魔剣の脅威は終わらない
「ユーゴ、少し時間をもらえるか?」
「ん? なんか俺に用ですか?」
「ああ、ちょっとな。二人で話がしたい」
パーティーが進んで、みんなが楽しく食事をしたり話をしたりしている中、不意にジンバから声をかけられたユーゴはその雰囲気に何か妙なものを感じていた。
ジンバは笑顔ではあるが、その下から真剣さと緊張がにじみ出ている。今、彼の顔に浮かんでいるのは心からの笑みではないということを察知したユーゴは、自分と二人きりで話がしたいというジンバに頷くと共に盛り上がる仲間たちを置いて、店の裏口から外に出た。
「どうしたんですか、急に? 二人きりじゃなくちゃ言えないことなんです?」
「……ああ、そうだ。ユーゴ、俺はお前を高く評価している。ブルゴーレムの事件も今回の強盗事件も、お前は事件解決と被害拡大の阻止に大きく貢献してくれた。だからこそ、俺はお前にこのことを話そうと思う。これは警備隊の中でも一部の人間しか知らないトップシークレットだ。心して聞いてくれ」
店の中で見せていた笑みを打ち捨て、真剣そのものといった表情になったジンバがユーゴへとそう前置きをする。
周囲を確認し、自分たち以外の誰の姿も気配もないことを確認した後、彼はユーゴに驚くべき事実を告げた。
「……回収した魔剣が、盗まれた。バッツが使っていた魔剣は、現在行方不明なんだ」
「なっ……!?」
ジンバが発したその言葉に驚愕するユーゴ。
どうにか飛び出しそうになった叫びを押し殺した彼は、ジンバへと矢継ぎ早に質問を投げかける。
「ぬ、盗まれたって、誰に? どこで盗まれたんです? 足取りはわかってるんですか?」
「すまない、何もわからないんだ。専門の回収班が魔剣を確保したところまでは間違いない。だが、その後の輸送前に忽然と姿を消してしまったらしい。犯人の手掛かりも何も見つけられず、必死の捜索活動が行われている状況だ」
「そんな……!? 警備隊は何をやってたんです!?」
「……本当に申し訳ない。お前が命を懸けて戦い、回収してくれた魔剣を盗まれるだなんて、とんでもない失態だ。お前にはただ謝ることしかできない」
深々と頭を下げて自分に謝罪するジンバの姿を見つめながら、やり切れない気持ちに首を振るユーゴ。
魔剣の回収や警備については関与していないであろう彼を責めても仕方がないと口を噤むユーゴに対して、ジンバが言う。
「これは決して言い訳ではないが、警備と輸送の指揮を執っていたロンメロさんが気を抜いていたせいでそうなったというわけではない。思い込みは激しかったが彼は職務に忠実だったし、エーンの件での失態を取り戻そうと奮起していた。だが――」
「それでも盗まれた。つまり、相手は相当なやり手ってことっすね?」
こくりと、ユーゴの言葉にジンバが頷きを見せ、肯定する。
何者かは知らないが、魔剣の価値と危険性を理解している強大な力を持つ存在が警備隊の下からそれを盗み去ったのだと、そういう共通認識を抱いた二人はそこから話を続けていった。
「捜索の状況は? どれくらいの人員を充ててるんですか?」
「かなりの大人数だよ。だが、それでも足取りが掴めてない。……ロンメロさんも今は陣頭指揮を執っているが、じきにこの件の責任を取らされるだろうな」
「降格とか、異動ってことっすか?」
「それで済んだら御の字だな。まあ、かなりの可能性でこうなる」
自分の首に手刀を当て、クビのジェスチャーをするジンバ。
ロンメロのことは気の毒に思ったが、それ以上にあの危険な魔剣を持つ人間が今もこの街のどこかに潜んでいるという事実に危機感を抱くユーゴは、ジンバから視線を逸らすと共に一人呟いた。
「いったい誰なんだ? 魔剣を盗み出した奴は、何を企んでる? やっぱり最初にバッツに魔剣を渡した、黒フードって呼ばれてる奴なのか……?」
この事件の黒幕とでもいうべき黒フードが、自身の所持品である魔剣を回収しにきたと考えるのが一番しっくりくる考察だ。
しかし、事実はそんな想像とはかけ離れた、もっと最悪に近しい身勝手な男の行動によるものだということをユーゴは知らない。
盗まれた魔剣、その行先は……彼の想像よりもずっと身近なところにあった。
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