一方、メルトとエーンは……
「わざわざ家に泊まってくれるだなんて、本当にありがとうね。学校がお休みとはいえ、そこまでしてくれるだなんて……」
「気にしない、気にしない! 友達なんだから当たり前だよ! 私が一緒にいればアリバイの証明になるし、あのロンメロっていうおじさんにガツンと反論できちゃうもんね!」
夜、エーンの自宅で横になりながら彼女と話をしていたメルトが、ぐっとマッスルポーズを取りながら言う。
自分を元気付けてくれるメルトに感謝するように微笑んだエーンは、そこから少し寂しそうな表情を浮かべるとぽつりとつぶやいた。
「友達、か……サンガもバッツも、友達だったんだけどな……」
「……あの人たちに言われたこと、やっぱり気になっちゃう?」
「言われたことっていうより、あの二人自身のことかな。メルトたちの目には私がひどいことを言われてるように見えただろうけど、サンガとバッツが私を恨むのも当たり前なんじゃないかって、そう思うから……」
「え……?」
自分たちと縁を切り、再出発を果たそうとしているエーンの邪魔をしに来たサンガたちのことを遠回しに擁護する彼女の言葉に、目を丸くして驚くメルト。
エーンはそんな友人へと力なく微笑むと、彼らについて話していく。
「あの二人とは長い付き合いでさ、出会ったのはここからずっと遠くの町で、生きるために盗みを働いては目をつけられる前に別の土地に移動して……ってことを繰り返しながら、何年もずっと一緒にいた。盗みの実行犯は私で、魔道具を使う才能があったバッツがそのサポート。いざって時には腕っぷしが強いサンガが暴れるって感じで、悪党だけどいいチームだったんだ」
「……友達としてはどうだったの?」
「……いい友達だったと思うよ。お互いに危ない時は助け合ってきたし、三人じゃなかったら本当にヤバかったって思えるような出来事もあった。そういうのを全部一緒に乗り越えてきたからさ……友情とか、絆みたいなものはあったと思う」
「それでも、エーンは二人と手を切った。このままじゃいけないって思ったからでしょ?」
「うん……マスターと出会って、こんな私でも変わることができるんだって教えてもらって、やり直そうと思った。盗みはこれっきりだって自分に言い聞かせる意味も含めてあの二人と手を切ることで、私は自分自身の過去とも決別したつもりだったんだけど……やっぱり、そう簡単にはいかないよ。それに――」
「……それに?」
「――私が二人に言うべきだったのは、さよならじゃなくて一緒に行こうって言葉だったんじゃないかなって、そう思うんだ」
悪友たちに別れを告げた時のことを思い返したエーンが、後悔の表情を浮かべながら呟く。
過去との決別のためとはいえ、少なからず友情を感じていた彼らを置いて自分一人だけ別の道に進む判断を下したことを、彼女は悔やんでいる。
あの時、自分が彼らに別れを告げなければ……三人一緒にやり直す未来に進むこともできたのではないだろうか。
それをせず、一人だけで別の道に進んでしまった自分がサンガたちから恨まれるのも当然だろう……と考える彼女へと、メルトが言葉をかける。
「エーンが気にする気持ちもわかるよ。それだけ、大切な友達だったってことだもんね。何も知らない私が悪く言っちゃってごめん」
「ううん、メルトは悪くないよ。サンガの印象も良くなかったしさ……でも、そういう関係の相手だったからこそ、この事件に二人が関わっていてほしくないなって思うんだ」
「疑ってるの? やっぱり、あの二人が何かこの事件に関わってるって?」
「え? あ、うん……あんまりこういうことを言うべきじゃないよね。あはは、さっきまで友達だとか言ってたのに、私ってば薄情だなぁ……」
……少しだけ、メルトはエーンの反応に違和感を感じた。
単純に二人から恨みを買っているからではなく、彼らがこの事件に関わっているという確証を得ているような彼女の雰囲気に、メルトは僅かに眉をひそめる。
ただ、それをエーンに深く追求することはしなかった。
少なくとも今の彼女を追い詰めるような真似はしたくないし、エーンが言いたくないと思っているからこそごまかしているのだろうと考えたメルトは、今はその隠し事について深堀りするのはやめておくことにした。
「……ねえ、メルト。ちょっと聞いてもいいかな?」
「うん? どうしたの?」
そんなことを考えているメルトへと、エーンが不安気な表情を浮かべながら声をかけてきた。
どこか縋るような雰囲気を感じさせる彼女は、真っ直ぐにメルトを見つめながらこう問いかける。
「私、やり直せると思う? これまで悪事に手を染め続けてきた私が、本当に真っ当な道を歩けるようになるかな……?」
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