針じゃん!蜂じゃん!THE BEEじゃん!!

「こいつは……なるほど、見たまんまの魔道具だね」


「はい。名前は『ワスプニードル』、装甲の部分はおまけのようなもので、武器である針の攻撃力や射程を魔力で強化して戦う魔道具です」


「すごくシンプルな魔道具だね。確かにこれを使うなら、近距離戦闘一択か……」


「となると、やっぱり格闘技術を鍛えるしかないのかもしれませんね。兄さんはどう思う?」


 メルトの言う通り、ミザリーの魔道具であるワスプニードルは実にシンプルな形状と能力をしている。

 仲間たちが魔法結晶を通じて魔力を受け取った針を強化して戦うという、なんとも見たままの性能を持つその魔道具についての感想を口々に言い合う中、ミザリーの師匠になったユーゴが何をしているかというと……?


「おお? おおおっ!?」


 ……何故だか一人、妙に興奮していた。


 いやまあ、彼がテンションを上げる理由なんてほぼほぼ見当がつくわけだが、この場にいるメンバーには彼がどうして瞳を輝かせながらこのワスプニードルを見つめているのかはわからないだろう。

 多分、今のユーゴの頭の中を覗かないことには……いや、今のユーゴの頭の中にはパーフェクトだのハーモニーだの地獄に堕ちようだのの本気で意味の分からない単語が並んでいるので、むしろ混乱するに違いない。


 もしかしてこれを扱う人間って、特殊部隊を率いる資格を持つようになったりするんじゃないかな~? などという、本当に意味の分からないことを考えるユーゴ。

 そんなふうにニチアサオタクとしての本性を露わにしながらミザリーの魔道具を見つめていた彼は、不意に顔を上げると満面の笑みを浮かべて彼女へと言った。


「いい魔道具だな! いや、本当にそう思う! 俺、ちょっとこれ欲しいもん! うわ~っ! マジで格好いいな~!!」


「あ、ありがとうございます。予想していなかったお言葉に、ちょっと驚いています」


「遠慮せずにドン引きだって言ってやっていいぞ、ミザリー。こいつ、時々こうなるんだ」


「本当にスイッチがよくわからないんだよね。でもまあ、こうなったユーゴも面白くて私は好きなんだけどさ!」


「あ、あはははははは……そうなんですね……」


 いい反応を見せてくれているというより、興味津々なレベルのユーゴの反応には、流石のミザリーもちょっと引き気味だ。

 ポーカーフェイスも若干崩れ気味になっている中、それはそれとして……といった感じで、悪い癖が出てしまったユーゴを放置しつつ、仲間たちはワスプニードルについての詳しい説明を求めて、ミザリーへと質問を投げかけていく。


「攻撃力や射程を魔力で強化するって言ってたが、具体的にはそれをどんなふうに扱っているんだい?」


「針先を魔力で延長し、それを攻撃として用いています。魔力を込めれば、最長で直剣くらいのサイズまでは伸ばせるかと」


「遠距離攻撃は? 魔力を飛ばせたりはするの?」


「はい。一応、溜めた魔力を発射することはできますし、戦術の一つとして使ってもいます」


「えっ? 普通に万能じゃあないですか? これで伸び悩むって、いったいどうして……?」


「それ、は……」


 メインは近距離での格闘戦にはなるが、武器を持っている相手にも負けないリーチと小技としての遠距離攻撃も併せ持っているというワスプニードルの性能を聞いたフィーが驚きながら疑問を口にする。

 シンプルな性能ではあるが結構便利な魔道具を持ちながらもいまいち実力が伸び悩んでいる理由は何なのか? その疑問に対して言いよどんでしまったミザリーが口を閉ざす中、ぱんっ、と手を叩いたユーゴが仲間たちへと言った。


「よっしゃ! まあ、今日はもう時間的に遅いしさ、本格的な訓練は明日からってことで、早めに休むとしようぜ!」


「……そうですね。では、私も寮に戻ります。改めまして、明日からよろしくお願いしますね、ユーゴ師匠」


「あはは、その師匠っていうの止めてくれよ。なんかむずっかゆいからさ」


 明るくそう言いながら、仲間たちへとお開きを告げるユーゴ。

 その言葉を受けたミザリーが丁寧に頭を下げて去っていった後、メルトが彼へと声をかける。


「ねえ、ユーゴ。ミザリーが伸び悩んでいる理由ってさ……」


「ああ……多分、そうだろうな」


「えっ!? 兄さんたち、もうミザリーさんが伸び悩んでいる理由に気付いてるの!?」


「う~ん、まあねえ。これは本当に単純な問題だから、フィーも魔道具を使うようになればすぐにわかると思うよ」


 どうやらフィーを除き、ユーゴたちはミザリーが抱えている問題点に気付いているようだ。

 それが何なのかを知りたそうにしている弟へと苦笑を向けながら、ユーゴが口を開く。


「明日、実際にミザリーの戦いを見てみよう。それで全てはっきりするはずだ」


 ある程度の見当はついているが、あくまでそれは予想でしかない。

 自分たちの予想が正しいかどうかは、明日ミザリーの実力を見ればはっきりする。


 未熟ながらも師匠としての役目を引き受けた以上はミザリーのためになるアドバイスをしてみせようと意気込みながら、ユーゴもまた明日の訓練に備え、特訓で疲れた体を休めるのであった。



――――――――――

今回登場したミザリーのモデル(元ネタ?)は三名います

一人はもう皆さんわかっているでしょうが、残りの二人が誰だかわかるでしょうか?


※ヒント

二人の内片方はアメコミのヒーローで、わかる人はすぐわかると思います

もう一人はニチアサの女の子ヒーローです。性格やこれからのお話を読んでいけば、なんとなくわかるかも……?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る