side:イザーク(目的を達成できなかった男の話)
「くっそぉ、間に合わなかった……僕の炎属性魔法結晶がぁ……!!」
【隠密】のスキルを使い、気配を消した状態でスカルとユーゴたちとのやり取りを見守っていたイザークは、目的の品であった炎属性の魔法結晶を手に入れられなかったことを地団太を踏んで悔しがっていた。
ブルゴーレムに跳ね飛ばされた痛みで気絶し、意識を取り戻した後で大急ぎで回復アイテムを使ってここまで駆け付けたわけだが……全て遅すぎたようだ。
折角、『ルミナス学園』からこんなところまで遠出してきたというのに、クエストの報酬を入手できなくては何の意味もないではないか。
アンヘルと遭遇できたという予想外の収穫こそあったものの、それも当初の目的である属性付き魔法結晶を手に入れられなかったというマイナス要素を打ち消すほどのものではない。
イザークにとってここで炎属性の魔法結晶を入手できなかったことは、本当に信じられないくらいの痛手だった。
(マズい、マズいぞ……! 属性攻撃抜きで、これからどうやって戦えばいいんだ……!?)
前にも説明した通り、イザークが使う双剣は軽い一発の威力を連続攻撃で補うという軽打が主体の武器だ。
そのため、防御力が高いブルゴーレムのような相手にはダメージを与えにくく、苦戦するという弱点が存在している。
だが、それを補う方法がないわけでもなかった。物理以外のダメージを与える、属性攻撃がそれだ。
例えば双剣に炎属性を付与した場合、一発の攻撃ごとに剣で斬りつけたダメージに加えて、炎属性による魔法ダメージを相手に与えられるようになる。
これにより、物理防御が高いモンスターに対しても属性攻撃による魔法ダメージを与えられるようになり、それが戦闘の安定性を高めることにつながるわけだ。
属性付きの武器を制作するには、それに応じた魔法結晶が必要になる。
自分の弱点を補ってくれる属性武器を作ってもらうべく、その素材を入手できるこのクエストに参加したイザークであったが……まさか、一つの選択ミスによってその目論見が水泡に帰すとは、完全に予想外であった。
(くっそぉ! やっぱりアンヘルの好感度目的でスケルトンホースを見逃すべきじゃなかった。これから先、固い敵も出現し始めるっていうのに、この武器でどう戦えっていうんだよ……!?)
これも前に説明したことだが、イザークはソロプレイを信条とするゲーマーであり、それは異世界へと転生した今も変わらない。
仲間の力を頼りにできないソロプレイにおいては武器の重要性は普通のプレイに輪をかけて高まっており、それが満足に揃えられていない今の状況は、イザークにとってかなりマズい状況であった。
どうにかユーゴを説得して魔法結晶を譲ってもらえないかと考えたが、スケルトンホースに名前を付けるくらいに愛着を持っている彼が、友情の証とでもいうべき贈り物を手放す可能性なんて万に一つもあり得ないだろう。
決闘を吹っかけることも考えたが、ユーゴがそれを受ける可能性も限りなく低いだろうし、そもそも魔法結晶に匹敵するような価値ある物を今のイザークは持っていない。
最後の手段は闇討ちでの強奪だが、これもリスクが大きい選択だ。
万が一にも自分が犯人であることがバレたりなんかしたらゼノンの二の舞になってしまうし、そもそもユーゴから魔法結晶を奪った後で自分が属性武器を作ったりなんかしたら、疑いの目を向けられることなんてわかりきっている。
どう考えても諦めるしかないという結論にしか達せないことを悔しく思いながら、これからのゲームプレイの大きな助けとなるはずだった属性武器の入手を断念するしかないという状況にもどかしさを感じながら……ギリギリと歯軋りをして、胸の内にくすぶる感情を表すイザーク。
ユーゴの手の中に納まる赤色の魔法結晶を見つめながら、彼は強い執着を感じさせるような声で呟く。
「強い武器が必要だ……属性武器よりも強い、ソロプレイを貫き通せるだけの性能を持つ、武器が……!」
孤高の英雄を夢見るイザークにとっての相棒は、強力な武器以外の何者でもない。
強い武器さえあれば、自分は誰にも負けない。それだけのステータスや知識を有しているのだから。
強い武器が欲しい。こんな双剣じゃ物足りない。もっともっと、強力な装備を手に入れなくては……。
……ソロゲーマーとして、この世界で英雄を目指す転生者として、強大な力を求めるイザークがぐっと拳を握り締める。
その思いが後にとんでもない騒動と彼自身の悲劇を引き起こすことになるのだが……この時のイザークはそんなことに気付く由もなく、ただただ悔しさに拳を震わせ続けていたのであった。
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