組み手!浮き彫りになる弱点!

「よっしゃ! 手合わせ開始といこうぜ! どっからでもかかってこい!」


「はい。よろしくお願いします、師匠。ですがその前に一ついいですか?」


「ん? どうした?」


 翌日、仲間たちと共に訓練場へとやって来たユーゴは、ミザリーとの手合わせに臨もうとしていた。

 戦闘準備はバッチリ、となったところで手を挙げたミザリーは、手合わせを見守る仲間たちの一人を指差し、口を開く。


「あの人、誰です? 昨日はいなかったと思うのですが……?」


「あ~……大丈夫だ! ちょっとやかましいけど面白いし悪い奴じゃないから、心配すんな!」


「誰がやかましくて面白い奴だ!? 終生のライバルだとか最大の友だとか、もっといい紹介があるだろう!!」


「……いや、この上なく正しい紹介だと思うけど」


「同感だよ、まったく」


 昨日の話し合いに参加していたメンバーの中にちゃっかり混じっているマルコスがユーゴの言葉に反応してツッコミを入れる。

 ただまあ、間違いなく彼はやかましくて面白い奴であるため、マルコスの叫びに同意する者は一人もいなかった。


「っていうか、マルコスはなんでここにいるの? どっから話を聞きつけたわけ?」


「ふははははは! ライバルの動向を見逃す私ではないのだよ!」


「うわぁ……まるきりストーカーじゃん……」


「フィー、お前はあんなふうになっちゃダメだぞ。お姉さんとのお約束だ」


「あ、はい……」


「……本当に愉快な方ですね」


「だろ? 付き合ってみるといい奴だってこともわかってもらえると思うぞ!」


 キャラが濃いマルコスのことをオブラートに包んでそう評したミザリーへと、無邪気にそう述べるユーゴ。

 笑みを浮かべながら彼女と話を続けた後、彼は息を吐いてから改めて戦いの構えを見せる。


「んじゃ、始めるか。遠慮せずに全力でぶつかってきてくれ」


「はい、最初からそのつもりです」


 ブラスタを展開し、ミザリーと向き合ったユーゴが彼女を注意深く観察する。

 ミザリーは右手にワスプニードルを装着し、左腕にも手を保護するためのガントレットを着けていた。


 顎の高さまで持ち上げた左手を前に出し、右手を軽く引いている状態で両方の手を緩く握り締め、こちらを見据えるミザリー。

 彼女の構えと装備を見たユーゴは、この時点である程度ミザリーの戦い方についても予測をつけていた。


「……いきますっ!」


 開始の合図と共に引いていた右腕を前に出したミザリーがワスプニードルから魔力で作った針を飛ばす。

 牽制の遠距離攻撃を弾いたユーゴは、その間に接近してきた彼女の攻撃を捌きつつ、その戦い方が自分の予想と合っていることに小さく頷いた。


(遠距離攻撃と左腕での軽打で相手の隙を伺いつつ、右手の一発で仕留める……オーソドックスだけど、しっかり鍛えられてるな)


 ミザリーの戦い方は格闘術の基本にも近しいものだ。

 牽制の左と必殺の右、左右の手にそれぞれの役目を持たせ、それを果たせるように動き続けている。


 ジャブの連打で相手を消耗させ、隙を作り、そこに魔力を込めたワスプニードルでの一撃を叩き込む……という戦い方は、彼女の魔道具と同じシンプルだが有用な戦術だ。

 パンチの速度も足捌きも問題ない。様子見のために反撃をしないようにしているとはいえ、ミザリーの左の連打の速度はユーゴが舌を巻くレベルだ。


「ふっ! しっ!!」


「……速いな。初手の遠距離攻撃から一気に相手の懐に飛び込む動きもそうだったが、戦い方に無駄がない」


「そうだね。トドメの一発を叩き込むために組み上げられてる、基本に忠実な動きだと思うよ」


「どうしてあれで実力がいまいちだって話になってるんだろう……?」


 マルコスとメルトの評価を聞き、兄と戦っているミザリーの姿を見たフィーは、改めて彼女が自分を弱いと言っている理由に疑問を抱いた。

 確かに今、ユーゴが敢えて反撃をしないように立ち回っているお陰でミザリーが一方的に攻められているという部分はあるだろうが、それにしたって彼女の動きは戦いの素人である自分からも洗練されているように見える。


 あの速度と動きの習熟度ならば対処は難しいだろうし、それでどうして伸び悩んだりしているのだろうか……とフィーが考え込む中、ミザリーの猛攻を受けるユーゴが彼女と距離を取るべく背後へと飛び退いた。


「今っ!」


 その瞬間、確かな攻撃のチャンスを感じ取ったミザリーが右腕のワスプニードルへと魔力を込める。

 最大で直剣並みにまでできると言っていた通り、針先から黄色い魔力を伸ばした彼女は息を吐きながら一気に突進すると、ユーゴの胸元目掛けて溜めに溜めた右腕での一発を繰り出した。


「パワード・スティンガーっ!!」


 ……本当にいい動きだったと、フィーは思った。

 一瞬の隙を見逃さずに狙っていた通りの攻撃を繰り出したミザリーは、自分のファイトスタイルを確立し、それに則った戦い方ができている。


 だが、しかし――


「うっっ!」


「えっ……!?」


 ――パリィン、というガラスが割れるような音が響いた。

 自分の目の前で、ユーゴへと叩き込まれたはずのミザリーの必殺の一撃……魔力を込めて延長したワスプニードルの針先が音を立てて砕け散る様を目にしたフィーは、驚きに目を丸くしながら呻く。


 ミザリーもまた悔しそうに表情を歪めており、自分の攻撃が不発に終わったことを見て取ると即座にユーゴから距離を取ってみせた。

 この一連の流れを組み手の相手として見て、実際に体験したユーゴは、兜の下で複雑な表情を浮かべながら彼女へと言う。


「やっぱ、そうか。ミザリーが伸び悩んでいる理由は……決定力不足が原因なんだな?」


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