花の月の日記・その2
八日目
先日、日記に書いたメルトさまのことですが、正体がわかりました。
やはり高等部からの編入生で、地方出身の女子生徒とのことです。
聞いた話によれば、明るい性格で人懐っこく、誰とでも仲良くなれる方とのこと。
私も友人になりたいと思っていたのですが……残念ながら、それは叶わなそうです。
メルトさまはユーゴさまと親交を深め、一緒に依頼を受ける仲になっているとのこと。
そんなメルトさまと友人になるということは、ユーゴさまとの関わりが復活してしまうということになります。
いくら間に女子の友人を挟んでいるとはいえ、元婚約者である男と私が近しい関係になれば、ゼノンさまからすれば面白くないでしょう。
彼の気持ちを考えれば、やはりメルトさまと友人になることは諦めるべきです。
不安なのは、あのユーゴさまの近くにいる彼女がひどい目に遭わされていないかという部分でしょうか。
私がそうであったように、メルトさまもユーゴさまから乱雑な扱いを受けているような気がしてなりません。
特にメルトさまはかわいらしい女性ですし……その、下品な話ではありますが、私よりお胸もお尻も大きい、優れたプロポーションをしていらっしゃいます。
ユーゴさまがそんな彼女に対して良からぬ思いを抱き、手籠めにしようとしたら……と考えると、やはり不安になってしまうのです。
私の場合は家の事情があるために容易に手出しはできなかったでしょうが、メルトさまは違います。
失うものがないユーゴさまからしてみれば、欲望のままに動くことに何のためらいも持たないでしょうし……メルトさまは大丈夫でしょうか?
本当に何もなければいいのですが……。
追伸.今日はゼノンさまと一緒にお出掛けをしたのですが、とても楽しかったです!
買い食いをしたり、色んなお店を覗いたり、喫茶店でのんびりおしゃべりをしたり、今までで一番楽しい一日を過ごせました!
ユーゴさまの婚約者であった頃には味わえなかった、こんな喜びを実感できるだなんて……クレアは本当に幸せ者です。
ゼノンさまへの感謝を胸に、日々精進、精進です!
九日目
えっと……今、私は過去最大に困惑しています。
文章がおかしかったり、変な言葉を使ってしまうかもしれません。それくらいに混乱しているのです。
何から書き記せばいいか……本当に困ってしまいます。
色んなことが起き過ぎて、どう書き出せばいいのかもわかりません。
とりあえず、聞いた話と起きたことを順番に書いていこうと思います。
まず最初に、私がゼノンさまとデートをしていた休日に、マーミント街道で魔鎧獣絡みの事件が発生したとの話を聞きました。
平和で知られるマーミント街道に魔鎧獣が出没したことも驚きですが、それよりも驚いたのは事件の解決にユーゴさまが関与しているという話です。
うわさによれば、魔導列車から連れ去られた人々を救うべく、アラクロと大立ち回りを繰り広げたとか……にわかには信じられません。
しかし、彼がメルトさまと一緒にマーミント街道の警備依頼を受けていたことは確かな事実で、どうやら話は本当のようです。
私の周囲でも驚きと共にその話がうわさされていますが、そのせいもあってか多少の尾ひれが付いているようにも思えます。
一人で五体ものアラクロを撃破したとか、子供のメンタルケアに努めたとか、ユーゴさまのお陰で一人の犠牲者も出なかったとか、流石にその辺りの話は盛られているような気がしてなりません。
うわさといえば、こんな話も出回っています。
この事件は全てユーゴさまの仕込みで、彼がメルトさまを騙すためにでっち上げた嘘の事件だったのではないか、と……。
流石にそれは無理な話ではないかと思います。魔導列車を止めたり、魔鎧獣を放ったりしたのがユーゴさまの手引きだったとは考えにくいです。
しかし、そういったことをしかねない性格であるという話には同意しかできないことを考えると、こんなうわさが出回ってしまうのはユーゴさま自身の過去の行いのせいだとしか言いようがありません。
このうわさの真偽がどうあれ、メルトさまはユーゴさまへの信頼を強め、仲も深めたご様子。
愛らしい彼女にはファンも多かったようですが、そんな彼女が悪辣なユーゴさまと仲良くしていることにショックを受けたり、快く思わない方もいるようです。
ゼノンさまは前者であるようで、フィーくんも含めて食堂で仲良く談笑する二人の様子を見て、塞ぎ込んでしまいました。
こういう時、クレアはどんなふうにお声がけをしたらいいのかがわかりません。自分の無力さが歯痒いです……。
追伸.メルトさまとユーゴさまが仲良くしていることを気に入らない生徒たちが行動を開始するとの話を耳にしました。
メルトさまにユーゴさまの問題性を教え、どうにかして距離を取るよう説得するおつもりのようです。
ユーゴさまが彼女に手を出すかもしれないということを考えると、その方がいいと私も思います。
メルトさまの救出計画に声を上げたラッシュ・ウィンヘルムさまを応援する気持ちも確かに存在しています。
ですが、何故でしょうか……? 心の奥底で、何かがおかしいような気がしているのです。
とにかく、このことは傷心のゼノンさまにもお伝えした方がいいでしょう。
少し迷う気持ちもありますが、ゼノンさまをお支えすると決めた以上、このことはしっかりとお伝えしないとですね。
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