数日後、メルトとのデート当日
――それから数日後、ユーゴは『ルミナス学園』の正門前にいた。
いつも通りの学生服姿の彼ではあるが、普段とは違ってどこか緊張した面持ちを浮かべている。
勢いでメルトを誘ってしまったはいいが、デートだと明言した上で二人きりで出掛けるという状況に気恥ずかしさというよりもプレッシャーを感じているのが現状だ。
決してメルトとのデートが嫌なわけではないのだが……年齢=彼女いない歴であるユーゴにとっては、これは悪の組織の戦闘員がたった一人で五人組の戦隊+追加戦士一名を相手取るよりも難易度が高いのではないかと思わざるを得ない。
そもそも自分はこの世界に来てからろくに出掛けたこともないし、女の子が喜ぶようなデートスポットなんてものにはこれっぽっちも見当がつかない。
いや、それは転生前に住んでいた世界でもそうだったと、これは転生後とかそういう部分を言い訳にできるようなものではなく、単純に自分の性格の問題かとセルフツッコミを入れながら、ユーゴは現実逃避にも近しい想像を膨らませていく。
(デートといえば映画、映画といえば夏映画……二人で一人の探偵の映画は名作だったよなぁ……! 個人的には仮面ドライバーの映画も好きだったし、令和一作目も完成度高くて最高だったわ……戦隊の方は怪盗と刑事がバトルするやつが三十分とは思えないくらいに濃密でヤバかったしな……)
こんな時にまで大好きなニチアサのことしか考えないから彼女ができなかったんだぞ、とは言ってはいけない。彼も薄々は気付いているのだから。
ただまあ、現実逃避としてはこれ以上になく正しい形の妄想を繰り広げるユーゴがぼやーっと時間を過ごす中、本日のお出掛けのもう一人の主役が姿を現した。
「お待たせっ! 遅れちゃってごめんね!」
「あ、ああ、いや、別に大丈夫だ。俺も今、来たところだし……」
漫画やアニメの主人公が言うような台詞を自分が言っていることに対して違和感を覚えながらも、これが正しい対応だよなと抱いている不安をごまかすように待ち合わせ場所にやって来たメルトと会話するユーゴ。
自身と同じく学生服姿である彼女の姿を軽く見つめるユーゴへと、くすくすと笑ったメルトが言う。
「あはは、やっぱりユーゴ、制服で来たね。そんな気がしたから、私も制服で来て正解だったよ」
「な、なんか悪いな。持ってるまともな服がこれしかなくってさ……」
転生初日に住んでいた寮から追い出されたユーゴは、一応は私服と思わしき服を何着か所持している。
だが、なんというべきか……その服は豪華なのだろうが派手が過ぎるデザインをしており、ユーゴの美的センスには合わないどころか、普通に着ている人間がいたらお友達になりたくない代物ばかりだった。
結局、一番まともな服として選んだのが普段から着用しているこの学生服だったわけで、そういう意味ではユーゴの言っていることに嘘はない。
だが、折角のデートだというのに特別感も何もない制服を着てきたことに関して、メルトはどう思っているのだろうかと彼が不安に思っていると――?
「まあまあ、大体の事情はわかってるよ。それじゃあ、今日はユーゴの私服を買いに行こう! それで、その後でランチでもしてのんびりするってことでオーケー?」
「あ、ああ、オーケーだ」
「うんうん! 本日のデートコース、これでけって~い! じゃあ、早速行こっか? エスコートよろしくね、ユーゴ!」
「お、おう!」
なんだか何もかもをメルトに任せてしまって申し訳ないなと思いつつ、せめて彼女のエスコートくらいは頑張らせてもらおうと考えたユーゴが気合を入れて頷く。
それと同時に、制服姿のメルトを見つめたユーゴは、頬をぽりぽりと掻きながら謝罪の言葉を口にした。
「……その、悪いな。俺に合わせるために制服着させちゃってさ。気、遣ってくれたんだろ?」
「ん……? あはは、まあね! でもほら、今日、気に入った服を買ったら次は私服同士で遊びに行けるでしょ? 私の私服姿はその時のお楽しみってことで!」
にっこりと笑いながらのメルトの言葉に、少しだけ胸を弾ませたユーゴが息を飲む。
彼女の口振り的に、これからも定期的に二人で遊びに行くつもりがあるんだろうな……と考えたところで、気恥ずかしさに耐え切れなくなったユーゴは目の前のデートに集中することにした。
(と、とりあえず、今日だ! 今日、メルトに楽しんでもらうことだけに集中しよう! それが大事! ホーリーウイング!)
……普通に思考からニチアサオタクとしての性が消し去れていないことはツッコまないであげてほしい。本人も自覚しているのだから。
というわけで、何もかもが行き当たりばったりながらもなんだかんだで順調なデートはこうして幕を上げ、ユーゴとメルトは街へと繰り出していくのであった。
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