魔剣、出現!?メルトとデートと嫉妬の渦!
side:イザーク(動き始めた男の話)
「やあ、アン。ちょっといいかな?」
「うん? あんたは、確か……?」
「スケルトンホースの一件で顔を合わせたよね? 自己紹介がまだだったからここでさせてもらうよ。僕はイザーク・エリア。今年度から『ルミナス学園』に通うことになった転校生さ」
草原での一件から数日後、無事に『ルミナス学園』へと戻って平和な日々を過ごしていたアンヘルを訪ねたイザークが、自己紹介をしながら彼女をじっと見つめる。
ゲームの中で見続けてきたおなじみの赤いつなぎ姿の、大きく膨らんでいる胸部分に吸い込まれそうになる視線を必死に抑えながら、彼はこう話を切り出した。
「今日、君を訪ねたのはほかでもない。僕の専属技師になってくれないかな?」
「アタシが、あんたの? 随分と唐突な申し出だね」
「それは悪いと思ってる。でも、君は優秀な魔道具技師だ。ぼさっとしてたら他の奴にスカウトされちゃうでしょ? この間、ああやって出会えたのも何かの縁だ。この機会を逃すわけにはいかないと思ってさ……」
「ふ~ん……」
必死にアンヘルをスカウトすべく、彼女をおだてるイザーク。
その言葉に嘘はないし、実際に彼女を自分専属の技師にしたいとも思っているのだが、そこには男としてのスケベ心も多分に含まれている。
スケルトンホースの一件で少なからず好感度は上がっているはずだろうし、同じ技師であるネイドもこんな感じで話を持ち掛けたら、すぐに承諾してくれた。
だから、アンヘルに関してもこの話を受けてくれると思っていたイザークであったが……そんな彼に対して、アンヘルは首を左右に振ると共に拒否の意思を示してみせる。
「悪いね、その話には乗れないよ。アタシには、あんたの専属技師になるつもりはない」
「えっ!? ど、どうして、なんでさ!? 自慢じゃないけど、僕は結構な腕前の持ち主だ! スケルトンホースと互角以上に戦っている姿は君も見ただろう? 僕は他の生徒たちとは一線を画した強さを持っているし、君が作った魔道具の性能を十全に引き出せる! 僕と君はこれ以上ないコンビになれるはずだ! それなのに、どうして……?」
「確かにあんたは強いのかもしれないが、アタシには先約があってね。そっちを優先したいんだよ」
「……ユーゴ・クレイのことか」
先日の事件の中で、アンヘルを連れていたのはユーゴだった。
予想はしていたが、やはり彼女はユーゴの魔道具の整備を担当しているようだ。
先を越されたことを悔しがりながらも、イザークはどうにか彼女をユーゴから引き離せないかと説得を試みる。
「止めておきなよ、あんなクズと関わるのは。工業科の君は知らないだろうけど、あいつはこっちじゃ有名なクズ野郎だ。欲しい物は力づくで手に入れるし、女もとっかえ引っかえしてはすぐに捨てるような男だよ? 君のことだって、下心を持って見てるに決まってる。あのクズが何か問題を起こせば、君自身も君の名誉だって傷付くことになる。そうなる前に、あいつと手を切った方がいい」
「クズ、ねえ……その割にはメルトや弟から慕われてたように見えたけどな。あんたは高等部からこの学園に通うことになった編入生なんだろう? だったら、その話も尾ひれが付いてたりするんじゃないのかい?」
「そんなんじゃない! あいつは――!!」
どうにかユーゴの悪辣さを伝えようとするイザークであったが、アンヘルにはそんな彼の話に耳を貸すつもりはないようだ。
実際に自分の目でユーゴの言動や周囲の人々の反応を見ている彼女にとっては、伝聞がメインとしか思えないイザークの話に聞くだけの価値が見出せないのは当然だろう。
さっと手を前に出してイザークを制したアンヘルは、若干呆れたような表情を浮かべながら彼へとこう告げる。
「悪いが、あんたが何を言おうともアタシはユーゴとの契約を優先する。あいつのブラスタの面倒を見るのはアタシの役目だ。これがなかなか骨が折れる仕事でね……今は他の作業に手を出す余裕はないんだよ」
「待ってよ! 専属契約が無理なら、せめて魔道具の整備と開発くらいは――」
「だから、他の仕事を引き受ける余裕はないって言ってるだろう? 今もこれから新しく入手した炎属性の魔法結晶を使っての改造に着手しなくちゃならないんだ。悪いけど、今のアタシにはあんたの要望に応えることはできないよ。他を当たってくれ、じゃあな」
「あっ!? アン、そんな……!!」
あっさりとフラれてしまったイザークが、去っていくアンヘルの背中を見つめながら呆然と呟く。
子供っぽい気性をしている彼は悔しさを表すように地団太を踏んでいたのだが、やがて落ち着きを取り戻すと深呼吸をしながら自分へとこう言い聞かせ始めた。
(仕方がない、今は諦めるしかないか。メルトみたいに仲間にできないってアナウンスが流れたわけじゃあないんだ。焦らずにじっくり機会を待とう)
アンヘルと契約を結べなかったことは残念だが、まだ全てを諦めなければならなくなったわけではない。
タイミングを見計らって依頼を持ち掛ければ、彼女を引き入れるチャンスはある。
それに……実をいえば、イザークはユーゴのことが気になっていた。
ゼノンとの決闘に敗北し、記憶喪失になってからの彼の性格の変わりっぷりは異常の一言で、ゲームのシナリオが崩れている原因もそこにあるような気がしてならないのだ。
(まさか、ね……)
本来のシナリオをぶち壊したゼノンとユーゴとの役割が変わったということである程度納得はしていたが、こうして実際にユーゴと接触したイザークは強い違和感を覚えている。
もしかしたら彼は記憶喪失になったのではなく……別の人格が入り込んでいるのではないかと疑い始めていた。
もしもそうだったとしたら、ユーゴはただのキャラクターではなく、自分たちと同じ英雄の座を争うライバルということになる。
蹴落とすにしても、利用するにしても、ユーゴが自分たちと同じ転生者であるという確証がほしい。その上で、この情報を活かして立ちまわっていくべきだ。
(暫く見張らせてもらうか。クズユーゴ、お前が僕たちと同じ転生者なのかどうかも含めて、色々と探らせてもらうよ)
心の中でそう呟きながらほくそ笑むイザーク。
ユーゴを見張り、弱点や情報を探ろうとする彼であったが……自分自身のことを見つめる影が一つ、この場に存在していることには気付いていない。
その影はふっと気配と共にイザークを残してこの場から姿を消してしまう。
他者を監視しようとしている自分自身が何者かに監視されていたという皮肉な状況にも気付かないまま、イザークは早速、行動を開始するのであった。
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