決闘の後、保健室にて

「どうにかイザークの容態も落ち着いたな。ユーゴも、大事なさそうで安心したよ」


「みんな、色々とありがとう。心配かけて悪かったな」


 イザークとの決闘に勝利したユーゴは、彼と共に保健室で体を休めていた。


 魔剣の影響を受け、心身共に疲弊したイザークは未だに意識を取り戻してはいないが、必死の治療の甲斐もあってか命を取り留めることはできたようだ。

 ユーゴの方も万全の状態とはいえないが、普通に会話したり動くことはできるようになっている。

 だがしかし、決闘の最中に発覚したこの事実に対しては全員がショックを受けており、素直にユーゴの勝利を喜べずにいた。


「イザークはどこであの魔剣を手に入れたんだろう? バッツが使ってた魔剣が盗まれた件と、何か関係があるのかな?」


「どうだろうな……? ただ、あの禍々しい魔力には見覚えがある。使ってる技もよく似ていたし、完全に無関係ってわけじゃなさそうだ」


「同じ人間が作った代物か、あるいは盗まれた魔剣を双剣として作り替えたのか……そのどちらかである可能性が高いな。できれば、後者であってほしいもんだよ」


 現在、保健室にいるのは意識を失っているイザークを除けばユーゴ、メルト、アンヘルの三人だけだ。

 警備隊に連絡をしに行ったフィーはまだ戻ってきておらず、ヘックスは魔剣について報告しに行った保険医に付き添って他の教師へと事情を説明しに行き、ユーゴたちの治療を終えたクレアは一度、ゼノンを寮へと連れに席を外している。


 そのお陰で機密事項である魔剣の盗難事件について話すことができているわけだが……アンヘルの意見を聞いたユーゴは、彼女が言わんとしていることを理解すると共にぶるりと身を震わせた。


「……もしもイザークとバッツが使った魔剣たちが同じ人間が作った別の代物だとしたら、こんな危険な物が大量にばら撒かれてる可能性があるんだもんな。もしもそいつらが全員、二人みたいになったら――」 


「地獄絵図じゃん。街中がパニックになるなんてもんじゃ済まないよ……!」


 ユーゴが語ったもしもの可能性が正しかったとしたら、それは大いなる災厄の引き金にしかならない。

 何者かが作った魔剣を黒フードの人物がこの街にばら撒いていて、それを渡された人々が一斉に心を狂わされた時のことを考えたメルトが、顔を青くしながら呟く。


 そうであってほしくないという想いはあるが、その可能性も決して捨てきれないのが現状だ。

 全てはイザークから詳しく話を聞かないとわからないことだと、ユーゴたちがそう考える中、保健室の扉が開き、フィーが姿を現す。


「兄さん! 今回のこと、警備隊の人に連絡しておいたよ!」


「そうか! それで、ジンバさんはなんて?」


「それが……今、ジンバさんは別の事件を追ってる最中で、連絡が取れないんだって。今日中には帰ってくる予定だからそこで報告をしておくって、僕が話をした人はそう言ってた」


「マジか……あの人、肝心な時に限ってこうだなぁ……」


 魔剣の事件について色々と情報を持っているジンバに一刻も早く相談したいところであったが、そのジンバと連絡が取れないのであれば仕方がない。

 タイミングというか、間の悪さを悔やむユーゴへと、アンヘルが言う。


「まあ、落ち着け。気持ちはわかるが、事情聴取をすべきイザークは眠ったままだし、こいつが起きないと捜査も進展しないだろ。それに……お前だってまだ炎の鎧を使ったダメージが抜けきってないんだ。今はしっかり体を休めておけ」


「アンの言う通りだよ! イザークも魔剣も、学園側がしっかり見張ってくれるんだからさ! ユーゴは傷を癒すことに専念しなって!」


「……そうだな。何もない時だからこそ、事件があった時に動けるようにしておくべきか。焦ってもしょうがないし、そうさせてもらうよ」


 女性陣の説得を受けたユーゴが、素直に頷くと共に息を吐く。

 仕方がなかったとはいえ、炎の鎧を使ったことで仲間たちを心配させてしまったことに負い目があるのだろう。

 ここはきちんと体を休めて、傷を癒すべきだと判断した彼の答えを聞いて、フィーたちも安心したようだ。


「先生には話をしてあるから、今日はここでゆっくり休んでね。久々のベッド、存分に堪能しなよ!」


「おっ、言われてみれば確かにそうだな! いや~、屋根がある部屋の中で寝れるってこんなにも素晴らしいことだって再認識できたわ!」


「ふふふ……! じゃあ、僕たちは行くね。ヘックスさんとクレアさんには僕たちから話をしておくから、安心して」


「おう、ありがとうな!」


 ユーゴを保健室に残し、部屋を出ていく仲間たち。

 色々なことがあったせいか、決闘が始まってから思っていた以上の時間が経っていることに気付いた三人がそれぞれ寮に向かおうとする中、アンヘルがそちらとは別の方向へと歩き出したことに気付いたフィーが彼女へと声をかける。


「アンさん? どこに行くんですか? そっちは女子寮の方角じゃあないですけど……?」


「ん? ああ、ちょっとな。悪いがやらなくちゃならないことがあるんだ、ヘックスたちへの報告は任せてもいいか?」


「は、はい。大丈夫です」


「ありがとう。お礼にお姉さんが背中を流してやろうか? 今日は口うるさい兄貴もいないし、アタシの部屋に泊まりに来てもいいんだぞ?」


「かっ、からかわないでくださいよ! もう……!!」


 からからと笑いながら、去っていくアンヘルの背中を見送るフィー。

 今日、ユーゴが使った炎の鎧について、彼女が反省や後悔を抱えていることは、決闘中のアンヘルの様子を見たフィーも理解している。

 だから、彼女は多分、鎧のデメリットをどうにかするための研究をしに行くつもりなのだろうと考え、敢えて何をしに行くのかを聞かなかったのだが……その判断を後悔する羽目になるということを、この時のフィーは知る由もなかった。

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