平原を襲う恐怖!髑髏馬との邂逅!

学園の現状

「本当に……あんたには世話になった。その前の決闘のことも含め、迷惑もかけちまって申し訳ねえ……」


「いいって、気にすんなよ! それより、怪我が思ったより大したことなくて良かったな!」


 ブラスタ改造計画の始動から一夜明けた翌日のこと、ユーゴは自身の住処を訪れた客から頭を下げられていた。

 その相手はヘッドバンドを着けた銀髪の男子生徒、ヘックス……昨日の決闘相手である。


 その時の怒り狂っていた態度から打って変わった恐縮した様子を見せている彼は、体の所々に包帯を巻いてはいるがこうして動ける程度には回復したようだ。

 倒れていた彼を保健室に担ぎ込んだ張本人であるユーゴがそのことを喜びながら自分に謝罪するヘックスへと応える中、彼はメルトにも頭を下げ、感謝を述べた。


「エペにも感謝してる。決闘の後も含めて、二度も俺の手当てをしてもらっちまった。本当に世話になった」


「私は大したことしてないよ。それよりもあなた、思ってたよりずっと丁寧な人なんだね。工房に乗り込んできた時とは大違いじゃない」


「本当にすまねえ。あの時は頭に血が上ってたっていうか、改めて振り返ってみると自分でもまともじゃあなかったと思うんだが、どうにも、な……」


「……何か訳ありか? 良ければ話してみろよ」


 歯切れが悪そうにメルトへと答えるヘックス。

 昨日のことを恥と思っている部分もあるのだろうが、それ以外にも理由がありそうなその態度を見たユーゴが話を促せば、彼は一つ呼吸を置いた後でこんな話をし始めた。


「……少し前、学園が魔物に襲われたことがあっただろ? あの時に活躍した一部の新入生たちは今、英雄だって持ち上げられててな。授業が再開したら、そいつらが課題や依頼を一緒にこなす仲間を選定するって噂が出回ってるんだ。そのメンバーに入りたくって、大勢の連中が準備してる。俺もその一人だったってわけさ」


「へぇ~……そんな必死になるもんなのか? 別にそいつらの仲間に入らなきゃダメだって話でもないんだろ?」


「実際に見るとわかると思うが、あいつらは別格だよ。多分、学園を卒業したら、それなりの進路とか地位を得ると思う。そんな奴らと一緒にいれば自分の実力を磨くこともできるし、各方面からの印象も良くなる。将来がかかってるんだ、みんな必死にもなるさ」


 いまいち馴染みがない話ではあるが、ヘックスの言いたいことも理解できる。

 ただ、あんな血眼になるくらいに必死になるようなこととは思えないかもなという感想を抱いたユーゴであったが、異世界人である自分がこの世界のあれやこれやを判断するのはおかしいとも思ったので、そこまでツッコまないことにした。


 それにしても、英雄だなんて扱いをされている生徒がそんなにいることには驚きだ。

 最近は姿を見なくなったが、自分を倒したゼノンもそう呼ばれていたし……いなくなってしまったラッシュもその名前に固執していたように思える。


 まるで英雄のバーゲンセールだなと、そんなことを考えて心の中で苦笑するユーゴへと、ヘックスは話を続けていった。


「今のルミナス学園には英雄の仲間になろうとしてる奴らがわんさかいる。そういう連中は自分を鍛えるだけじゃなく、魔道具を強化することも忘れない。依頼で集めた素材や金を賭けて決闘をすることも珍しくなくなった。そして、腕のいい魔道具技師の争奪戦も起きてる。改めて考えると、殺伐としてるとしか言いようがねえな」


「みんなピリついてて、お前もそうだったってわけか」


「ああ……そんな状況で必死になって素材を集めて、腕のいい技師だって噂のネイドに仕事を頼んだんだが……あの野郎、いつまで経っても素材が足りないのなんだの言って、仕事に取り掛かろうともしねえ。もう十分な量の素材は渡してるはずなのに、まだ必要だとか言いやがる。それでカッとなっちまって……」


「それに関してはアタシも話を聞いたが、やっぱあんたぼったくられてるよ。力の腕輪を一つ作るだけで魔法結晶を三つも要求するだなんて、流石にやり過ぎだ」


 拳を震わせながらネイドへの恨み言をこぼすヘックスに同意するように、アンヘルが言う。

 彼の方にも彼なりの事情があったのだと思いながら彼女の方を向いてどうにかできないかと無言で尋ねるユーゴへと、アンヘルがこう答えた。


「まあ、契約の自由は依頼者と受注した奴の二者間にしかない。ネイドの奴がぼったくった報酬でしか仕事を受けないって言うのなら、それを飲むしかないのさ。ただまあ、本当にやり過ぎだと思うけどね」


「そんな人なのに仕事の依頼が殺到してるってことは、相当腕がいいの?」


「アタシ以下ではあるけどな。ただ、同じ工業科の連中からも変わり者扱いされてるアタシと違って、あいつは腕の良さと身内びいきする性格から結構慕われてる。だから多少の無茶は通るし、大半の連中もあいつの言うことには同意するのさ。昨日みたいにな」


 ややうんざりした様子でそう言ったアンヘルがやれやれと首を振る。

 工業科の方も人間関係は大変なんだな~と思うユーゴは、再びヘックスの話に耳を傾けていった。


「必死に集めた素材も盗まれちまったし、そもそもこの怪我だ。俺はもう、英雄様の仲間に加わることは諦めるよ。でも、それで良かったのかもしれねえ。素材や金のことで一喜一憂したり、ピリついた空気から解放されるんだからな。改めて、あんたらには詫びを入れさせてくれ。本当にすまなかった」


「そんな頭を下げんなよ。俺たちは、人として当たり前のことをしただけだからさ。怪我のことは残念だけど、気持ちの整理ができたんだったら良かったって、俺も思うぜ」


「……やっぱ変わったな、あんた。記憶喪失とはいえ、少し前とは大違いだ」


「まあな! これもいい機会だ。俺と友達ダチになろうぜ! 英雄様の仲間と比べたら物足りないかもしれねえけど、面白おかしさなら負けてねえと思うぞ?」


「ははっ! それもいいかもな……ああ、喜んでならせてもらうよ」


 顔を綻ばせたヘックスと握った拳を打ち合わせるユーゴ。

 焦燥感やピリついた空気から解放されたことで憑き物が落ちたかのように清々しい表情を見せるようになった彼は、はっとした後でこんなことをユーゴへと言ってきた。


「……悪い、あんたに甘えるようで申し訳ないんだが、一つ頼みを聞いてくれるか?」


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本当にすいません! 今、色々と忙しい日々を送っておりまして、感想の返信が暫くできなくなると思います!

皆さんからの応援のメッセージや質問に目を通しているのですが、それにお答えできないことが歯痒いです。本当に申し訳ありません。


色々と落ち着いたらご報告させていただいて、感想返信を再開いたしますので、もう少々お待ち下さい!

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