暴走するロンメロ
「邪魔するぞ! エーンはいるか!?」
「ん……? またあんたか」
けたたましい音を響かせながらドアを開け、店へと入ってきたロンメロの姿を見たマスターが不快感を露わにしながら反応する。
そんな彼からの言葉を無視したロンメロは、自分を見つめて緊張した面持ちを浮かべているエーンの下に近付くと、威圧感たっぷりに声をかけた。
「とうとう尻尾を掴んだぞ! お前も罪を認める時が来たようだな!」
「えっ……? ど、どういう意味ですか?」
「とぼけても無駄だ! 昨晩、お前がまた強盗に手を染めたことはわかっている! 被害者の他に、犯行の瞬間を見ていた目撃者がいたんだ! その人物からばっちりとお前の特徴に合う犯人の姿の目撃情報も取れた! 犯行の際、持っていた刃物で被害者を斬りつけたという証言もな!」
「し、知りませんっ! 私、昨晩は一歩も外に出てなんかいません!」
「そうだよ! 昨日は私がエーンの家に泊まって、ずっと一緒にいた! エーンが何もしてないって、胸を張って証言できるよ!」
「なにぃ……? ふんっ! 顔見知りの証言なんて信用できるか! 仲間を庇うために口裏を合わせている可能性だってあるしな! そもそも、犯行時刻は深夜だ! 一睡もせずに見張っていたのならまだしも、寝ている時間にこいつが家を出ていないという証明はできるのか?」
新たに得た昨晩の強盗事件を目撃した人物からの証言を武器に、エーンを追い詰めようとするロンメロは完全に彼女を犯人と決めつけているようだ。
昨晩はエーンと一緒にいたというメルトの証言も無視して彼女へと詰め寄るロンメロをやり過ぎだと思ったのか、ジンバが彼を止めに入る。
「そいつは横暴が過ぎるぞ、ロンメロさん。確かにあんたはあんたで証言を掴んだんだが、こっちの女の子も容疑者の潔白を主張する証言をしている。双方の意見が食い違ったのなら、まずはそれを解決するための捜査をするべきだ。一方的な考えで人を疑うあんたのやり方は間違ってる」
「黙れ! この事件の責任者は私だ! 同じ警備隊の人間とはいえ、事件の部外者には黙っていてもらおうか!」
ジンバが冷静にロンメロを諭そうとするも、その言葉にすら耳を貸さないでいる彼は自分に意見する同僚を一喝すると再びエーンへと鋭い視線を向けた。
気が付けば、いつの間にか店の中には彼の部下と思わしき警備隊員たちが乗り込んできており、エーンを確保する態勢を取っている。
ピリピリとした空気とロンメロたちの暴走を感じたメルトたちが緊張を抱く中、警備隊員の一人がテーブルの上に見覚えがある品を置いてみせた。
「ん……? これは……!?」
「なんだ? お前たち、こいつに見覚えがあるのか? こいつは現場に残されていた遺留品の一つだ。詳しく調べてはいないが、その手間も省けそうだな」
「これ、ユーゴの……? どうしてあなたたちがこれを?」
警備隊員が見せてきた物、それはユーゴがこの店に忘れてしまったコンパクト型の通信機だった。
どうしてこれが犯行現場に残されていたのか……? とメルトたちが困惑する中、ジンバがロンメロへと情報を提供する。
「ロンメロさん、こいつは昨日、この店を訪れていたユーゴという青年の所持品です。どうやら昨日の内に紛失してしまったみたいで、今、探し回っているらしい。ユーゴを呼んで、詳しく話を聞けば、何かわかるかもしれません」
「いや、その必要はない。私には事件の全容が見えたからな! やはり犯人は貴様だ、エーン!」
「え、ええっ!?」
現場に落ちていたユーゴの私物から、どうしてだかエーンが犯人だというシナリオを組み上げたロンメロが鼻息を荒げながら彼女を指差す。
メルトたちが驚きを露わにする中、彼は得意気に頭の中で作り上げたストーリーを全員の前で語り始めた。
「ユーゴとかいう男はこのコンパクトを落としたのではない、盗まれたんだ。昨日、この店を訪れた際にこいつを気に入ったエーンにな。盗人の本性が抑えきれなかったエーンはこっそりとこいつを盗んだ。しかし、ユーゴの顔見知りであるこの娘にコンパクトが見つかってしまえば、自分の犯行がバレてしまう。故に、この娘が泊まりにきている間、肌身離さず持っていたわけだが……それが犯行の際に致命的なミスを生んだ。うっかり盗んだ品を落としてしまったんだ。そうだろう!?」
「そ、そんな……違います! 私、盗みも強盗もやってない!!」
「言い訳は結構だ! 目撃証言に疑わしい証拠品、これだけあればお前をしょっぴける! 話の続きは取調室でたっぷりと聞いてやろう! 絶対に罪を認めさせてやるからな……!!」
「無茶苦茶だよ! 全部、あなたの妄想じゃん! その考えが正しいって証拠もないのに、エーンを逮捕だなんておかしいよ!」
「うるさい! 決定的な証拠はこの後の捜査で見つける! これはその証拠を隠滅させないようにするための措置でもあるのだ!」
メルトの抗議の声を無視したロンメロがエーンの身柄を拘束すべく、部下たちに指示を出す。
上司からの命令を受けて動こうとした警備隊員たちであったが……彼らが動くよりも早く、その合間を擦り抜け、突き飛ばすようにして駆けてきた二つの影がエーンを庇うように飛び込んできた。
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