事件解決後、カフェにて
「あの二人だが、怪我も大したことなく済んで、今は素直に取り調べに応じてるよ。バッツも魔剣の影響が消えたお陰か、元の落ち着いた性格に戻っているという報告も受けている」
「そっか……! 本当に良かった……!」
事件から数日後、戦闘の被害を修復し終え、明日から営業を再開しようとしているカフェに集合したユーゴたちは、その後のことを知っているジンバから報告を受けていた。
サンガとバッツの現状を彼の口から聞かされたエーンは安堵の表情を浮かべると共に、二人の今後についての話にも耳を傾けていく。
「サンガの方は前科こそあるが、今回は脅されて手を貸していたという事情があるし、取り調べにも協力的なことも加味して少ししたら釈放されるはずだ。バッツの方は……強盗事件の主犯だし、懲役は免れないだろう。魔剣の影響が完全に消えたかどうかも観察する必要がある。暫くは警備隊の監視下に置かれるだろうな」
「そう、ですか……仕方がないですよね……」
「でも、それで良かったのかもしれないな。魔剣を渡した奴がバッツを口封じしに来るかもしれないけど、警備隊が監視してくれてるなら安全だろ?」
「そういう部分を考慮しての判断でもある。ただ、魔剣を渡した黒幕……黒フードの目的は完全に不明だ。バッツの負の感情を見抜いて奴を唆し、魔剣を渡したのかもしれないが、それにしたって他にもっといい候補が山ほどいたはず。どうしてバッツを選んだのかもわからない」
「事件の裏で動く黒幕、黒フード……まだそんな奴がこの街に潜んでいるって考えると、怖いものがありますね」
「警備隊も全力を挙げて奴の足取りを追っている。第二、第三のバッツが生まれないよう、力を尽くすつもりだ」
不安気なフィーの言葉を受けて、警備隊に所属しているジンバが彼を安心させるように胸を叩きながら言う。
一つの事件は解決したが、その裏に潜んでいたまた別の闇が出現したといういまいち喜ぶことができない状況に微妙な空気が漂う中、キッチンから大量の料理を手にしたマスターがやって来ると共に、明るい声で一同へと話しかけてきた。
「はいはい、事件の話はここまで! 皆さんには色々とお世話になりましたからね! 営業再開祝いも兼ねて、お腹いっぱい食べていってくださいよ!」
「うわぁ……! いいんですか!?」
「もちろん! この店やエーンが無事なのも、メルトちゃんたちのお陰だからね! これはそのお礼ってことで!」
「わ~い! やった~! じゃあ、遠慮なく……いっただっきまーす!!」
ピザやらフライドポテトやらの美味しそうな料理へと、満面の笑みを浮かべながら手を伸ばすメルト。
やや重めだった空気を一瞬にして振り払ってくれた彼女が幸せそうに料理をパクつく中、料理を運んできたマスターがジンバへと言う。
「ジンバさん。サンガの奴が釈放されたら、この店に来るように伝えてください。あいつとバッツが釈放されたら、この店で雇おうと思ってるんです。口は悪いけど友達想いのいい奴らですし、放っておけなくて……」
「……わかりました。必ず、二人に伝えておきます」
エーンだけでなく、この事件で自分たちに被害を与えたサンガとバッツの面倒を見ると言ったマスターへと、力強く頷くジンバ。
彼への感謝を込めて頭を下げるマスターの姿を見ながら、メルトがエーンへと声をかける。
「良かったね、エーン! また三人一緒にいられるよ!」
「うん! ……私、頑張るよ。バッツが出てきた時にサンガと一緒に迎えに行けるよう、ここがバッツの居場所だって言えるよう、頑張る!」
「その意気だ! 俺も友達として応援するぜ、エーン!」
三人での再出発を誓うエーンを応援しながら、彼女へとサムズアップするユーゴ。
ここまでの流れを見ると、紆余曲折ありながらもハッピーエンドを迎えられたようにも見えるのだが……一人だけ、怒りを露わにしている人物がいた。
「ユーゴ……! な~にいい感じに場を締めようとしてるんだ? アタシの通信機がまだ戻ってないのを忘れたか?」
「ぐえっ!? あ、アン!?」
額に青筋を浮かべながら、拳を握り締めながら、ユーゴの肩を叩いたアンヘルが彼への怒りをありありと込めた言葉をぶつける。
目の前で燃え盛る憤怒の炎に気圧されるユーゴは、必死になって言い訳を口にしていった。
「い、いや、悪かったって! でもほら! 調査が終わったら返してくれるって言ってたし、そう怒らないでくれよ? なっ!?」
「これが怒らずにいられるか! そもそもお前が盗まれたりしなきゃこんなことにはならなかったんだろうが! 罰としてブラスタの腕のロケット変形機能は削除するからな!」
「えええええっ!? ちょっと待ってくれよ! まだロケットドリルキックやってねえんだって! もう少しだけ待ってくれって!」
「あんな不安定な機能をそのままにしておく意味なんてないだろうが! そもそも、空を飛びたいんだったらロケットを付けるべきは腕じゃなくて背中だろ!」
「そりゃあ、そうかもしれないけどよぉ……そこはヒーローの美学っていうか、なんていうかさ……」
「……あ~、そうかい。ブラスタに手を出されるのは不満かい? なら、代わりにフィーにあんなことやこんなことをしてやろうかねぇ?」
「うえっ!?」
そう言いながら、アンヘルがフィーの肩を抱いて自分の方へと引き寄せる。
驚きの悲鳴を上げる彼を片腕でホールドし、もう片方の手で頭を撫でながら、彼女はユーゴへと見せつけるようにしながら言った。
「さ~て、どんなことをしてやろうかな~? ブラスタの代わりにたっぷりかわいがってやるから、覚悟しとけよ~?」
「あわわわ……! に、兄さ~ん、助けて~……!」
「ストップ! ストップ! 悪かったって! ロケットアームの機能を削除していいから! 通信機もなるべく早く取り戻すから! だからフィーに手を出すのはやめてくれ~っ!!」
アンヘルの脅しを受けたクレイ兄弟の悲鳴と、それを見守る一同の笑い声が店内に響く。
こうして、綺麗なオチをつけたこの事件は一抹の不穏さと大多数の明るい雰囲気の中、特撮番組さながらの終わりを迎えるのであった。
……そう、ここで終われば特撮番組の一エピソードとして完璧な内容だっただろう。
だが、話はここでは終わらない。楽しい雰囲気のまま、次のお話が始まったりはしない。
蛇足、あるいは残された一抹の不穏さを増大させる話の続きは、ジンバの口から語られることとなる。
―――――――――――
夕方にもう一話更新するよ~!
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