さらば友よ、また会う日まで

「……終わったな。これからどうするんだ?」


「………」


 戦いが終わり、警備隊に後のことを任せたユーゴが仇敵を打ち倒したスカルへとそう問いかける。

 仲間たちと共に復讐を終えた彼の今後について尋ねてみれば、メルトが明るくこんな提案をしてみせた。


「行く場所がないんだったらルミナス学園に来ればいいよ! 私たちと一緒に過ごすのも悪くないでしょ?」


「一応は魔物であるスカルを街に入れるのは危ない気もするけど、事情を話せばわかってくれなくもないだろうし……」


「……って話になってるけど、お前はどうしたいんだ、スカル?」


 目を細め、自分の意思を確かめるべく質問を投げかけたユーゴをじっと見つめたスカルが小さく息を吐く。

 彼はそのまま瞳を閉じると、静かに首を左右に振ってユーゴたちへと否定の意思を示してきた。


「……そっか。なんか、お前ならそう答える気がしてたよ」


「ええ~っ!? なんで? 私たちのこと、好きになれないの?」


「そういうんじゃないさ。ただ、今のスカルには時間が必要なんだ。一度死んで、自分と似てるけど別の存在として蘇った。これまでは復讐っていうすべきことがあったから突っ走ってきたけど……それが終わった今、気持ちを整理する時間がほしいんだと思う。そうだろ?」


「………」


 こくん、とユーゴの問いかけに頷くスカル。

 そんな彼の顔へと自分の顔を寄せたユーゴは、仲間たちに聞こえない小さな声でこう囁いた。


「その気持ち、すげえわかるよ。実を言うと、俺もお前と同じ境遇だからさ」


「……!?」


 驚きが伝わってくるような表情を浮かべたスカルへとウインクをしてから、笑みを浮かべるユーゴ。

 自分も彼と同じく一度死んで蘇った存在であることをスカルへと伝えたユーゴは、その心境に理解を示しながら言う。


「悩んでこいよ、スカル。今の自分が何者で、これからどうするのかをさ。お前がその悩みに答えを出して、また俺たちに会いたくなったら……ルミナス学園に来てくれ。ダチとして、お前を歓迎するからよ」


 緩く握った拳をスカルの額に当てながら、彼の背を押すような言葉を口にしたユーゴが優しく頷く。

 スカルもまた自分に理解を示してくれるユーゴへと感謝を示すように頭を下げると、前足を地面に叩きつけて蹄を打ち鳴らし、小さな火球を飛ばしてみせた。


「うわっとぉ!? な、なんだなんだ……!?」


 地面にバウンドするように跳ねたそれはユーゴの顔の前まで飛び、そこから再び落下を始める。

 反射的にそれを受け止めてしまったユーゴであったが、燃え焦がすような熱ではなく、じんわりとした温かさを放つその炎の異質さに目を細めてみれば、その瞬間に炎の内側から赤く燃える結晶のような物体が姿を現したではないか。


「こいつは……魔法結晶じゃあないか! しかも、炎属性が付与されてるレア物だ! こんな上質な結晶、そうそうお目にかかれないぞ!!」


「……くれるのか? 俺に?」


 興奮気味に叫ぶアンヘルの声を耳にしながらユーゴがスカルへと問いかければ、彼は目を閉じたまま、頷いてくれた。

 敵討ちを手伝ってくれたことへの感謝であり、この事件を通じて絆を紡いだ友達への贈り物でもある炎属性の魔法結晶を受け取ったユーゴもまた、彼と同じように頷いてから口を開く。


「サンキュー、スカル。お前からのプレゼント、大切に使わせてもらうよ」


「……グッ」


 小さくいななくことで返事をしたスカルは、ユーゴたちに背を向けて駆け出していった。

 一行がその後ろ姿を見送る中、昇ってきた太陽が草原を照らし出し、そこを駆け抜けるスカルへと日の光を浴びせる。


「おぉ……っ!?」


 一瞬、日の光を浴びたことでスケルトンホースとしての姿を見せたスカルであったが、即座に生前の姿である黒い馬としての姿を取り戻すと、そのまま元気に日を浴びながら走り続けていった。

 ほんの少し前までは強い光を浴びたら魔物としての姿を曝け出していたはずのスカルが、どうして……? とユーゴが疑問に思う中、傍に立つフィーがその理由を説明する。


「きっとスカルは、復讐を終えたことで怒りや憎しみっていう負の感情からも解き放たれたんだよ。スケルトンは死体に負の感情を持つ怨念が宿ることで生まれる魔物。スカルがあのまま復讐のために戦い続けていたら、残っていた理性も消えて、いつしか本物の魔物になってたと思う。兄さんと出会って、復讐を遂げて、友達って呼べる存在を新たに見つけ出すことができたから……スカルも過去を振り切って、前に進もうって気持ちになれたんだと思うよ」


「そうか……俺は、あいつの滅びの運命を変えられたんだな……」


 もしもスカルがブルゴーレムとの戦いを長く続けていけば、その内側に宿っていた復讐の念はいつか彼の理性を完全に塗り潰していただろう。

 理性の残る黒馬からスケルトンホースという魔物へと変貌する前に、スカルは復讐を遂げ、過去を振り切ることができた。

 そして、新たな友との出会いが、自分自身が新しい生き方を見つけ出すための心の支えになっているのだ。


 外来種としてこの世界に混乱を運んでしまったかもしれないという苦悩を抱えていたユーゴであったが、こうして自分との出会いで救われた者がいるということは、彼自身の心の救いにもなっていた。

 昇る日に向かって駆ける友の背を見送りながら、彼は静かにその後ろ姿へと語り掛ける。


「……またな、ダチ公。いつかまた、一緒に駆け抜けようぜ」


 スカルの未来はきっと明るい……そう確信するような光景を見つめながら、ユーゴは仲間たちと共に友の門出を見送り、彼との再会の日を待ち侘びるように笑みを浮かべる。


 いつの日か、またその背に乗って風を切って走る日が来ることを期待しながら友を見送るユーゴの表情は、昇る太陽にも負けないくらいに明るく輝いていた。

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