邂逅!悪役と黒幕!
「あっ、うぁ、うぅ……」
――爆炎が去った後、その中心地にいたネイドは人間の姿に戻っていた。
苦し気に呻いている彼は意識を失っており、戦いの決着も一目でわかる。
魔剣を作り出すハンマーも爆炎に飲まれ、壊れてしまったようだ。
これでもう、新しい凶器は作られないはずだと倒れ伏すネイドを見下ろしながら息を吐いたユーゴは……顔を上げると共に静かな声で言う。
「……近くにいるのはわかってる。隠れてないで出てこいよ」
「おお、やるねえ! 勘が鋭いというか、なんというか……」
ユーゴの呼びかけに応えたのは、この場にはそぐわないひょうきんな雰囲気の声だった。
ゆっくりと振り返った彼の目が黒いフードを纏った人物の姿を捉え、二人はそのまま暫し見つめ合う。
「どのタイミングで、私が居るって気付いたのかな?」
「別に、どのタイミングって話でもねえよ。ラッシュを魔鎧獣にしたのもお前なんだろ? あいつは俺に倒された後、どこかに連れ去られて殺された。なら、ネイドに対しても同じようにすると思ったまでだ」
「なるほどねぇ……! そこの彼を派手に倒したのは、大きな爆風を起こすことで私の接近を防ぐため、か……。彼をサイクロプスにしたのは失敗だったな。もっと体の弱い魔鎧獣にすべきだった」
クククッ、と喉を鳴らして笑う黒フードの反応に、ユーゴが目を細めて相手を睨む。
ラッシュが起こした連続誘拐殺人事件と、今回のネイドの事件の真の黒幕である目の前の人物へと油断なく相対する彼に対して、黒フードがパチパチと拍手をしながら口を開く。
「本当の意味でその子を救おうとするだなんて、君は本当にすごいなあ! その行動には賛否両論あるだろうが、私は君のことが気に入ったよ! ファンになっちゃいそうだ!」
「悪党に褒められても嬉しくねえな。お前はいったい何なんだ? どうして、こんな真似をする?」
「そう焦るなよ、ユーゴ・クレイ……いや、呉井雄吾くん。何もかもをいきなり明かしたら、後々の楽しみがなくなっちゃうだろう?」
「っっ……!?」
黒フードが転生前の自分の名前を呼んだことに驚き、目を見開くユーゴ。
その一瞬の隙を見逃さなかった黒フードは、ニヤリと口元を歪めると共に指を鳴らしてみせる。
「あがっ!? あががががががっ!」
「ネイドっ!? お前っ、何をしたんだ!?」
パチン、という音が響いたその瞬間、ネイドが体を痙攣させながら苦しみ始めた。
彼に駆け寄り、その身を案じながら問いかけてきたユーゴに対して、黒フードは薄ら笑いを浮かべながらこう答える。
「彼をスカウトした時に、ちょっとした細工を施しておいてね。その細工を発動させてもらったんだ。大丈夫、命も取らないし精神を病んだりもしないよ! ただちょっと……生まれてから今に至るまでの記憶を全て抹消しただけだからさ。安心して!」
「何だと……!?」
軽い口調でネイドへの重い仕打ちを語る黒フードの態度に、ユーゴが怒りを露わにしながら立ち上がる。
怒気を強め、拳を強く握り締める彼の姿を目にした黒フードは、多少のおどけを入れながらこう言った。
「わわわっ! タイム、タイム! 私は君と争うつもりはないんだよ。それに、ぶっちゃけ私は無茶苦茶弱いんだ。君と戦ったら、間違いなくボコボコにされちゃうしね」
「お前にその気がなくっても、こっちにはあるんだ。お前がこの世界を滅茶苦茶にする前に、ここで倒す!」
「はははははっ! だったら尚更やめておいた方がいいよ! 私を倒したとしても何の意味もない! また別の誰かが、私の代わりになるだけなんだから!」
そう言った黒フードが再び指を鳴らせば、スカルと戦っていたガルーダが彼を背に乗せて高く浮かび上がった。
地上からは手出しできない距離まで飛び立った黒フードは、自分を睨むユーゴを見下ろしながら言う。
「今日のところはここまでにしておこうよ。君だって、炎の鎧を使った反動で結構なダメージを負っているだろう? 君はネイドくんの逃亡とこれ以上魔剣が製造されることを防いだ。私は最低限の口封じをさせてもらった。お互い目標は達成した上で、七・三……いや、八・二くらいで君の勝ちだ。そんな君の活躍を祝して、二つほどいいことを教えてあげるよ」
ゆっくりと、人差し指を立ててユーゴへと見せつけた黒フードが笑みを浮かべる。
立てた指を揺らしながら、彼は楽し気な声でユーゴへと語った。
「一つ目、この世界には私なんかじゃ到底及ばないような邪悪が潜んでいる。君が真にこの世界を救いたいのならば、力を付けることだ。いつか、その力が必要になる日がくる。せいぜいその日が来た時に後悔しないよう、自らを鍛えておきなよ。そして、もう一つは……私の名前を教えよう。とはいってもコードネームだけどね。でもほら、いつまでも黒フード呼びじゃあ色々と不便だろう?」
高く、高く……飛び立ちながら、その顔を見せることもしないまま、ユーゴをおちょくるようにそう言う黒フード。
男か女かすらも判別できない声と振る舞いを見せながら、数々の事件を引き越した黒幕は、
「……ロスト、それが私の名前だ。覚えておいておくれ、私のヒーロー……次に会う時も、君の素晴らしい活躍に期待しているよ。じゃあ、またね……!!」
それだけを言い残し、黒フード……ロストは、ユーゴの前から去っていった。
あっという間に小さくなっていくガルーダの姿を見つめながら、ユーゴは苦々し気な声で呟く。
「ロスト……あいつは俺の正体を知っている。あいつも俺と同じ、転生者なのか……?」
まだ、何もわかってはいない。ロストが言ったように、この世界にはユーゴが想像もつかない、彼以上の邪悪が潜んでいる予感もする。
自分がその一端に触れたということを理解したユーゴは、ただ黙ってロストが飛び去った方角を見つめ続けるのであった。
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