脳細胞がトップギア
「全部繋がったって……どういうことだ、ユーゴ?」
「この事件の真の黒幕、魔剣を作り出している人物の正体がわかったんだよ」
「な、なんだって!? いったいどこのどいつだ、それは!?」
「……ちょっと移動しよう。話は、その道すがらさせてもらうよ」
そう言いながら保健室の扉を開いたユーゴが仲間たちを手招きする。
動揺しながらも彼に続いて部屋を出ていったジンバたちは、どこに行くのかもわからない状況の中、歩きながらユーゴの話を聞き始めた。
「まず俺が疑問に思ったのは、黒幕たちはなんでこの街の人間に魔剣をばら撒いたのか? って部分なんだ。改めて考えると色々と変だと思ったんだよ」
「変って……何が? 魔剣をばら撒くことでいつ、どこで事件が起きるかわからない状況を作り出して、楽しんでるとかじゃあないの?」
「だとしたら変なんだ。そんな状況を作り出したいのなら、魔剣を犯罪者にでも渡して、解き放てばいい。その方が凶悪で強力な魔剣使いが誕生するはずなんだから」
「言われてみれば確かにそうだね。バッツさんの事件の時も、どうして黒フードはサンガさんを選ばなかったんだろう? 二人を比べたら間違いなくサンガさんの方が腕っぷしが強そうだし、似たような心の闇を抱えていたっていうのにさ」
「俺が昨日、回収した魔剣の持ち主もそうだ。ごく普通の男で、異変に気付いた妻が通報して発覚した。一人暮らしの人間やホームレスなんかを選べばこうならなかったはずなのに、どうしてだ?」
この街に恐怖を蔓延させたいというのならば、やり方が微妙に変だ。
強い魔剣使いを作るわけでも、秘密裏に魔剣をばら撒くことを目的としているわけでもない犯人の目的に一同が疑問を抱く中、ユーゴが自分の考えを述べる。
「これは俺の推測なんだが、犯人は一定の条件を満たす人間に魔剣を使わせればそれで良かったんだと思う。要するに、データを収集することが目的だったんだ」
「データの収集? その人がどれだけ強くなるかを調べたかったってこと?」
「他にも色々だ。完全に心を飲まれるまでの期間とか、最大でどこまでの能力が出るかとか……それを調べるために敢えて適当に魔剣をばら撒き、使わせた。その理由は――」
「魔剣が……試作品だったから……!?」
フィーのその言葉に、正解、とでもいうように彼を指差すユーゴ。
徐々に話を理解し始めた仲間たちへと、彼はこう続ける。
「この街でばら撒かれてた魔剣は真犯人が作った試作品、練習の副産物みたいなものだ。黒フードはそれを適当にばら撒くことで、魔剣の性能と真犯人の腕がどれだけ上がっているのかのデータを収集していた。魔剣が作られて間もなかったって事実が、そのことを証明してくれている」
「記録に残されている魔剣の力よりも我々が目にした魔剣の性能が低かったのは、作り手がまだ未熟だったから……そう考えれば納得がいく!」
「……魔剣をばら撒けるってことは、真犯人は魔剣を作りまくってるってことだ。常に作業をし続けて、それでも疑われない場所と立場に、一つ心当たりがある」
「兄さん、ここって……!?」
話しながら歩き続けたユーゴが、目的地に到着すると共に足を止める。
唖然とするフィーの横で、その建物を目にしたメルトが呻くようにして呟く。
「工業科の、工房……! ってことは、つまり犯人はここの生徒ってこと!?」
「ああ、おそらくな。工業科の生徒ならここにこもりっきりでも何もおかしく思われねえ。それにアンが言ってただろ? 最近は大半の生徒たちが疲れでダウンしてるせいで、工房を使う人間がほとんどいなくなってるって。その状況も味方したお陰で、誰も真犯人のことを不審に思わなかったんだ」
「だが、そのお陰で犯人も絞り込める! とりあえず、中を調べてみよう! そうすれば、証拠が見つかるかもしれん!」
そう叫んだジンバが人気のない工房へと駆け込む。
慌てたメルトもその後を追って中に入っていく中、フィーがユーゴへとこう問いかけた。
「ねえ、兄さん。兄さんはもう、犯人に心当たりがあるんじゃないの? さっき言ってたじゃない、真犯人の正体がわかった、って……」
「……真犯人が魔剣を作るのに必要なのは時間だけじゃない、素材もだ。黒フードが提供してた可能性もあるにはあるが、何度も接触するっていうリスクを冒してまでわざわざ芽が出るかわからない奴に投資する意味はないはず。だとしたら、真犯人の正体は素材を大量に持っている奴ってことになる。となると……該当する人物は――」
「ユーゴ! こっちに来てくれ!」
最後の答えを言う寸前、工房の中から響いたジンバの声にはっとしたユーゴは、彼に言われるがまま中に入っていった。
そこで待っていたジンバと、彼が発見したとある物を目にして息を飲んだユーゴへと、ジンバは静かに口を開いた。
「見覚えがあるだろ? こいつはバッツが使っていた魔剣だ。他にも、これに似た剣が何本か見つかった。ここで魔剣の製造が行われていたっていうお前の考えは正しかったみたいだ」
事件に使われ、その後盗まれた魔剣と、それに酷似した数本の剣。
この工房が魔剣製造の場であるという証拠を見つけ出したジンバが深刻な表情を浮かべる中、メルトの叫びが響く。
「ユーゴ、見て! こっ、これっ!!」
「どうした、メルト!?」
工房の片隅で蹲るメルトの下へと駆け寄ったユーゴは、彼女が手にしている物を目にして目を見開いた。
遅れて駆け寄ってきたフィーとジンバへと、メルトは震える声で言う。
「これ、確か……アンの魔道具、だよね……? どうしてこんな場所に放置されてるの……!?」
そう言うメルトが手にしているのは、アンヘルが作業用兼武器として使うハンマーだ。
技師としても騎士としても大事なそれが無造作に工房の片隅に放置されている状況に異変を感じ取った彼女が顔を青ざめさせる中、昨日のことを思い出したフィーが口を開く。
「アンさんは昨日、ここに来たんだ……! それで、真犯人にとって都合の悪いものを見てしまった。それで、襲われて――!!」
「くそっ! 緊急配備だ! アンヘルの捜索とこの場の状況保全、犯人の確保のための人員を要請してくる!」
間違いなくこれは緊急事態だと、そう判断したジンバがユーゴたちにそう叫びながら駆け出す。
アンヘルの身を案じるメルトとフィーは、動揺しながらもどうにかして彼女の安否を確かめる術を模索していた。
「どうしよう? アン、無事なのかな? 犯人に消されてたりしたら……」
「僕があの時、一緒に工房に行っていれば……!!」
アンヘルの生存を信じたいが、それを確かめる術がない。
不安を加速させていく二人であったが……そこにユーゴの声が響く。
「……心配するな、フィー、メルト。ピンチなことは間違いなさそうだが……どうやらアンは生きてるみたいだぜ」
その言葉に驚いた二人へと、振り向いたユーゴが笑みを見せる。
仲間たちを安心させるように振る舞う彼は、続けてこう言ってみせた。
「助けに行こう、アンを。そこに犯人もいるはずだ。事件解決まで、一気に行くぜ!」
――――――――――
明日から始まるお話が二章のラストエピソードになります。
一本のお話を作る、という意識のせいか若干ニチアサ感が薄いお話が続いてしまいましたが、最後くらいは熱くいきたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します!
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