誕生!ユーゴ師匠!

「ええっと……じゃあ、改めて自己紹介からお願いしていいかな?」


「はい、わかりました」


 それから少し時間が経って、住処である学園の庭の片隅に戻ってきたユーゴは、仲間たちと共に訓練場で出会った少女から話を聞いていた。

 未だに困惑気味のユーゴに対して、少女は自己紹介をし始める。


「私の名前はミザリー・ピム、ユーゴさんと同じ高等部の一年生です。今日は、あなたに弟子入り志願をしに参りました」


「えっと……ピムさん? なんで俺に弟子入り? 俺、そういうタイプの人間じゃあないと思うんだけど……?」


「ミザリーでいいです。その辺りの事情も含めて説明させていただきますので、私の話を聞いていただけますでしょうか?」


 非常に丁寧ではあるのだが、表情が一切変わらないせいでその敬語にはなんだか冷たい雰囲気が宿っているように感じてしまう。

 ただ、こうやって弟子入り志願をしてくる以上、ミザリーがユーゴに悪感情を抱いているとは思えないため、そういう性格の女の子なのだと一同は納得することにしたようだ。


 そんな彼らに対して、ミザリーはどうして自分がユーゴに弟子入りを志願したのかという部分についての説明をし始めた。


「話は至極簡単です。実は私も近接格闘戦を主体とした戦法を取っておりまして、ある意味ではユーゴさんと似た者同士なんです。ただ、実力の方は残念としか言いようがなく……いまいち伸び悩んでいる状況でもあるんです」


「いや、それでも別に俺に弟子入りする必要なんてないだろ? そろそろ学校も授業が再開するんだし、先生に見てもらえば――」


「ダメです。私は今、すぐにこの状況から脱したい。授業が始まるより早くに、少しでも強くなりたいんです」


「う~ん……?」


 どこか焦っている様子のミザリーの答えを聞いたユーゴが首を傾げる。

 どうしてそこまで強くなりたいと思っているのかがわからないでいる彼に対して、ミザリーは若干顔を伏せながらこう言った。


「要領を得ていない答えで申し訳ありません。ですが、私は少しでも早く強くなりたいんです。そのために今、自分にできることがしたい……どうか、私を鍛えてはくださらないでしょうか?」


「う~ん……まあ、別にいいんだけどさ。どうして俺なんだ? ぶっちゃけ、俺ってば学園中からクズ野郎だって言われてる男だろ? 女癖も悪いってうわさされてるし、そんな俺に弟子入りだなんて、怖くないのか?」


「はい、あまりそういった気持ちにはなっていません。私はそちらのメルトさんと同じ、高等部からの編入生ですし、それに……」


「……それに?」


「……あなたを紹介してくださったクレアさんが、信用できる方だと仰っていましたので」


 不意に飛び出してきた予想外の名前を耳にしたユーゴたちが驚きに目を見開く。

 そんな彼らに対して、ミザリーは静かにその時のことを語っていった。


「少し前、クレアさんに色々と伸び悩んでいることをご相談させていただいたんです。私みたいな人間にも優しく接してくださる、いい方でした。そんなクレアさんがユーゴ様ならきっと力になってくれるって、そう仰ったんです。だから、私もその言葉を信じようと思いまして……」


「なるほどな……そうか、クレアの紹介だったのか」


 ミザリーがどこで自分の名前を聞きつけたのか疑問だったが、クレアからの紹介ならば納得できる。

 イザークから奪還した素材の返却を彼女に任せた際、生徒たちとの距離も縮まったのかもしれないなと考えたユーゴは、ため息を一つ吐いた後でミザリーへと言う。


「よし、わかった! 俺に何ができるかわかんねえけど、少しでも力になれるように頑張るよ。よろしくな、ミザリー」


「こちらこそよろしくお願いします、師匠……あ、指南に対しての謝礼なのですが、用意できるものが何もなくって……そちらのお二人には到底及ばない貧相な体ですが、まあ味変くらいにはなるかと思いますので、よろしければいつでも好きにしていただくということで……」


「おい、ちょっと待て。弟の前で変なことを言うな! そういうんじゃないからな? 別に謝礼とか期待してねえからな!?」


 ポーカーフェイスのせいでギャグなのか本気で言っているのかわからないミザリーの発言に若干キレ気味でツッコミを入れるユーゴ。

 左右の女性陣が苦笑を浮かべながらこちらを見ていることにプレッシャーを感じながら、気を取り直した彼はミザリーへと質問する。


「で、質問なんだけどさ、ミザリーが使ってる魔道具ってどんな物なんだ? 性能とか能力とかを知りたいから、教えてくれるか?」


「それ、私も気になってた! 私は格闘とかはあんまり得意じゃないけど、魔道具の扱いとかだったら協力できるから、教えてほしいな!」


「アタシも技師として何かアドバイスできることがあるかもしれないしね。できたら話を聞かせてくれよ」


「ありがとうございます。私の魔道具は……これです」


 そう言いながら、伸ばした右腕の袖を捲るミザリー。

 ユーゴたちがそこに視線を向ければ、彼女の右腕から手の甲までを覆うガントレットのような黄色と黒の装甲と、その手首部分から伸びる銀色の針が目に映った。


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