう言いながら、基本ポジションである胸の谷間から通信機を取り出したアンヘルがそれをユーゴへと手渡す。

 改めて仲間たちへと感謝を伝えた後、ユーゴはリュウガと共に駆け出していった。


「……君はいい友人を持った。本当に、そう思うよ」


「まあな。フィーと並ぶ、俺の数少ない自慢だ」


 緊急事態でも力強く自分たちを送り出してくれる仲間たちに感謝しながら、館内を疾走する二人。

 その途中、分かれ道に差し掛かったところで足を止めた彼らは、顔を見合わせてから口を開く。


「どっちにフィーとユイちゃんがいるかはわからねえ。ここは、手分けした方が良さそうだな」


「同意見だ。ユーゴ、さっきアンさんから受け取った通信機……じゃなくて、最初から君が持ってる方を貸してくれ」


 苦笑を浮かべながら、アンヘルの胸の谷間に挟まっていた方ではなく、自分が所持していた通信機をリュウガへと放り投げるユーゴ。

 そうした後でそれぞれの館に続く分かれ道に立った二人は、お互いに信頼を寄せあいながら言う。


「二人を見つけることもそうだが、襲われてる人たちを助けることも忘れないようにな」


「了解だ。通じるかはわからないが、何かあったら通信機で連絡を取るようにしよう。気を付けてね、ユーゴ」


「そっちこそな、相棒」


 握った拳を打ち合わせた後、ユーゴとリュウガがそれぞれの道へと駆け出していく。

 助けを求めている人々、そして妹と弟の姿を探し、二人は喧騒の渦へと飛び込んでいくのであった。

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