ユーゴ、師匠になる!?目指せ、完全調和と憧れのヒーロー!
それぞれの幕開け
「さてさて、お次のターゲットは誰にしようかな?」
――暗闇が広がる空間の中で、楽し気に呟く人物が一人。
これまでルミナス学園近辺で起きた数々の事件の黒幕である黒フードことロストは、蝋燭に灯っている紫色の炎が照らす明かりだけを頼りに何かを見つめていた。
彼の視線の先には、宙に浮かぶ大量のカードたちがある。
よくよく見てみればそのカードには若い男女の姿が描かれており、ロストはそれを順番に眺めながら何かを考えているようだ。
「どれもこれも、磨けば一級品の魔鎧獣になれる素材ばかり。こういう素材を次々提供してくれる主人公くんたちには、本当に頭が下がるよね」
ニヤリと口元を歪めながら、そう独り言を呟くロスト。
その言葉は本心から出たものではあるが、同時に多分な皮肉の意味も込められている。
何も知らずに今日も元気に英雄を目指して足の引っ張り合いをしている彼らの姿は、実に滑稽だ。
少し前にも仲間の一人を共謀して暗殺していたし、それを知っている側の人間からすると、彼らが目指しているのが英雄なのか稀代の大悪党なのかわからなくなってくる。
まあ、仕方がないことなのだろう。彼らもある意味ではまた、一級品の素材なのだから。
特に何もせずともベルトコンベア方式で素材が流れてくる今の状況はロストにとっては実に楽でありがたいものだし、特に不満もない。
それに……二度に渡って本格的な計画を阻止こそされたが、そのお陰で主人公たち以上に自分をわくわくさせてくれる存在とも出会えた。
あらゆる意味でイレギュラーな存在である彼の活躍をもっと見たいと望んでいるロストは、浮かべていた笑みを更に強めながら浮いているカードたちの中から数枚を選び、それを手に取る。
「うんうん、まあこんな感じかな? イージーなのはこいつだけど、個人的に注目したいのは……この子だね」
手に取ったカードの中から一枚を選び取ったロストが、そこに描かれている少女をじっくりと見つめる。
黄色っぽい髪と、少し無機質さを感じさせる表情が特徴的な彼女をまじまじと見つめた後で口元を歪めたロストは、小さく口笛を吹いてから愉快気に呟いた。
「さあ、ゲームを始めようか。彼女は救われるのか、否か? こうご期待……! ってやつだね」
――――――――――
「うっし! いい感じ、いい感じ! 今日はこんなところにしておくか!」
ルミナス学園の訓練場、そこで何らかの特訓を行っていたユーゴが汗を拭いながら明るい口調で言う。
ふぃ~、とため息を吐いた彼は用意してあった水を飲んで喉を潤すと、満足気に伸びをしてから口を開いた。
「ブラスタの伸びしろはまだまだあるし、アンやフィーに改造してもらったお陰で新しい可能性も拓けた。あとはそれを使う俺次第なんだから、訓練は欠かさないようにしないとな」
自分の魔道具であり、変身アイテムであるブラスタは、度重なる改造のお陰で旧世代の品とは思えないほどの拡張性と性能を得た。
ただ、どれだけ魔道具が強化されようとも、結局はそれを使う人間の力量が重要になってくる。
強くなった魔道具を使いこなすためにも、自分自身がまず鍛えておくことが大事だ。
そのことを知っているユーゴは、イザークとネイドとの連戦で負った傷が癒えてから日々特訓を行っていた。
(とっておきの切り札も用意できてるっちゃできてるけど、いざって時にいい動きができるかどうかは日々の訓練によって決まるからな。誰に対しても、鍛えてますからって胸を張って言えるようにしておかねえと)
頭の中で太鼓を打ち鳴らす……もとい、その音を響かせる紫色の鬼の姿を思い浮かべたユーゴがうんうんと頷く。
日々の努力を欠かさないことが大事という教訓を胸に刻みながら、やっぱりヒーローは大切なことを教えてくれるよなと敬愛する彼らをリスペクトしつつ訓練場を後にしようとしたところで……ユーゴの前に何者かが立ち塞がった。
「失礼……クレイ・ユーゴさん、ですよね?」
「え? あ、ああ、そうですけど……?」
そう、唐突に声をかけてきたのは、黄色っぽい髪をボブヘアーにした女子生徒だ。
物静かな雰囲気の彼女は感情が読めないポーカーフェイスのまま、暫しユーゴを見つめた後でこんなことを言ってくる。
「あなたに一つ、お願いがあります。どうか、聞いていただけないでしょうか?」
「お願い? 別にいいけど、何を……?」
自分に何を頼むのかと、女子生徒へと逆に尋ねるユーゴ。
そうすれば彼女は深々と頭を下げながら、自身の願いを彼に伝えてきた。
「私を、あなたの弟子にしてください」
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