Evolution Level 2/舐めプの報いを受ける主人公たちの話
「なんだ、お前ら……その、姿は……!?」
光の中から姿を現したトリルとリエルを目にしたシアンは、思わず二人にそう尋ねていた。
今の二人は自分の知らない、『ルミナス・ヒストリー』に出てきたことのない、全く未知の存在と化している。
先ほどまでの二人は甲虫が二足歩行になったような、そんな姿をしていたが……今はそれよりもずっと、人間に近しい姿をしている。
兄のトリルは黒光りする外殻を一層膨らませ、堅固にしたかのような鎧を纏っており、右手に巨大な剣を、左腕には手甲と一体化したバックラーを装備していた。
妹のリエルの方は女性用の鎧を思わせる胸の膨らんだ細身の黄金の鎧を着て、両手に一対の双剣を握り締めている。
顔は人に近しいが明らかに怪物とわかる二人は、頭部の角も一回り大きく成長させた、人間としての肉体に近付きながら魔物の力をより強く抽出したかのような魔鎧獣へと変貌し、シアンたちの前に姿を現したのだ。
体の傷も完全に消滅しており、二人の体力が回復していることを見て取ったシアンとエゴスが予想外の事態に思考を停止させる。
彼らの仲間たちは焦りを募らせながら、リーダーであるシアンの指示を促すようにして叫んだ。
「シアン、指示を出して! あいつらとどう戦うべきか、命令を――えっ?」
指示を求めてシアンに声をかけたピーウィーは、その最中に視界に捉えていたリエルの姿が消えたことに驚きの声を漏らした。
油断なく見張っていたはずの敵が、あの目立つ黄金の輝きがほんの一瞬の間に姿を消したことに驚いた彼女であったが、次の瞬間にリエルが自分のすぐ近くに出現したことに気付き、更に強い驚愕を覚えながら恐怖に顔を引きつらせる。
「ふふふっ、あははっ!!」
「あぐっ!?」
「ぴ、ピーウィーっ!?」
まばたき一つの間に起きた出来事だった。シアンもエゴスも、全く身動きできなかった。
一瞬の内にピーウィーへと接近したリエルが手にしている双剣を振るい、彼女へと鋭い斬撃を見舞う。
防御の薄い魔法使いであるピーウィーは回避も防御もできないまま斬り刻まれ、魔力障壁を貫通して服と体に無数の切り傷を刻まれた後に、その場に崩れ落ちた。
「て、てめえ、よくもピーウィーをっ!!」
仲間の一人を倒されたヴェルダが、恐怖を上回った激憤のままに叫ぶ。
そのまま、ピーウィーを倒したリエルへと襲い掛かろうとした彼であったが、その前にトリルが立ちはだかった。
「邪魔だっ、退けぇえっ!!」
割り込んできたトリルへと、突進の勢いを活かした拳を叩き込もうとするヴェルダ。
魔力を込め、右拳を握り締め、渾身の一撃を魔鎧獣へと打ち込む彼であったが……トリルは微動だにせず、余裕たっぷりの声で彼へと問いかけてくる。
「これが君の全力ということであっているかい? 先ほどまでは随分と痛かったはずが……どうやら、私たちは強くなり過ぎてしまったようだな……!」
「なっ!? ぐべえっ!?」
自分の全力の一撃がクリーンヒットしたというのに、一切ダメージを受けていないトリルの様子に驚愕したヴェルダは、次の瞬間にバックラーで殴り飛ばされて気を失ってしまった。
自分たちの中で最大の体力と防御力を誇る彼が一撃で倒されてしまったことに愕然とするシアンとエゴスへと、進化した兄妹が不気味な声で言う。
「素晴らしい力だ。これがレベル2の力か……!!」
「レベル2だって……? な、なんだよ、それ?」
「ふふふふふ……! あなたたちは私たちの進化を促してくれた恩人だから教えてあげるわね。魔鎧獣の力を得た者は、人間を超えた存在になれる……だけど、そこで終わりじゃあない。度重なる力の行使によって人間の肉体が魔鎧獣の力に適合するようになった時、その人間は更なる力を引き出せるようになるの。それがレベル2。人間を超えた存在を更に超えた、大いなる進化を果たした生物の形よ……!」
「ふ、ふざけるな! そんな、そんな力、俺たちは――っ!!」
エゴスが何を言いたかったのかははっきりとはわからない。
俺たちは知らないか、あるいは認めないとでも言おうとしたのだろう。
そう言うよりも早く、彼はシアンと共に兄妹へと飛び掛かっていた。
自分たちの知識を超えた存在であり、本来のシナリオに出現するはずのない異物となった彼らを排除しなければならないという本能が、そうさせたのかもしれない。
斧を手にトリルへと挑みかかるエゴスと、リエルへと槍で刺突攻撃を繰り出すシアン。
だがしかし……このイベントに備えて鍛えたはずの二人の力は、レベル2に到達した魔鎧獣たちには遠く及ばなかった。
「ふんっ!!」
「ぐああああっ!?」
エゴスの斧での一撃を、トリルがバックラーで悠々と受け止める。
そのまま軽い動きで相手の武器を
「あははははっ! 遅い、遅いわっ!!」
「ぎゃああああっ!?」
そして、シアンの攻撃を簡単に見切ったリエルもまた、彼に急接近すると共にすれ違いざまに双剣での乱舞を見舞う。
先ほどピーウィーがやられたように、全身をズタズタに斬り刻まれたシアンもまた魔力障壁を粉砕され、その場に力なく崩れ落ちる。
ほんの一瞬のやり取りの中で、主人公である二人は魔鎧獣の手であっさりと倒されてしまった。
「あ、ああぁ、あ……っ!?」
唯一残されたネリエスは、仲間たちや信頼していたリーダーが敗れたことで完全に戦意を失っているようだ。
その場にへたり込み、目に涙を浮かべる彼女は、恐怖のせいか失禁までしてしまっている。
そんなネリエスの下へと近づいたトリルとリエルは、暫し黙ったままじっと彼女を見下ろすと……傲慢な優しさに満ちた声でこう言った。
「安心したまえ、君たちには進化を促してもらった恩がある。命を奪ったりはしないよ」
「お友達を連れてお逃げなさい。今回は許してあげるわ」
「あ、あ、あ……ありがとうございます! ありがとうございます!」
恐怖と安心感でぐちゃぐちゃになった感情のまま、土下座の格好になったネリエスが兄妹へと見逃してもらったことへの感謝を大声で叫ぶ。
自分たちに平伏する彼女の姿を楽し気に見つめるトリルとリエルは、たっぷりと優越感を味わいながら再び口を開いた。
「そう、それでいい。お前たちは上位種への進化を果たした私たちに平伏し、媚びて生き続けろ。それが進化できない人間に相応しい行いだ」
「人を見下すのっていい気分ね、兄さん。この力を使って、私たちを馬鹿にした連中に思い知らせてやりましょう。本当に愚かなのはどっちだったのかってことをね……!」
歪んだ進化によって得た、歪んだ征服感が兄妹を力に溺れさせていく。
傲慢で不遜な存在へと化した二人は、それこそが上位種へと進化した自分たちの特権であると言わんばかりに悠々と館内を闊歩し、次なる獲物を探し始めた。
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