幕間の物語・クレアの日記(花の月編)

花の月の日記・その1

一日目


本日から新学期が始まりました。

私もルミナス学園の高等部に進級し、本格的に魔導騎士を目指して鍛錬の日々が始まります。


望みが叶うのならば、学園で学んだことを活かして治癒士として傷付いた人々を助ける仕事に就きたいところではありますが……私には、許嫁との結婚という避けられぬ未来が待っています。


ユーゴ・クレイ……名門クレイ家の嫡男にして、将来家を継ぐ御曹司。

性格は傲慢で、婚約者である私のことをアクセサリーか何かだと思っていることが態度の節々からもわかります。


正直に申し上げるのならば、私はあまり彼のことが好きではありません。

ただ、両親が決めた婚約相手である以上、私にはそれを拒むことはできないのです。


初等部、中等部とどんどん傲慢で悪辣になっていくユーゴさまの姿を見ていると、私自身の将来も不安になります。

唯一の希望は弟であるフィーくんにはとても優しいということ。結婚した際には、あの優しさを家族になった私にも向けてくださると嬉しいのですが……無理でしょう。


結婚は形だけのものですし、名門クレイ家の嫡男である彼は側室を持つ可能性も十分にあり得ます。

私はどこまでいっても彼の栄誉を示すためのトロフィーとしてしか見てもらえないでしょう。


貴族の娘として生まれた以上、こういった政略結婚に巻き込まれることは覚悟していましたが……幸せな結婚生活や未来を夢見る気持ちは私にだってあります。

無駄だとわかっていても憧れてしまう自分自身の愚かさに呆れてしまいますね。


……そういえば今日、不思議な魅力を持つ殿方と出会いました。

ゼノン・アッシュという方で、初対面の私にとても優しくしてくださいました。


上手く言葉にできないのですが、他の人とは違う何かを持つ方のように思えます。

新学期はこういった出会いがあるから面白いですね。高等部からの編入生の皆さんとの出会いがとても楽しみです。




三日目


信じられないことが起きました。

先日、この日記にもお名前を書いたゼノンさまが、ユーゴさまを決闘で打ち負かしたのです。

しかも、その決闘は私を賭けた戦いであったようで、ゼノンさまが勝ったことで私とユーゴさまとの婚約は解消、晴れて私は自由の身になりました。


唐突にそんなことを言われても実感が湧きませんが、どうやらそうなったようなのです。

ユーゴさまもクレイ家から勘当されたとのことで、完全に私との縁は切れたといっていいでしょう。


本当に……嬉しいです。これで私は、家に縛られることなく自分の道を歩める。

長きに渡る呪縛から解放してくださったゼノンさまにはいくら感謝をしてもし足りません。


その感謝の意を示すためにも、私はゼノンさまのお傍に仕えさせていただこうと思います。

彼と共に成長し、自分の決めた道を突き進めるような人間になれるよう、努力を重ねていく所存です。


……お慕い申し上げております、ゼノンさま。このご恩を返すためにも、クレアは日々邁進してまいります。




五日目


最近は本当に様々なことが起きて、本当に慌ただしい日々を送っています。


ゼノンさまとの決闘に敗北したユーゴさまは記憶喪失になってしまって、しかも寮からも追い出されてしまったとのこと。

少しだけ心配していたのですが、どうやらそのユーゴさまは同級生のマルコス・ボルグさまとの決闘に臨んだようで……それに勝ったとのことです。


勘当され、愛用の魔道具であるガランディルを没収されたというのに、どうして彼は決闘に勝利できたのでしょうか?

やはり名門一族の血を受け継ぐ者として、才能は超一流だったということなのかもしれません。


旧型の魔道具であるブラスタで、よくボルグ家に伝わる強固な装甲型魔道具のギガシザースを突破できたものです。

純粋に、その技量には尊敬の念を抱いてしまいます。


……いえ、いけませんね。今の私はゼノンさまにお仕えする身。他の男性、それも元婚約者のことをいつまでも気にしていては、彼への不義理に当たるというもの。

気持ちを切り替え、ユーゴさまのことは気にしないようにしないと。


そういえばなのですが、そのゼノンさまは時折夜にどこか出かけているご様子。

あれだけの強さを誇っているのだから、きっと秘密の特訓でもなさっているのでしょう。勤勉で素晴らしいことだと思います。

私も努力を重ね、それに見合う女性にならないといけませんね。


それとこれもゼノンさまのお話なのですが、入学して早々に沢山の生徒たちとコミュニケーションを取っているようです。

やはり、新生活の醍醐味は新たな出会いということでしょう。本格的な授業が始まる前から、友人を作ろうと動いているご様子。


ただ、比率としては女性に声をかけることの方が多いのが気になってしまいます。

その全員が愛らしかったり、お美しい方々ばかりなので、私としては少し焼きもちを妬いてしまうというか、不安になってしまうのです。


そのことをゼノンさまにお伝えしたら、「一番はクレアだよ」と言ってくださいました。

それと、次の休日にデートに行くことが決まって、今から胸が弾んでしまいます。


学生らしく、慎ましく清らかな逢引きをすることを心掛けながら、当日は思い切り楽しみたいと思っています。

ユーゴさまの下から解放されたからこそ味わえる自由を、存分に堪能しませんとね!


追伸.メルト・エペさんとはどなたでしょうか? ゼノンさまが独り言でお名前を呟いていたのを耳にしたのですが、私は存じ上げない方でした。

ゼノンさまと同じ、高等部からの編入生でしょうか? お名前からして女性ですし、何か嫌な予感がしますね……。



――――――――――

要望の多さを見て思う。書いてて良かった、クレア視点。

ただ、彼女の本格的な登場はまだ先を予定しておりますので、こういった形でのお話になることをご容赦ください。

それと日付に関してもニュアンス的なものだと考えてくださると嬉しいです。(大体こんな感じで話が進んでいったよ的なものとしてお考え下さい)

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