メルトちゃん、嫉妬じゃん?
「おんぎゃ~~っ! 落ちるっ! 落ちる~っ!!」
「ににに、兄さ~んっ!?」
一方その頃、ユーゴは悲鳴を上げながら地面へと落下している真っ最中であった。
どうしてそんな事態に陥っているかと聞かれれば、彼の右腕にその原因があると答えるしかないだろう。
ブラスタを纏っている彼の右腕には、スカルから貰った炎属性の魔法結晶を用いて制作したロケットアームとでもいうべき装備が取り付けられており、現在彼はそれを使っての飛行実験を行っているところなのである。
純度も大きさも上物である魔法結晶のお陰で、人間一人ならば簡単に浮かび上がらせることができるくらいの推進力を得られたところまでは良かったが……問題はそれの扱いが想像以上に難しかったことだ。
そういえば、同じ装備を持つヒーローも初めて使った時にはこのロケットに振り回されていたなと思い返しながら、そんな思い出を振り返っている場合じゃないとセルフツッコミを入れたところで、ユーゴは地面に激突し、大きく体をバウンドさせる。
「ほんげ~っ!? おおお……っ! やっぱ難しいな、これ……」
アンヘルに無理を言って取り付けてもらった機能だが、彼女が渋っていた理由も今なら理解できる。
使いこなせれば有用だが、習熟にはかなりの努力が必要なロケットアームの性能を実際に体験したユーゴが、仰向けになりながら唸っていると――
「ユーゴ、ちょっといい?」
「んぁ? うおおっ!? めめめ、メルトぉ!? なにやってんだ、お前っ!?」
――聞きなじみのある声が耳に響いたかと思った次の瞬間、ユーゴの視界にピンク色の下着が飛び込んでくる。
スカートの中身を見せつけるように仰向けに立っている彼の視線の先に立ったメルトは、驚いて飛び起きたユーゴへと膨れっ面を見せながらこう問いかけてきた。
「私が何を不満に思っているか、ユーゴはわかる?」
「え、ええ……? ふ、不満って言われましても……!?」
ついつい敬語になってしまいながら、メルトがこんなことを言ってきた理由を考えるユーゴ。
全く怖くないどころかかわいさすら覚える膨れっ面になっている彼女はどうやら自分に対して何らかの不満を抱いているようだが、それが何なのかがわからない。
何かやらかしたっけかな……? とユーゴが必死に考える中、ふはぁとため息を吐いたメルトが寂しそうな声でその答えを口にし始めた。
「……最近、ユーゴがブラスタの強化のために頑張ってるのはわかってるよ。そのためにアンと沢山話す必要があるっていうのもわかる。でもさ、そのせいで私に対する扱いが雑になってたりしない?」
「う、うぅ~ん……」
自覚はなかったが、そうかもしれない。
近頃はブラスタに自分の理想の機能を詰め込むことばかり考えていたし、そのためにアンヘルとばかり関わっていたことも確かだ。
メルトのことを乱雑に扱った自覚はないが……新しくできた友人にばかり構っていれば、確かに彼女のことをおざなりにしていたと思われても仕方がない。
自分とブラスタのことばかり考えていたせいで彼女を寂しがらせてしまったなと、申し訳なさを抱いたユーゴに対して、同じく罪悪感を抱いているであろうメルトが言う。
「……ユーゴに悪気がないってことも、こんなこと言っても困らせるだけだってこともわかってるよ。でもさ、やっぱり寂しいじゃん。一応はキスもしたし、裸も見せた相手なわけだしさ……」
「うっ……!?」
忘れていたわけではないが、できれば事故として忘れたかった思い出をメルトの言葉によって呼び起こされたユーゴが小さく呻く。
メルトの言う通り、自分は彼女とキスもしたし、一方的にではあるが裸も見てしまったのだと、改めてそのことを自覚したユーゴは、脳内で必死に自分のすべきことを模索し始めた。
(マズいマズいマズい、マズいぞ……!! これはもう男として責任を取る以外の道はないのでは!?)
ここまでのことをしておいて何の責任も取らないというのはヒーローを目指す者として……というより、男としてマズい気しかしない。
自分が入る前のユーゴは女にだらしないクズと呼ばれていたが、このままメルトを放置していてはその彼と同じクズに成り下がってしまうだろう。
それに……メルトには本当に感謝している。
異世界に転生して右も左もわからない自分をフィーと共に支えてくれたし、この世界で初めての友達にもなってくれた相手だ。
単純に、純粋に、彼女を悲しませたくないと考えたユーゴは意を決すると、彼女の肩を掴むと真っ直ぐに顔を見つめながら口を開く。
「め、メルト!」
「えっ!? あっ、はいっ!!」
唐突に声を出したせいで思っていた以上の声量になってしまったことに自分自身で驚きながら、同じく不意に肩を掴まれて真剣な表情を浮かべた彼に見つめられていることに驚くメルトへと、真っ直ぐな視線を向けるユーゴ。
ちょうどそのタイミングで墜落した自分を追いかけてきたフィーが姿を現したことにも気付かないまま、彼はメルトへと途切れ途切れの口調でこう告げてみせた。
「週末、デート、しよう!」
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