奇妙で気になる矛盾点
「前科があるエーンさんの周囲で多発している強盗事件、彼女が容疑者としてマークされる中、唐突に姿を現したかつての共犯者たち……これら全ては繋がっているんじゃないかって、僕は思うんだ」
「かつての仲間が悪事から足を洗って真っ当な道に進むことを良しとせず、仲間に引き戻すために犯罪者たちがあの手この手を尽くす……まあ、よくある話だよね」
「俺もそうなんじゃないかって思ってたんだ。ただ、なんかさ……こう、上手く言えねえんだけど、妙な感じがしてるんだよ」
「妙な感じって何のことだ? そのサンガとかいう奴らの何かが不審ってことか?」
「そうなんだけどそうじゃないっていうか。う~ん……これ、なんて言えばいいんだ……?」
フィーやアンヘルの意見に同意しつつも、直感で何か妙な感覚を覚えているユーゴがそれを言葉にできないもどかしさに唸りを上げる。
そんな彼に代わって、弟であるフィーが感じている違和感を言語化し、二人へと説明していった。
「僕が最初に変だと思ったのは、サンガって人たちがわざわざみんなの前に姿を現したってところなんだ」
「……どういうことだい、フィー?」
「仮にエーンさんの昔の仲間が彼女を引き戻すために強盗事件を起こしたとしましょう。警備隊にエーンさんを疑わせることで彼女を精神的に追い詰め、そんな彼女に甘い言葉を投げかけて仲間に戻そうという計画を立てていたとしたら、メルトさんやお店のマスターさんみたいなエーンさんの味方をする人たちの前で彼女を説得するのはおかしくないですか?」
「確かに……ユーゴたちの前でエーンを誘惑したとしても、周囲の人間がそれを止めるに決まってるし、実際にそうなってる。本気でエーンを仲間に引き戻すつもりなら、一人になったところでこっそりやる方が邪魔が入らないし、そっちの方が自然なはずだ」
「でも、彼らはそうしなかった。わざわざ邪魔されることを承知で店に乗り込んで、名前や顔を兄さんたちに明かしながら疑われるような真似をした。偶然とはいえ、お店の中には警備隊の一員であるジンバさんもいたっていうのに、どうしてそんな矛盾している上にリスクがある行動をしたんだろう?」
「そうだ! それだよ! あ~っ、代わりに説明してもらってすっきりした!」
感じていた違和感をフィーに変わりに説明してもらったユーゴがぽんと手を叩きながら叫ぶ。
そうした後で明確な答えが出た不審な部分について考えていった彼は、同時に実際にザンガと会話して覚えた違和感についても言及した。
「それと、サンガって奴なんだけどさ、妙に聞き分けがいいっていうか、諦めが早かったんだよな。フィーの言う通り、わざわざリスクを承知で店に乗り込んだかと思ったら、俺にちょっと止められただけであっさり引き下がった。な~んか変じゃねえか?」
「昔の仲間が警備隊に疑われてると知って、心配になって様子を見に来た……? いや、それにしては口振りや言葉が悪辣過ぎる。言ってたことから考えても、二人の目的はエーンを仲間に引き戻すことなのは間違いないだろう。ただ、強盗事件については無関係だったりするのか?」
「それともう一つ、実際に強盗事件の被害に遭った人たちからエーンさんの目撃情報が出ているのが気になるね。エーンさんは女性で、仲間の二人は男性。流石にこれを見間違えるはずなんてないはずだし、もしかしたら本当に強盗事件とは無関係なのかも……?」
「あ~っ! わっかんねぇ! 考えれば考えるほど、頭がごちゃごちゃしてきた!」
一つの疑問に応えは出たが、今度はまた別の疑問が出現してしまった。
わけがわからないと頭を抱えるユーゴの姿に苦笑を浮かべたアンヘルは、一呼吸おいてから彼へと言う。
「まあ、この辺はアタシらがどうこうするよりも警備隊に期待すべき部分だしね。推理はここまでにしておこうか。それよりもユーゴ、預けた通信機を返してくれよ。新機能を追加したいんだ」
「お、おお、ちょっと待ってな。確かこの辺に……あら?」
情報の揃っていない状況での推理は逆に間違った結論を出しかねないという意味も含め、この話を打ち切ったアンヘルが別の話題を出しつつユーゴへと声をかける。
預けた通信機を返してくれという彼女の言葉に着ている服のポケットを探るユーゴであったが、段々とその表情が焦りの色に染まっていった。
「……おい、どうした? 通信機は?」
「……無い。どっかで落としちまった、かも……」
「はあぁぁぁっ!? お前っ、何してくれてるんだ!? あれ、結構手間がかかってるんだぞ!? どこで落としたんだ!? 思い出せ!」
「え、ええっと……確かエーンの店でメルトに見せるためにポケットから出して、その直後に店の裏に行ったから、テーブルの上に置きっぱなしにしちまったんだ……!」
「お前、ふざけるなよ! 明日、朝一番で店に行って落とし物がないか確認してこい! アタシが持ってる方の通信機を持っていっていいから、絶対に見つけ出せよ! わかったな!?」
「う、うっす!」
武器であるハンマーを振りかざし、怒りの形相を浮かべて吼えるアンヘルへと背筋を伸ばしながら返事をするユーゴ。
胸の谷間からもう片方の通信機を取り出し、それを彼へと渡した後、頭を抱えたアンヘルがため息まじりに愚痴をこぼす。
「ああ……こんなことになるんだったら、まず最初に通信機の位置がわかる機能を追加しておくべきだった。お前の提案を色々面白半分で詰め込んだっていうのに、どうしてこういう局面で役に立たない機能を盛り込んじまったんだ……」
「わ、悪かったって。絶対に見つけてくるから、許してくれよ」
「当たり前だ! 言っておくがな、アタシはブラスタとフィーっていうお前の弱点を握ってるんだからな! もしも通信機を見つけられずにすごすご帰ってきてみろ。この二つの内のどちらかがとんでもない目に遭うぞ!!」
「ひ、ひぇぇ……! 助けて、兄さ~ん……!」
「わわわっ!? 頼むからフィーに手を出すのはやめてくれ~っ!」
鬼のような形相を浮かべながらフィーを人質に取って自分を恫喝するアンヘルの姿に、焦りを募らせたユーゴが許しを請う。
強盗事件も問題だが、今の自分にとってはこちらの方がより迅速に解決すべき問題であると思いながら、ユーゴは仲間たちと共に賑やかな夜を過ごすのであった。
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