君はこの弱点、どう克服する?

「……はい、その通りです」


 ファイティングポーズを解き、肩を落として項垂れたミザリーがユーゴの言葉を肯定する。

 ブラスタを解除したユーゴが彼女へと歩み寄る傍で、ここまでの手合わせを見守っていた仲間たちがフィーへと言葉をかけていった。


「これでフィーもわかっただろう? ミザリーの弱点は、魔力不足からくる攻撃力の低さだってことがさ」


「はい……シンプルな戦い方と魔道具だからこそ、その欠点が強く影響してしまっているんですね……」


「そういうことだね。私のスワード・リングで作った剣もそこそこ脆いけど、遠距離攻撃主体って部分がミザリーと大きく違う。何より、接近戦での決めの一発が不発に終わると、そこから一転してピンチになっちゃうってところが最大の違いだよ」


 魔力を込めて攻撃力を強化する魔道具と、軽打で隙を作り出し、そこに強烈な一発を叩き込むという、双方が共にシンプルな戦い方だからこそ浮き彫りになってしまうミザリーの弱点。

 溜めに溜めた右での一撃が通用しないという残酷な現実に直面する彼女をフォローするように、フィーが言う。


「でも、あれは兄さんがミザリーさんの苦手なタイプの相手だっていうこともあるでしょう? 鎧を着てる敵なんてそうそういませんし、そもそも魔導騎士の相手は魔鎧獣が相手なんだから、そこまで気にしなくてもいいんじゃないですか?」


「確かに、アラクロやトードスティンガーといった平均的なタイプの魔鎧獣が相手ならば問題はあるまい。しかし……あの黒い蟹の魔鎧獣のような硬い甲殻に身を包んだ敵や、物質系の魔物が相手の場合はどうだ?」


 フィーの言う通り、ミザリーの攻撃が通じる相手も十分に存在している。

 しかし、逆に彼女の攻撃が全く通じない相手も多々存在していることも事実だ。


 魔導騎士として戦う以上、この相手には自分の攻撃が通じないので逃げます、というような話は許されない。

 高い防御力を持つ魔鎧獣たちに苦戦することが予測されるミザリーには、その弱点を克服する必要がある。


 そして……もう一つ、彼女には大きな弱点があることにもユーゴは気が付いていた。


「これは火力不足が起因だとは思うんだが、ミザリーは一対一の戦いに特化し過ぎている。仮に複数対一の状況になったら、かなりの苦戦を強いられると思うんだ」


「……はい。その部分にも気付いていました」


 ミザリーのもう一つの弱点。それは、同時に戦える相手が一人だけということ。

 高速格闘戦を挑むという戦法上、ミザリーは攻撃を一体だけに集中させる必要がある。そして、軽打を繰り返してトドメの一撃を繰り出すまでの時間があまりにも長過ぎた。


 一対一の場面ならばそれで問題はないが、魔鎧獣は群れを成していることが多い以上、どちらかといえば相手の数の方が多い状況に直面することの方が多いだろう。

 しかも、そうやって時間をかけた上で繰り出したトドメの一撃が火力不足とくれば、ミザリーが一体の敵を相手にし続ける時間はその分長くなってしまう。


「複数の敵と同時に戦うための術もなく、火力も足りない。これが私が抱えている弱点です」


「う~ん、そうだなぁ……」


 正直、かなり厳しいと言わざるを得ない。ミザリーの弱点を一言で表してしまえば、基礎能力が足りていないということになってしまうのだから。

 そこをどう解決するかがポイントとなるわけだが……仲間たちもその部分を解決すべく、色々な案を出してくれていた。


「ワスプニードルに魔力を込め続けて、針を常時伸ばした状態で戦うっていうのはどうですか? 剣を使って戦うみたいな……」


「いや、それは厳しいだろう。実体剣と魔力で作り上げた剣とでは強度が違う。それで打ち合うというのはかなり難しい話だ。そもそも、それでは彼女の持ち味である軽打を活かした戦いができなくなる」


「ただ、その軽打も人間に比べて強靭な肉体を持つ魔物たちには通じない可能性の方が高い。そうなると、ミザリーの戦法そのものが破綻しちまうわけだし、フィーの案を取り入れてもいいんじゃないかとアタシは思うがね」


「いっそ戦法を遠距離主体に変えちゃう……っていうのも難しいよね? あくまで差し込みのための技であって、あれをメインに戦いを組み上げるのは無茶があるか」


 仲間たちも様々な解決案を出してくれているが、どれもしっくりこないといった感じだ。

 少し考えこんだユーゴは、俯き気味になっているミザリーへとこう問いかける。


「なあ、ミザリーはここまでだったらファイトスタイルを変えてもいいかな、って思えるラインはあるか?」


「ファイトスタイルを変える、ですか……」


「ああ。可能性を模索するためにも、色々と試すべきなんじゃないかなって俺は思ってる。だから、ミザリーが許せる限りで試行錯誤してみたいんだけど……どう思う?」


 その問いかけに対して、暫し悩んだ後でミザリーはこう答えた。


「私は……できるならば、このスタイルで戦いたいです。我がままだとは思いますが、この戦い方には私のが詰まっていますから……」


「……そうか、わかった。じゃあ、その方向で鍛えていくか!」


「はい。よろしくお願いします」


 ミザリーの答えを聞いたユーゴが、彼女の意志を尊重した上で決断を下す。

 しかし……それが無謀な挑戦であることは、間違いなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る