その夜、仲間たちとの通信

「兄さん! 大丈夫だった!? そっちの方で魔物が出たって聞いてから、ずっと心配してたんだよ!」


「ああ、大丈夫だよ。魔物には遭遇したが、この通りぴんぴんしてる」


「いったい何があったの? こっちでも話題にはなってるけど、何が正しい情報だかわからなくって……」


「良ければ実際にその場にいたあんたの話を聞かせてくれよ」


 その日の夜、アンヘルから渡された通信用魔道具を使ってみたユーゴは、空中にホログラムのように映し出された画面の中狭しと体を寄せる三人の姿を見て、苦笑しながら彼らと話をしていた。


 どうやら魔物の出現は既に話題になっているらしく、フィーたちも詳しい情報を知りたがっているようだ。

 そんな彼らへとユーゴが目にしたことを聞かせてやれば、三人はなるほど、といった様子で頷きを見せた。


「骸骨の馬の出現、か……穏やかな平原が一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図に、って感じだね」


「ああ。お陰で事態が解決するまで平原を封鎖することになってな。俺が働いてる牧場も一旦お休みだ。ただまあ、牧場主さんはここを離れるわけにはいかないから、警備隊に色々任せて自分の仕事をするってよ」


「でも、雰囲気から察するに、警備隊は魔物の出現を予見してたんだよね? どうしてなのかな?」


「……そうだ、思い出した。確か何日か前に兄さんがいる場所の近辺で大量の馬の死体が見つかったんだ。肉食獣に襲われたにしては食べ散らかされた痕跡がないし、不自然だって話になってたんだけど……」


「それがあの骸骨馬の仕業だって言うのか? それで、警備兵は警戒態勢を取っていたってことか?」


 こくん、とフィーがユーゴの質問を肯定するように頷く。

 アンヘルもまた顎に手を当てながら唸ると、フィーの解説を補足するようにこう言った。


「なるほどね。その骸骨馬は元いた場所に生息していた自分と似た生物を殺して、その地域を縄張りとした。それだけじゃ飽き足らず場所を移動し、自身の縄張りを増やそうとしてる……って考えるとある程度の話は見えてくる」


「ごめん、兄さん。僕がこの話をもっと早く思い出していれば、ブラスタを置いて行かせることなんてしなかったのに……」


「いいさ、気にすんな。それより……」


「どうかしたの?」


 不思議そうに首を傾げるメルトの反応を受けたユーゴが、仲間たちへと骸骨馬に庇われたことを話す。

 その話を聞かされた三人もまた驚いたようだが、反応は様々であった。


「魔物に庇われただって? 何かの偶然じゃあないのか?」


「でも、偶々そんな状況になるだなんて考えにくいよね……」


「僕もアンさんと同じ意見だけど、実際にその現場を見たわけじゃあないからな……兄さんが庇われたって思うなら、そうなんだと思う」


「どうしてもその部分が気になるんだ。今の話を聞いても、俺はあの馬がそんな悪いことをするような奴だとは思えねえ。何か事情があるんじゃないかって思うんだよ」


 ある程度の情報を知った今、あの骸骨馬が仲間のような存在である馬を殺して、縄張りを広げるべく移動してきたという話にはそれなりの説得力があるように感じられる。

 だが、ユーゴはどうしても最後に自分と少年を庇った骸骨馬の行動が気になっていた。


「……兄さん、変なこと考えてないよね? 今はブラスタもないんだから、無茶なことはしちゃダメだよ」


 魔物であり、人々を脅かした骸骨馬を悪い奴ではないと言う兄の姿を見たフィーは、そんな彼が何か自分の想像を超えた危険な行動をしようとしていることを察してそれを止めたが……ユーゴはそんな彼を映像越しに真っ直ぐに見つめながら言う。


「フィー、覚えとけ。ヒーローにとって大切なのは、変身できるかどうかじゃあない。自分の意思を貫き通すことだ。守りたいと思うものは全力で守るし、やりたいと思うことは本気でやる。危険を承知でも、今の俺にはすべきだと思うことがある。だから俺はその意思を貫くよ」


「兄さん……」


「フィーくん、諦めよう。こうなったユーゴが言っても聞かないのはわかってるでしょ? でも、ユーゴも無茶な真似はしないでね? フィーくんも私も、あなたのことを心配してるんだから」


「ああ、わかってる。ごめんな、フィー」


 自分をフォローしてくれたメルトに感謝しつつ、フィーへと謝罪するユーゴ。

 会話が終わりに近づく中、最後にアンヘルが口を開く。


「ユーゴ、これからアタシはブラスタの調整を突貫で行う。上手くいけば明日の朝には仕上がるはずだ。そうしたら、すぐにお前のところに向かうよ。こいつの力が必要だろ?」


「ああ、助かる。面倒かけて悪いな、アン。俺もそっちに向かって、少しでも早く合流できるようにするよ」


 アンヘルの話通りに事が進めば、明日の昼頃には彼女たちと合流できるはずだ。

 その前に、自分にできることをしようと考えたユーゴは仲間たちとの通話を切ると、深呼吸をしてから動き出す。


「よし、行くか!」


 立ち上がり、伸びをして、外へと足を踏み出した彼は、昼に見たあの馬を探して暗い夜の平原を彷徨い始めるのであった。


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