サンガとバッツと魔道具と

「サンガとバッツが、ですか?」


「ああ、昔の友達を疑われて気分が悪いだろうが、どうしても気になってな……なんていうか、タイミングが良過ぎただろう?」


 エーンの友人を悪く言うことを申し訳なさそうにしながらも、自分の意見を彼女へと伝えるマスター。

 メルトも口には出さなかったが彼と同意見であり、それについてのエーンの見解を聞きたいとも思っていた。


 サンガやバッツについては、エーンがよく知っている。

 彼らが強盗事件に関与している可能性はないのか? という問いに対して、彼女は俯きながらこう答えた。


「マスターの気持ちはわかるし、私も少し考えたんですけど……多分、それはないと思います」


「どうしてそう思う? 根拠があるのか?」


「……今回の強盗事件、警備隊が私を疑っているのは被害者からの目撃情報があるからでしょう? あの二人と私とでは体格が違い過ぎます。万に一つも見間違える可能性はないですよ」


「しかし、小柄な男の方は魔道具らしき指輪を嵌めてた。あれの能力を使えば、被害者を騙すことができるんじゃないか?」


 マスターの言葉に、メルトは昨夜エーンから聞いた話を思い出す。

 盗みをする際、魔道具を所持しているバッツはその能力で実行犯であるエーンをサポートしていたと彼女は言っていたが、その能力を利用すればエーンに強盗の濡れ衣を着せられるのではないかとも、メルトは考えていた。


 しかし、そんなメルトとマスターの考えを否定するように、エーンはこう答える。


「それも不可能です。確かにバッツの魔道具は人を騙すことに長けた能力を持ってますけど……できることなんて、せいぜい小さな幻影を作り出すことくらいですから」


「幻影を作り出す? それだったら――」


「本当にそんな大した能力じゃないんだよ。バッツの魔道具は、私が盗んだ財布とかアクセサリーが鞄の中とかテーブルの上にまだ存在しているように見せかけるくらいのことしかできないんだ。強盗事件に利用するなんて、とてもじゃないけど不可能だよ」


 バッツの魔道具は確かに人を惑わせることができるが……可能なのは動かない小物を生成することだと答えるエーン。

 自分やサンガの姿をエーンに見せかけたり、その状態で動き回ったりすることなんて不可能だと二人に告げた彼女は、コーヒーを飲んで落ち着いてからこう続ける。


「正直、私も少し二人のことを疑ったりしました。でもやっぱり、サンガもバッツにはそんなことはできないし……するような人間だとも思えないんです。上手く言葉にできないけど、二人は根っからの悪人ってわけじゃないと思うから……」


 昨晩、自分がエーンの態度から感じた違和感の正体はこれだったのかと、彼女の話を聞いたメルトは理解した。

 二人のことを疑いながらもそれは不可能だと、そして自分を嵌めたり、無暗に人を傷つけるような人間ではないと、そうエーンは信じているのだ。


 きっとそれは、心のどこかで彼女がサンガとバッツのことをまだ友達だと思っているからなのだろう。

 自分たちよりも二人のことを知るエーンの意見に納得したマスターが頷く中、カランカランというベルの音が響くと共に店内に一人の人物が姿を現す。


「すいません、お邪魔します」


「あっ! ジンバさんじゃん!」


「おお、メルト。お前も来ていたのか。じゃあ、ユーゴも一緒か?」


「ううん。ユーゴはいないよ、私だけ。何か用があったの?」


「ああ、ちょっと話したいことがあったんだがな……」


 残念ながら、店にやって来たのは客ではなく、警備隊のジンバだった。

 ユーゴを探してここに来たという彼へと、マスターがそういえばといった雰囲気でこう言う。


「ユーゴくんなら、開店してすぐにここに来ましたよ。なんか、コンパクトみたいな物を見せて、こいつが店に落ちてなかったかって聞いてきましたね。残念ながら見てないって答えたら、慌てて外を探しに行っちゃいましたけど……」


「コンパクト? もしかしてアンから渡された通信機のことかな?」


「そうそう、飛び出す時にそのアンって子の名前も出してたよ。見つけられなかったらアンがフィーを改造人間にしちまうとかなんとか言ってたような……?」


 これだけの話で大体彼の身に何があったのかがわかった一同が慌てるユーゴの姿を想像してそのおかしさについつい噴き出す。

 この場にいないというのに暗い雰囲気を払拭した彼に感謝するメルトの前で、同じく呆れたような笑みを浮かべたジンバがマスターへと言った。


「仕方のない奴だな。でもまあ、ここで待っていればまた顔を出すかもしれないし……折角来たんだ、ランチでも注文させてもらいますかね。マスター、メニューを頂けますか?」


「はいはい、少々お待ちを! エーン、仕事だ。手を貸してくれ!」


「はいっ!」


 ようやくお客がやって来てくれたことを喜ぶマスターとエーンが、休憩を終えて仕事を始める。

 二人が嬉しそうに仕事をする様子を楽し気に見守っていたメルトであったが……その直後、店に招かれざる者たちがやって来てしまった。


―――――――――――――――

ちょっとテンポの悪さが気になったので少し多めに投稿します。

『シン・仮面ライダー』公開記念とでも思ってください(笑)

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