犯人、発覚!

 凶悪な顔を怒りでさらに凶悪にしながらユーゴへと詰め寄るサンガ。

 そんな彼の態度にも怯まず、真っ直ぐに視線を向けながら、ユーゴはこう答える。


「簡単だよ。お前はさっき、エーンに対して逃げちゃダメだって説得したメルトに対して、こう言ったよな? 『信用できるかもわからねえ奴の証言と証拠とも呼べねえそんなチンケな魔道具一つで犯人にされるくらいなら、逃げた方がいい』って……」


「それのどこがおかしいって言うんだ? 俺の言ってることに間違いがあるか!?」


「エーンに逃亡犯になれっていう部分に関しての是非を除けば、まあ間違ってなくもない意見にはなるわな。でも、俺が気になったのはそこじゃねえんだよ」


 そう言いながら、ユーゴがテーブルの上に置いてあった証拠品……昨日に何処かに落してしまった通信機を手に取る。

 それをサンガへと見せつけながら、真っ直ぐに彼の目を見つめながら、ユーゴはこう問いかけた。


「サンガ、お前はどうしてこいつがだってわかったんだ?」


「あ? ……あっ!?」


 一瞬、ユーゴが何を言っているのかわからないというような表情を浮かべたサンガであったが……自身の失言に気が付くと同時にしまったという心の中の思いがそのまま顔に出てきたかのような表情になった。

 その反応を受け、ユーゴに代わってジンバが彼とこの場の面々に対して説明を行う。


「犯人が現場に落としたとされるこの遺留品ですが、一見するとただのコンパクトにしか見えない。事実、詳しく調査をしなかったロンメロさんも私も、説明されるまでこいつが魔道具だということに気が付かなかった。だが、この場でちらっとこいつを見ただけのお前は、何の迷いもなくこのコンパクトをチンケな魔道具と言ってのけた……ユーゴの言う通り、確かにこいつは不自然な話だな」


「一応言っておくが、話の中でこいつのことを魔道具だって言ったのはお前だけだぜ。事情を知ってるメルトやマスターも俺の所持品だとは言ったが、魔道具だなんて一言も言ってない。それなのにどうしてお前はこれが魔道具だってわかったんだ? 納得のいく説明をしてもらおうか」


「ぐっ、ぐぅっ……!」


 明らかに動揺しているサンガは、言葉を詰まらせると共に苦悶の表情を浮かべ始めた。

 先ほどまでの威勢のいい態度を引っ込め、唸ることしかできなくなってしまった彼へと、ジンバがさらに追い打ちをかける。


「ユーゴ、一つ質問させてもらっていいか? お前はさっき、警備隊が乗り込んですぐにこの店の中に入ったと言っていたが……この二人は、その後に店に入ってきたか?」


「いや、見てないっすけど……」


「ということはつまり、この二人はユーゴより早く店に入ったことになる。だが、店の中はご覧の通り客の一人もいない有様、こいつらが来ればすぐにわかるはず。こいつらはいったい、どのタイミングで店の中に入ってきたんだ?」


「……まさか、入ってきたとでもいうのか? 馬鹿な! こんな奴らが紛れていたら、すぐに気が付く――はっ!?」


 ジンバの指摘を受けたロンメロがそれを否定しようとするも、その途中にある可能性を思い至ると共に顔色を変える。

 大きく頷いたジンバは、青ざめる彼へと言い聞かせるように意見を発した。


「あくまで可能性でしかありませんが、こう考えれば辻褄があう。この二人には、と……それを応用すれば、自分たちの姿を容疑者であるエーンに変えることも不可能ではない」


「じゃあ、じゃあ……この二人が強盗事件の犯人で、エーンに罪を擦り付けようとしてたってこと!?」


「正しくは警備隊の疑いの目を向けさせることで、彼女を仲間に引き戻そうとしてたんだろう。ロンメロさん、あんたはまんまとこいつらの思い通りに動かされていたんだよ。最初からエーンを犯人だと決めつけずにきちんと捜査をしていれば、こんなことにはならなかったものを……!」


「ぐ、ぐぐ……っ!?」


 自身の杜撰さを指摘されたロンメロが顔を真っ赤にして呻く。

 捜査官してあるまじき思い込みの激しさと視野の狭さを犯罪者に利用されていたという事実に彼が言葉を失う中、信じられないといった様子のエーンがサンガへと問いかける。


「本当に……二人が犯人なの? 私を仲間に戻すために、強盗なんて真似をしたの? そんなに私が二人から離れることが気に食わなかったの……? 答えてよ、サンガ……!!」


「……違う、違うんだ、エーン! 俺たちはお前のことを――え?」


 ――ドスッ、という鈍い音が響いた。

 必死に何かをエーンへと訴えかけようとしていたサンガがその音を耳にすると同時に視線を下に向ければ……ジワリと服に血を滲ませながら自身の脇腹を貫いた剣の切っ先が目に入る。


「サン、ガ……!?」


「ぐっ、はっ……」


 事態を把握しきれずに呆然とするエーンの目の前で崩れ落ちるサンガ。

 倒れた彼の背後に立っていた人物は、そんな彼のことを見下ろしながら吐き捨てるようにして言う。


「……役立たず。もう少しだったのに。もう少しで、僕はエーンとずっと一緒にいられたのに……!」


「バッツ……!? あなた、自分が何をしたかわかってるの!?」


「わかってる。わかってるよ、エーン……! 僕を置いてどこかに行ってしまうだなんて許さない。僕は君が好きなんだ。君と一緒にいたいんだ。だから、だから――」


 弱々しく、何かに怯えていた青年としての皮を脱ぎ捨てたバッツが、狂気に満ちた瞳を妖しく輝かせる。

 サンガを貫き、血で濡れた剣を手にしている彼は、喉を鳴らして狂ったように笑った後、真顔になって口を開いた。


「――僕の邪魔をするものは、全部壊してやる」


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