ダチの頼みと魔道具交換とまたおっぱい

「おう! 俺にできることなら遠慮なく言ってくれ! 友達は助け合うものだからな!」


「ありがとう。何から何まで世話になる……」


 自身の申し出の詳しい内容を聞く前にそれを快諾してくれたユーゴへと頭を下げるヘックス。

 そうした後、顔を上げた彼はその頼みの内容を話していった。


「実は、魔道具の強化用の資金を稼ぐために依頼を入れててな。明日から郊外の牧場で荷物運びをやることになってたんだ。だけどこんなことになっちまって、俺は行けそうにねえ。穴を空けるのも申し訳ないから、誰か俺の代わりにその仕事を受けてくれる奴を探してたんだが……」


「な~んだ、そんなことか。オーケー、俺に任せな! その仕事、俺が代わりに引き受けてやるよ!」


「本当に助かる……周りの奴に頼もうとしたんだが、学園がさっき話した通りの状況だから、その借りを盾に何か要求されるんじゃないかって気後れしちまってさ。そういう心配のなさそうなあんたと出会えて助かったよ。もちろん、この恩は忘れねえ。俺にできることで借りを返させてもらうぜ」


「気にすんなって! ライ……じゃなくって、学生同士、助け合いでしょ! それがダチ同士ならなおさらな!」


 思っていたよりも簡単な仕事の内容にサムズアップしながら引き受ける返事をするユーゴ。

 ヘックスが再び頭を下げる中、話を聞いていたアンヘルが口を開く。


「じゃあ、明日は特にブラスタを使う予定もないってことか。それならアタシに預けてもらってもいいか? お前が働いてる間にある程度の改造はさせてもらうよ」


「本当か!? 助かるぜ! んじゃ、そういうことで……頼むぜ、アン!」


「ああ。とりあえず、全体的な魔力の循環の見直しと四肢の形状変化に関する改造から手を着けてみようか」


「僕も手伝います。これまで兄さんのブラスタを調整してきたのは僕ですし、役に立てると思いますよ」


「おお、助かるよ。うるさい兄貴もいないし、お姉さんと二人で楽しく過ごそうじゃあないか」


「おい、ちょっと待て! なんか怪しいぞ、アン! メルト、悪いけどフィーについてやってくれ。アンと二人きりにするのは危険だ!」


「あはははは、わかった! でもそんなに心配することないと思うけどな~!?」


「フィーのことになるとすぐムキになる。ちょっと過保護過ぎやしないか、ユーゴさんよ?」


 アンの一言を皮切りにどったんばったんの騒動を繰り広げるユーゴたち。

 そんな一同のやり取りを見ていたヘックスは、小さく笑みをこぼすと共に言う。


「なんか、いいな……学園とか寮から離れてるお陰か、ここはピリついた空気が全然しねえ。ちょっと前まで俺たちもこんな感じだったはずなのに、どうしてああなっちまったんだろうな……?」


「まあ、アタシは工業科で、フィーは初等部の生徒。ユーゴはご覧の有様だし、メルトもそういうのとは無縁の生活を送ってるからね。確かにピリつきとは程遠い雰囲気っちゃ雰囲気だな」


「学園に魔鎧獣が入り込んだりしたわけだし、みんなが警戒心を強めるのも仕方ないだろ。どうしてもしんどくなったらいつでも遊びにこいよ。歓迎するぜ」


「ありがとう。今は怪我を治すことに集中させてもらうよ。仕事の件についてはまた後で詳しいことを教えに来る。じゃあ、悪いけどよろしくな」


 そう言って去っていくヘックスを手を振って見送ったユーゴは、彼や寮住まいの生徒たちの精神状態を慮っていた。

 やはりラッシュの件が後を引いているのかもしれないなと思いながら、色々と大変な彼らのことをユーゴが心配する中、ふと何かを思い出したような雰囲気でアンヘルが声をかけてくる。


「ああ、そうだ。ブラスタを預かる代わりと言ったらなんなんだが、こいつを持って行ってくれるか?」


「んぁ? こいつってどいつ――っ!?」


 自分に何かを渡そうとしているアンヘルへと視線を向けたユーゴが、その言葉の途中で驚きに目を見開く。

 視線の先でつなぎのチャックを下ろしたアンヘルが自身の胸の谷間に手を突っ込み、そこから何かを取り出す様を目撃したユーゴは、平然とそれを差し出してくる彼女へとツッコミを入れた。


「待て待て待て待てっ!! それ、どこから取り出した!?」


「どこって、胸の谷間だが?」


「平然と言うんじゃねえよ! 普通にポケットとかにしまっておけ!」


「色々と楽なんだよ、ここが。ほら、さっさと受け取りな」


 ひょいっと胸の谷間に挟んでいた物を手渡してきたアンヘルから、顔を赤くしながらそれを受け取るユーゴ。

 彼女が渡してきたのはコンパクトのような薄い円形の何かで、ユーゴが人肌で温められたそれの感触にドギマギとする中、アンヘルが口を開く。


「そいつは仮制作した通信用の魔道具さ。パカッと開けば、もう一つの端末と映像付きで会話ができる。いい機会だから実験用に持っていって、向こうで通話してみてくれよ」


「へぇ~、こんな魔道具もあるんだな。パカッと開けば通話できるんだっけか? どれどれ……?」


 自分の世界にもあった携帯電話を思わせるような魔道具を渡されたユーゴが(その出所は別として)興味津々といった様子でそれを見つめる。

 アンヘルから聞かされた通り、試運転だとばかりにコンパクトを開いてみると――?


「んんっ……♥」


「!?!?!?」


 ヴヴヴヴヴ……ッ! というバイブ音と共に唐突に甘い声を漏らしたアンヘルへと驚きの視線を向ける一同。

 そんな彼らの前で再び胸の谷間に手を突っ込んだ彼女は、そこからもう一つの通信端末を取り出すと笑みを浮かべて言う。


「少しばかり振動が強かったかな? 不意打ちされて今みたいな声が出ると色々と勘違いされそうだし……ここは改良点か」


「あわ、あわわわわ……!?」


「う~ん……これは確かにユーゴが心配しちゃうのも無理ないかも。少なくともフィーくんの教育に良くなさそうだよね」


「アン……! お前、なぁ……っ!!」


 明らかに動揺しているフィーの反応に苦笑するメルトと、色々と問題が多い技師の言動に拳を震わせるユーゴ。

 色々とツッコみたい部分はあるが、とりあえずは……といった感じで、彼はアンヘルへと一番言わなければならないことを大声で叫ぶ。


「魔道具の振動の強さを調節するよりも……お前がそれをしまう場所を考えろっ!!」


「え~? このつなぎ、ポケットが多過ぎてどこに何をしまったかわからなくなるんだよ。ここだったら一発でわかるし、楽じゃないか」


「少なくともフィーの目の前で不用意に乳に手を突っ込むんじゃねえ! わかったな!?」


「はいはい、りょ~かい。まったく、おおらかなんだか細かいんだかわからない男だねぇ……」


 子供には刺激が強過ぎる言動を控えろというユーゴの言葉に、アンヘルがやれやれとばかりに首を振る。

 ピリついていない空気もこれはこれで問題だなと思いながら、ユーゴは彼女の存在がフィーの成長に悪影響を及ぼさないことを心の底から祈るのであった。


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