質問はするが答えは聞いてない

「ユーゴ、どういうことだ!? どうしてヤマトの戦巫女がお前に声をかけてきた!?」


「わ、わかんねえよ。興味が湧いたって言ってたけど、どこにどう興味を持ったのかはわかんねえし……」


「あちらさん、大分お前のことを気に入ってたみたいだな。フラれたっていうのに諦めてないし、相当気になってるみたいだぞ?」


「……二人で会うの? あの戦巫女と? デートするつもり!?」


「そ、そんなんじゃねえよ! ただ、相手はヤマトからの留学生だし……無下にするのもそれはそれでマズいだろ?」


「むぅぅ……! それはそうだけど、なんか納得できない……!!」


「してくれって! 頼むから!!」


 仲間たちからの質問攻めとメルトからのやきもちに晒されるユーゴが懇願するように叫ぶ。

 そんな中、ユーゴの陰に隠れていたユイに近付いたリュウガは、怯えている彼女へと静かに質問を投げかけた。


「ユイ、どうかしたのか?」


「お兄様、先ほどの男性たち……シアンさんとエゴスさん、といった二人組ですが、その……あまり、信用しない方がいいと思います」


 おずおずとした態度で自分にそう告げる妹の様子に、目を細めるリュウガ。

 人の魂を視ることができるユイの能力を十二分に理解している彼は、小さく頷くと共に再び妹に尋ねる。


「そんなに恐ろしい魂だったのか? お前が、そこまで警戒するほどに……?」


「……上手く言えませんが、とても歪な魂が見えました。なのです。名品と呼ばれる茶器の中に、汚水を注ぎ込んだような……そんな不自然さが感じられました。こんなの、初めてです……」


 ユイの話を聞いたリュウガが、セツナを追ってシアンたちが去っていった方を見やる。

 歪……という妹の意見には、兄であるリュウガも心の底から同意せざるを得なかった。


 戦巫女に実力を見せる試験の際や今のやり取りの中で彼が見た限り、あの二人は決して人に褒められるような性格をしているとは思えない。

 確かに指揮能力や実力に関しては優れたものを持っているのかもしれないが、彼らとユーゴ、どちらがクズかと聞かれればリュウガは迷わず前者を選ぶだろう。


 おかしいのはそれだけではない。話を聞く限り、英雄候補と呼ばれる生徒たちは高等部からの編入組らしいが……それにしても、ユーゴのことを嫌い過ぎている。

 ユーゴの前評判を聞いてある程度警戒するのは仕方ないとは思うが、しつこく彼を攻撃するあの様子からはユーゴに何か恨みがあるとしか思えないくらいだ。


 いったい、ユーゴはどこで彼らの恨みを買ったのだろうか?

 エゴスに関しては以前のトラブルから険悪な仲になったと聞いているが、それ以外の英雄候補はどうして彼を恨んでいるのかがわからないでいる。


 そして、何より不思議なのは……そんな英雄候補たちのことを、多くの生徒や教師たちが信用し、祭り上げていることだ。

 ここに関しては全くもって意味がわからない。歪という妹の表現があまりにもしっくりきてしまっている。


 この学園はどうなっているのか? あまりにも異質な状況に困惑するリュウガであったが……そんな彼へと、ユーゴが焦った様子で声をかけてきた!


「リュウガ! 俺たち相棒だよな!? 俺のピンチにはお前が救いの手を差し伸べてくれるよな!? 今、俺は結構ヤバい状況に追いやられてるんだ! 助けてくれ! ヘルプ!! ヘ~ルプ!!」


 どうやらユーゴは仲間からの質問攻めに耐え切れなくなったようだ。

 自分へと救いを求める相棒へと、お決まりの台詞で返そうとしたリュウガであったが……?


「……ユーゴ、悪いが今は考え事の最中だ。僕に質問を――」


「答えは聞いてない! 俺のこと、助けてくれるよな? なっ!?」


 右手を銃のような形にしたユーゴが、リュウガの声に被せるようにしてその反論を潰す。

 救いを求めているはずなのに随分と強引な彼の態度にふっと鼻を鳴らして笑ったリュウガは、仕方がないと諦めのため息を吐いてから相棒を助けに向かうのであった。






「正気でござるか、セツナ!? よりにもよってあのような男に興味を示すだなんて……!!」


「あら、何か問題があるかしら? 別に心配されるようなことはしてないと思うけど?」


 一方、ユーゴに二人きりでの話し合いを拒まれたセツナは、それを知ったサクラから半ば責められるような言葉を投げかけられていた。

 結構ヒートアップしているサクラに対して、セツナは慣れた様子でさらりと対応していく。


「ニーラ殿がおっしゃっていたでござろう!? あのユーゴ・クレイという男は問題ばかり起こす不良生徒で、ほいほいと女子に手を出すような不埒な男であると! そんな男と逢瀬などしたら、あっという間に押し倒されてそこから純潔を散らすことに……! あわわわわ……!?」


「随分と想像力が逞しいわね、サクラ。大丈夫よ、下調べはしてあるし、そもそも他国からの留学生に軽い気持ちで手を出すような馬鹿がいるわけないじゃない」


「そういう可能性が十分にある男だから教師陣も警戒して、我々に忠告してくれたのでござろう!? セツナ~、あの男だけは止めておくでござるよ~! せめてニーラ殿が推薦してくれている武士もののふたちの中の誰かなら拙者も安心できるでござるから~! 探せばもっと紳士的な男性は山ほどいるはずでござる! 俗にいう、じぇ、じぇ……あれ?」


「……ジェントルマン、でしょう?」


「そうそう、それそれ!! じぇんとるまんを探した方がいいでござるって!」


 ユーゴの評判を聞いているサクラは、女癖も他人に対する態度も悪い男と親友が関わることを良く思っていないようだ。

 しかし、セツナはそんな彼女からの忠告に対して、笑みを浮かべたままこう答えてみせる。


「大丈夫よ、サクラ。どうやら、聞くと見るとは大違い、ってやつらしいわよ? さっきも私の誘いより、友人と兄弟との約束を優先したし……資料に書いてあった、記憶喪失になったことで性格が大きく変化したって話は本当みたい。私たちが聞いた彼の評判は過去の物と思った方が良さそうね」


「それでも心配でござるよ~! 万が一、セツナの身に何かがあったら……!!」


「そんなふうに心配してたらきりがないわ。折角、留学生として他国に来ているんだもの、思い切って動いた方が楽しいじゃない。こっちの先生たちが勧めてくる英雄候補たちにはあまり興味が湧かないし、それに……」


「……それに?」


 親友が意味深に切った言葉の先を促すように、サクラが首を傾げながら言う。

 そんな彼女の方を振り向きながら、セツナは頬笑みを浮かべ、答えた。


「……彼とは、趣味が合いそうだもの」

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