戦巫女からのお誘い

「うえっ!? お、俺……っ!?」


 予想だにしていなかった展開に、思わず困惑の声を漏らしてしまうユーゴ。

 彼の背後にいるフィーやユイも、近くのリュウガたちも、華麗にスルーされたシアンとエゴスも、揃って唖然とした表情を浮かべる中、セツナが続ける。


「面白い反応をするわね。普通は喜ぶところだと思うのだけれど」


「い、いや、なんで俺なんだろうなって……正直、欠片も予想してなかったんで……」


「ふふっ……! 変なことを言うわね。十分、こうなる可能性はあったはずよ?」


 そう言いながら笑みを強めたセツナが、ユーゴの顔に自身の顔を近付ける。

 お世辞抜きで美人である彼女が更に距離を詰めてきたことに驚き、赤面する彼に対して、セツナは囁くような小さな声でこう言った。


「あなたは、リュウガ・レンジョウと協力してあのギガンテスを倒した。その実力に興味を持つ者が現れるのは、当然のことでしょう?」


 そう、簡潔に理由を伝えたセツナがゆっくりと顔を離していく。

 ギガンテスの暴走事件はあの日、あの場所にいた者たちの間だけの秘密だというウノの話を思い出したユーゴは、セツナが顔を近付けてきた理由を理解すると共に軽く安堵のため息を吐く中、はっとしたシアンたちが待ったをかける。


「ま、待つんだ、セツナさん! そいつは、ユーゴ・クレイは、学園一のクズ!! ヤマトからの留学生である君が関わりを持つべき人間じゃあない!!」


「そうだ! 悪いことは言わないから、そいつだけは止めておいた方がいい!!」


 記憶喪失前のユーゴの性格から考えれば、その忠告は至極当然のものなのだが……この二人の所業を知っているユーゴ本人からしてみると、どの口が言うんだと反発したくなる。

 さりとてそんなことをしても事態が厄介になるだけだと考えた彼が口を挟まずにいる中、セツナはシアンとエゴスをまたしてもスルーするとユーゴへと言う。


「昆虫館の近くだからか、羽虫がうるさいわね。ここじゃ落ち着いて話もできないわ。良ければ二人きりで話がしたいのだけれど……どうかしら?」


「は、羽虫……っ!?」


 完全に相手にされないどころか、虫扱いされたシアンとエゴスがショックを受けた様子で固まる。

 冷徹を通り越して残酷といって差し支えないレベルの対応を見せるセツナに対して、ユーゴは若干緊張しながらこう問いかけた。


「こ、コガラシさん? 自分で言うのもなんですけど、あの二人は間違ったことは言ってないと思いますよ? 俺、結構評判悪いですし……」


「ええ、知っているわ。ちゃんとあなたについて調べてきたもの。確かにあなたは多くの学生たちからクズとして忌み嫌われている。でも、最近のあなたが魔鎧獣絡みの事件を多く解決し、一部の教師や生徒たちからの信頼を得ていることは確か。何より、まだあなたと出会って間もないはずのリュウガ・レンジョウが、肩を並べて戦う相棒としてあなたを認めた。私には、そんな人間がただのクズだとは思えないのよ」


 興味と好奇心、セツナの瞳に浮かんでいる感情がそれだ。

 その二つの感情を向ける対象であるユーゴを瞳の中に映し出す彼女は、微笑みを浮かべながら彼を試すようにして言う。


「特別扱いは好きじゃないから、敬語はなしでいいわ。それと、私も名前で呼んでるんだから、あなたもそうして。それで? 私からのデートのお誘いを受けてくれるのかしら? あなたさえ良ければ、休憩時間も話してみたいのだけれど……」


 距離をかなりの勢いで詰めながら、デートという言葉まで使ってみせたセツナがユーゴを誘う。

 しかし……そんな彼女の態度に逆に冷静さを取り戻したユーゴは、慎重に言葉を選びながら断りの返事を口にした。


「こんな俺に興味を持ってくれたことは嬉しいし、光栄に思ってる。だけどごめん、今日は無理だ。今は相棒……リュウガを友達に紹介しなくちゃなんねえし、休憩時間は弟たちと一緒に過ごすって約束がある。悪いが、話をするのはまた今度にしてくれ」


「ふふっ……! そう。先約があるのなら仕方がないわね。それじゃあ、今回は素直に引き下がらせてもらうわ。また次の機会にゆっくりと話をしましょうね、ユーゴ」


 フラれてしまったというのにどこか嬉しそうな反応を見せるセツナが、笑みを浮かべたままユーゴの下を去っていく。

 シアンとエゴスもまたそんな彼女に相手をしてもらおうと後を追って行った。


 残されたユーゴが何とも言えない表情を浮かべる中、そんな彼の下に近寄ってきた仲間たちが口々に声をかけてくる。

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