翌朝の推理

「ユーゴ! 起きて、ユーゴ!」


「んぁ? ふぁぁぁぁ……!」


 決闘から一夜明け、翌朝。久々にベッドの上で熟睡していたユーゴは、メルトに体を揺すられて目を覚ました。

 心地良く眠っていたせいかまだ頭は寝ぼけ状態であり、起床早々に大あくびをかます彼へとメルトの注意が飛ぶ。


「ユーゴ、もうジンバさん来てるよ。しゃっきりしないと!」


「マジ? もうそんな時間か……」


 時間を確認してみれば、自分が思っていたよりも随分とぐっすり寝てしまっていたことがわかった。

 久しぶりのベッドでの睡眠だったということもあるのだろうが、炎の鎧を使ったことによる負担も影響しているのだろうなと考えながら、ユーゴはジンバに会うための支度を始める。


「ユーゴ、髪ぼさぼさだし、まだ眠そうな顔してるし、服もだらしないよ? ネクタイ締めてあげるから、こっち来て」


「い、いいって。自分でやるよ」


 ぷくっと頬を膨らませながらのメルトの言葉に慌てるユーゴ。

 流石にそこまでやってもらうのは悪いし恥ずかしいと思う彼が髪を梳かし、気合を入れたところで、保健室の扉が開き、フィーと共にジンバが姿を現した。


「おう、ユーゴ。おはようさん。朝から尻に敷かれてるな、お前も」


「あんまからかわないでくださいよ、ジンバさん。ってか、仕事明けに呼び出しちゃってすいません」


「いや、いいんだ。俺もお前に話したいことがあったしな」


 ジンバと共に入ってきた警備隊の面々が、もう一つのベッドで未だに眠り続けているイザークを取り囲むように配備される。

 彼らはイザークの警備兼見張りを任されているのだろうなと思いながらジンバへと視線を向ければ、彼は神妙な表情を浮かべながらこう話を切り出してきた。


「……昨日のことはメルトとフィーくんから聞かせてもらった。また魔剣の使い手が現れたらしいな」


「ええ。しかもバッツと同じ技を使ってきたんです。前の事件と無関係とは思えなくって……」


「そのことなんだがな……ユーゴ、実は俺もまた別の魔剣を確保したんだ」


「えっ!?」


 ジンバの話を聞いたユーゴが驚きの表情を浮かべる。

 同じく話を聞いていたメルトもまた驚きに唖然とした後、ジンバへとこう質問を投げかけた。


「新しい魔剣……ってことは、魔剣は四本存在していた、ってこと……?」


「そうみたいだな。俺は昨日、お前たちが連絡をしてきた時にその件について捜査をしていたんだ。幸いにもその魔剣は持ち主が事件を起こす前に回収できたんだが……この話で最も重要なのはこの後に話す部分なんだ」


「その最も重要な部分ってなんなんだよ、ジンバさん?」


「俺が回収した魔剣は……まだだった。それも製造から数か月なんてレベルじゃない。数週間から数日程度の物だったんだ」


 小さく、ジンバの話を聞いた面々が息を飲む。

 それが意味することは何なのか? という部分について、一同は全てを紐解くようにして語っていった。


「現時点で魔剣が四本発見されてて、その内の一本は製造間もない品だった。誰かが何処かで魔剣を作ってる、ってこと……?」


「真っ先に候補として挙げられるのはバッツに魔剣を渡した黒フードだが……奴が製造から人物の選定、魔剣のばら撒きまで一人でやっているとは考えにくい。あいつはあくまで魔剣を渡す係だと考えた方がしっくりくる」


「いったい誰なんだろう? 黒フードと一緒に魔剣を作ってる黒幕って……?」


 魔剣を手にした人物によって引き起こされた二つの事件。だが、この事件はまだ終わっていない。

 この街に魔剣という名の凶器をばら撒く黒幕たちが、どこかに潜んでいるのだ。


 黒幕の正体を突き止めない限り、いつ、どこで、バッツやイザークのような魔剣に狂わされた人間が事件を起こすかわからない。

 この街をそんな恐怖が満ちる街にしたくないと思うジンバたちが深刻な表情を浮かべる中、ユーゴは顎に手を当てて、何かを考えこんでいた。


「魔剣を作っている誰か、製造間もない、それをばら撒く黒フード……待てよ?」


「どうしたの、兄さん?」


 頭をフル回転させていたユーゴが、とある可能性に思い至ると共に顔を上げる。

 不思議そうにフィーが彼を見つめる中、ユーゴはジンバへと向き直るとこんな質問を投げかけた。


「ジンバさん、魔剣ってさ、本来もっとヤバい代物なんじゃないのか? 人を狂わせるとかの部分じゃなくって、純粋に武器としての性能が危険って意味でさ」


「うん……? う~ん……まあ、確かにそうかもしれんな。俺も直接見たわけじゃあないが、記録に残っている魔剣ってのは信じられないような力を持ってるって話みたいだ」


「だとしたら……そういうことなのか? じゃあ、つまりこの事件の真犯人は――!」


「ねえユーゴ、どうしたの? 何がわかったの?」


 自分へと問いかけてくるメルトへと、静かに向き直るユーゴ。

 緩んでいたネクタイを締めながら、彼はこう答えた。


「全部繋がった……脳細胞がトップギアだぜ」

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