悪友の心境、そして真相

「お、おおお……っ! こいつが強盗事件の犯人だっ! 確保しろ~っ!!」


 突然の事態に動揺しながらも警備隊としての仕事を思い出したロンメロが部下たちに指示を飛ばす。

 それぞれの得物を手に、本性を現したバッツを取り押さえるべく行動を開始しようとする隊員たちであったが、彼は小さく舌打ちを鳴らすと面倒くさそうに呟きながら武器である剣を振るってみせた。


「ここだと狭過ぎて上手く戦えないな。全員斬り殺してあげるから、外で戦おうよ」


「うおおおおおっ!?」


 ぶんっ、という音を鳴らすようにバッツが腕を振れば、握られた剣からその軌跡をなぞった赤黒い斬撃が飛ぶ。

 刺し貫かれたサンガの血の色を滲ませたような魔力の斬撃はカフェの窓を破壊し、バッツもまた俊敏な動きでそこから外へと飛び出していった。


「にっ、逃がすな! 絶対に取り押さえるんだ!」


 バッツを追ってロンメロ以下警備隊員たちがどたどたと足音を響かせながら店から出て行くと共に、外で待ち受けていた彼と激闘を繰り広げ始める。

 状況を理解できずに呆然としていたエーンであったが……苦し気に呻くサンガの声を耳にしてはっとすると、メルトから治療を受ける彼へと縋り付くようにしながら呼び掛けていった。


「サンガ、しっかりして! 死なないで! サンガ!」


「離れるんだ、エーン!! メルトの治療の邪魔になる!」


「おい、しっかりしろ! 出血量はそう多くねえ! お前は助かる! だから気をしっかり持つんだ!」


 泣き叫ぶエーンとそんな彼女を抑え、メルトの邪魔にならないようにと引き剥がすマスター。そして刺されたサンガへと必死に呼び掛けるユーゴと、回復魔法を用いての治療を行うメルト。

 その四人と警備隊を代表してこの場に残ったジンバが見守る中、ある程度傷が癒えたところでサンガが目を開いた。


「サンガ! 良かった……!」


「刺された場所が脇腹だったから、そこまで重傷にはならなかったみたい。だけど、私がやったのはあくまで応急処置だから、どこかでしっかり治療を受けないと危ないよ」


「しかし、この状況では外に連れ出すこともできないぞ。バッツをどうにかしないと……!」


 彼が意識を取り戻したことに安堵するエーンへと、まだ油断のならない状況であることを伝えるメルト。

 彼女の言葉を受けたジンバは警備隊員たちを悠々と相手取るバッツの大立ち回りを見ながら、苦しそうに呻く。


 一つの山場は超えたが、まだ緊急事態は続いている。

 何がどうなっているのかがわからないでいる一同を代表して、事件の容疑者として疑われ続けていたエーンが意識を取り戻したサンガへとこう問いかけた。


「サンガ、何があったの? どうしてあなたたちが強盗なんて……? 私があなたたちと縁を切ったことが気に食わなくて、仕返しをしようとしたの?」


「違う、違うんだ、エーン……! 俺も、バッツだって、お前を恨んでなんかいなかった。信じてもらえないかもしれないが、俺たちはお前を応援してたんだ。だけど、バッツがおかしくなっちまって、こんなことに……本当に悪かった。許してくれ……!」


「エーンを、応援してた? どういうことなんだ?」


「……どうやら詳しく話を聞く必要がありそうだな。つらいだろうが、知っていることを順序立てて説明してくれ」


 未だに全容が見えない事件を謎を解くために、サンガからの説明を求めるジンバ。

 彼の言葉に頷いたサンガは、エーンを見つめながら彼女と別れてからの自分たちについて話をし始めた。


「エーン……お前が足を洗って真っ当にやり直すって聞いた時はショックだったさ。でも、俺もバッツも心のどこかではこのままじゃいけないってわかってたんだ。三人で一緒に過ごす毎日は幸せだった。でも、いつまでも犯罪に手を染めて生き続けるわけにはいかないって……お前が俺たちと縁を切るって言った時、ついにこの日がやってきたんだって思った。寂しいけどお前の決断を受け入れて応援しようって、俺とバッツはそう決めたんだ」


「そんな……! 私はてっきり、二人に恨まれてるとばかり……!」


「ずっと一緒にやってきた仲間を恨むわけないだろ。信じてもらえるとは思わないが、俺たちは本当にお前のことを応援してた。それに、お前が全てをやり直すことができたのなら、俺たちだってもしかしたら同じようにやり直せるんじゃないかって期待もしてたんだ。見守ろうって決めた。俺たちもエーンみたいに過去と決別する時がきたんだって、バッツともそう話してた。なのに、それなのに――」


 苦しそうに顔をしかめたサンガが視線を店の外に向ける。

 倒れている彼からは見えないが、そこで警備隊員たちを相手にしているであろうもう一人の友人の姿を思い浮かべたサンガは、刺された痛みよりもつらい心の苦しみに声を詰まらせながら話を続けた。


「――あの剣が全てを狂わせたんだ。あれを手に入れてから、どんどんバッツはおかしくなっていった。それで、あんなことに……!」


「剣が全てを狂わせただって? まさかあの剣、か!? おい! バッツはあの剣をどこで手に入れたんだ!?」


「詳しいことはわからねえ。だけど、あいつは貰ったって言ってた」


「貰っただと? 誰に貰ったんだ!?」


 バッツが剣に狂わされたというサンガの言葉に、血相を変えて彼を問い質すジンバ。

 その変わりようにユーゴたちが驚く中、サンガはその質問に対してこう答える。


「名前も、どんな奴なのかも知らねえ。だけどバッツはそいつのことを……黒いフードを纏った奴だって言ってた」

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