人馬炎斬!
「ヒヒーンッ!」
「ユーゴ! これを使ってっ!!」
エンジン音の代わりにいななきを上げたスカルが、スーパーカーよろしく駆け出す。
その寸前、メルトから魔力剣を受け取ったユーゴがそれに微粒子金属を纏わせた黒鉄の剣を作り上げる中、黒の騎士を乗せた黒馬は蹄に燃える炎を足跡として残しながら草原を駆け抜けていった。
「すっげぇ! 速いぞ、スカル! これなら――っ!!」
目を見張るほどの速度を出すスカルの走りっぷりに驚き半分、喜び半分といった声色を出したユーゴが、前方を走るブルゴーレムの背中を見つめる。
ぐんぐんと距離を詰めていく程に段々と大きくなっていくその姿を捉えたユーゴは、あっという間に魔鎧獣の隣に並び立つと作り上げた剣をブルゴーレムの上半身へと見舞った。
「追いついたぞ、この牛野郎っ! 止まりやがれっ!!」
「ブモッ!?」
唐突に声をかけられたこともそうなのだろうが、まさか自分の速度についてこれる者がいたとは思わなかったブルゴーレムは、ユーゴからの一発を受けながら相当な驚きを見せている。
剣での攻撃自体はそこまでの痛打にはならなかったようだが、続くスカルの炎での攻撃を受けた魔鎧獣はその熱さに煽られて体勢を崩し、走る速度を落とし始めた。
「ブモオオオオオッ!」
「おっと、させるかよっ! ドリルアームっ!!」
反撃とばかりに丸太のように太い腕を振るってユーゴとスカルを殴らんとするブルゴーレムであったが、左腕をドリルへと変形させたユーゴとの真っ向勝負の末に、その一撃は弾かれてしまった。
そのまま、スカルと共に一歩よろめくブルゴーレムへと距離を詰めたユーゴは、ドリルアームと化した腕で魔鎧獣の胴体を殴りつける。
「おら、よっとっ! もう一発っ!!」
「ブムオオッ!?」
一発、二発、三発とブルゴーレムの体へとドリルアームでの突きを繰り出すユーゴ。
地に足をつけていない、踏ん張っていない状況であるが故に腕力だけという普段よりも軽い攻撃にはなってしまったが、やはり掘削用のドリルは岩に効果抜群のようだ。
岩の鎧がひび割れ、その奥にあるブルゴーレム自体の肉体にも少なからずダメージが入ったことを見て取ったユーゴは、スカルに指示を出すと一気に相手の前に回り込んでみせる。
「スカル、今だっ!!」
「ッッ!!」
ダメージで動きが止まったブルゴーレムの前に躍り出たスカルが、十分な距離を作った上でターンする。
仲間たちの命を奪った仇へと猛進する彼の背ではユーゴが手にした剣へと更に微粒子金属を集め、巨大な斬馬刀を作り上げていた。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「ブゴ……ッ!?」
黒騎士、黒馬、そして巨大な黒剣。全てが黒づくめの騎馬が激怒の感情を放ちながら自分へと突撃する姿を目にしたブルゴーレムは、自分が狩られる側に回ったことを理解すると共に、その恐怖で身動きができなくなってしまった。
更にこちらへと突撃してくるユーゴたちの体が、その手に持つ斬馬刀が、紅蓮の炎に包まれる様を目にした彼は、響くユーゴの叫びを耳にして、その身を竦ませてしまう。
「こいつで終わりだっ! 人馬炎斬! ブラスター・ファントムッッ!!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオォオオオッ!?」
炎を纏った斬馬刀がその形を維持できたのは、ほんの十秒程度のことだったのだろう。
しかし、巨大な鉄塊とでもいうべきそれはブルゴーレムにとってこの上なく有効な武器であった。
斬撃よりもその重さを活かした打撃武器としての意味合いが強い黒の斬馬刀は、岩でできているブルゴーレムの鎧をスカルの疾走の勢いを加えたぶん回しによって容易く砕いてみせる。
その下に覆われていた魔鎧獣の肉体に燃え盛る炎を纏った刃がぶち当たった瞬間、ブルゴーレムの口からは一際野太い断末魔の悲鳴が飛び出すと共に、その体が上半身と下半身の二つに泣き別れしてしまった。
「ブモッ、ゴッ……!?」
復讐と憤怒の炎が二つに分かれた魔鎧獣の体を包み込み、一瞬のうちに燃やし尽くす。
灰と化した巨大な牛の魔鎧獣の姿を見つめながら、全てが終わったことを理解しながら……瞳を閉じたスカルは、天国にいる仲間たちへと仇を取ったことを伝えるように、夜空に向かっていななきを上げる。
揺らめく炎を蹄に燃やし、その背に黒騎士を乗せた黒馬の復讐はこうして終わりを迎え……仲間たちの仇を取った復讐者を讃えるように、月光がその姿を優しく照らし続けるのであった。
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