一方その頃、戦う仲間たちは

「な、なんだったんだ!? 今の火柱はっ!?」


「きっと兄さんだ! 兄さんがネイドを倒したんですよ!」


 一方、街の中で戦いを繰り広げているメルトたちは、北の方角で立ち上った巨大な火柱を目にして様々な反応を見せていた。

 それがユーゴがネイドを倒した証だと信じて笑みを浮かべるフィーの言葉に同意するように頷いたマルコスが、随分と数が減ってきた暴徒と空を飛ぶイザークを見つめながら言う。


「流石は我が友にして永遠のライバル、ユーゴだ。さて……こちらもそろそろ終わりにしようか」


「キェェェェッ!!」


 甲高い叫びを上げたイザークが、マルコス目掛けて何度目かわからない急降下襲撃を仕掛ける。

 それを上手くギガシザースで防いだマルコスは、再び上空へと飛び上がるイザークの背を見つめながらこう呟いた。


「単調な戦法だな。ただ真っ直ぐに突っ込んでくるだけの貴様など、私やユーゴの足元にも及ぶまい。さあ、そろそろお見せしよう。生まれ変わったギガシザースと、ネオ・マルコスの実力を!!」


「キエエエエエッ!!」


 再び、急降下。イザークが超音波でも発するのかと思わせるくらいの叫びを上げながらマルコスへと突っ込む。

 それを上手く受け止めるだけでなく、タイミングを合わせて弾くシールドバッシュで対処したマルコスは、これまでと違って空中でバランスを崩して回転するイザークへとギガシザースの鋏部分を向けた。


「修復したギガシザースには、受けた攻撃を魔力として蓄える新機能が備わっている。その魔力を用いて放つ技の一つが……これだっ!!」


「ギイイイイッ!?」


 ギガシザースの鋏部分から伸びる、魔力の塊。

 それがまるで巨大な黄金の鋏のような形を作ると共に空中で体勢を崩していたイザークの体を左右から挟み込む。


 魔力の塊に体を挟み潰されながら、弾ける黄金の魔力に体を叩きのめされながら、その痛みに悲鳴を上げるイザークを完璧に捉えたマルコスは、高らかに叫びながら彼へと必殺の一撃を繰り出した。


「さあ、これで終わりだ! ゴールデン・カッティング!!」


「ギィヤアァアアアァアアアッ!!」


 その安直な名前通りのシンプルな技ではあるが、それが故にマルコスの必殺技は一度嵌ったら防御も回避も難しい。

 巨大な魔力の鋏に体を押し潰され、更にその魔力の爆発に飲み込まれたイザークは、断末魔の叫びを上げると共に地面へと落下し、苦し気に呻く。


「ガ、ハッ……! グギ、ギィイ……!!」


「多少の手加減はしてやった。しかし、もう動くこともままならないだろう。素直に諦めて降伏しろ。私は、戦えない者に必要以上の暴力を振るいたくない」


「マルコス、やるぅ! 本当に強くなってるじゃん!」


 大した苦戦もせず、むしろ手加減すらする余裕を見せて魔鎧獣と化したイザークを撃退したマルコスの強さに感心したメルトが彼を褒め称える。

 ふふん、と得意気に鼻を鳴らして笑うマルコスであったが、未だに正気を失っているイザークはそんな彼の姿に隙を見出したのか、必死の攻撃を繰り出してきた。


「ギエェッ! ギエエッ!!」


「おっと! まだ動けるか!? 想像以上のタフネスだな!」


 イザーク必死の抵抗を軽く後退することで回避するマルコス。

 ガキッという金属音が響く中、こうなっては仕方がないと本気で意識を刈り取るための攻撃を繰り出すべく、彼はイザークへと踏み込もうとしたのだが……?


「んっ? おおっ!?」


 その一歩目を踏み出そうとした瞬間、マルコスは自分の動きを阻害する何かに気が付いた。

 脚を大きく前に出そうとしたはずなのに、中途半端にしか進めていない。頭の中のイメージと実際の動きが違うことに気が付いた彼が足元を見てみれば、履いているズボンがずり下がって足に絡みついているではないか。


 動きが阻害されている原因はこれだったのかと理解した彼であったが、時すでに遅し。

 足元がおぼつかないままに踏み込んだ二歩目の動きによって見事にその場にずっこけ、醜態を晒してしまう。


「まっ、マルコス様っ!?」


「ちょっと! 褒めた途端にいきなり大ポカかまさないでよ!」


「何やってんだ、お前!? 折角格好良く決めたのに、台無しじゃねえか!」


「ぐべえっ!? こ、こんなはずでは……!?」


 先ほど耳にした金属音はベルトのバックル部分が攻撃されて砕けた音だと気が付いたマルコスが同時にユーゴの忠告を思い出す。

 まさか彼はこの展開を読んでいたのか……? とマルコスが驚愕する中、フィーの叫びが広場に轟いた。


「あっ! 魔鎧獣が逃げるっ!!」


「なっ、何っ!? ちょっと待て! 逃げるとは卑怯だぞ!! 男らしく、正々堂々雌雄を決しろ!!」


 パンツ丸出しで地面に突っ伏したままイザークへと叫ぶマルコスであったが、そんな叫びに耳を貸してくれる相手ではない。

 最後の力を振り絞って飛翔したイザークを止めるべくメルトやヘックスが攻撃を繰り出すも、残っていた魔剣使いたちに妨害されて上手く狙いを定められずにいた。


 その隙を見逃さずにイザークは戦闘領域から飛び去ってしまう。

 最後の最後で締まらない展開を作り出してしまったマルコスは、大慌てで立ち上がってズボンを上げると、イザークを追って駆け出した。


「ま、待てっ! 待て~っ!! 逃げるだなんて許さんぞ! 戻って来て私と戦え!!」


「……なあ、あいつって信用できるのか? 悪い奴じゃあなさそうだが、馬鹿だろ?」


「う~ん……前まではずる賢い馬鹿だったから、あれでも成長してると思うけどな……」


 なんともまあなマルコスの姿に呆れ顔を浮かべたアンヘルの問いに対して、ギリギリフォローになっていないフォローを入れるメルト。

 仲間たちと共に残る暴徒たちを鎮圧した彼女たちも急いでマルコスの後を追い、イザークを確保すべく走り出すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る