幕間の物語・村を襲う恐怖!赤い霧が来る!!
side:主人公(諦められないゼノンくんの話)
(くそっ! どうにかしなきゃ、どうにかしなきゃ……!)
ゼノン・アッシュは焦っていた。自分の現状をどうにか打破しなくてはという焦燥感に襲われていた。
その理由はもちろん、先日の話し合いの中で強引に決定された自身の行動制限にある。
推しキャラであるクレアを悪役のユーゴ・クレイから守るためにシナリオを無視して行動した結果、本来の【ルミナス・ヒストリー】にはなかった謎のイベントが立て続けに起きてしまった。
他の転生者たちはこの原因はゼノンにあると判断し、そのペナルティとして一定期間、彼の行動を制限することにしたわけだ。
これに関しては彼の自業自得で、ネームドキャラであるラッシュの死亡や人気ヒロインであるメルトを仲間にできなくなったことで生まれた損失を考えれば、この処罰も致し方ないだろう。
しかし、このペナルティは他の転生者たちがライバルであるゼノンを蹴落とすための策としての一面もあり、そのことを理解している彼からしてみれば、色々な意味で黙っていられる状況ではなかった。
このままでは折角ユーゴから奪ったクレアも他の転生者たちに盗られてしまう。それだけは避けなければ。
というよりも、最序盤である今、この扱いに甘んじてしまったら、この先も強い装備や仲間たちを彼らに取り上げられ続けるゲーム生活が待っているだろう。
どうにかして、この状況を打破しなければ……そう考えたゼノンは、その方法を模索してルミナス学園内を歩き回っていた。
現在、学園はラッシュが起こした(それを知っている人間はほとんどいない)事件のせいで休校状態ではあるが、敷地内に寮が併設されていることや食堂、売店は普通に開いていることから、生徒たちの姿もちらほら見受けられる。
少し前までは自分が廊下を歩くだけで女子生徒は黄色い声を上げ、男子たちは尊敬の眼差しを向けてきたものだが……今ではすっかり、その雰囲気も静まってしまっていた。
決して嫌われているわけではないし、主人公の特性である謎のカリスマも失われてはいないが、最大に効果を発揮していた時とは雲泥の差だ。
その状況もゼノンの焦りを募らせる一因となっており、過去の栄光(というには落ちぶれるまでの少し期間が早過ぎる気もしなくないが)をもう一度取り戻したいと願った彼は、学園の学生課へと向かって歩いていく。
目的はそこに掲示されている依頼、要するにサブイベントの攻略だ。
「……あった。これだ、これ……!」
そこに掲示されている貼り紙の中からお目当ての依頼を見つけ出したゼノンがニヤリと笑う。
その紙に触れ、内容を学生手帳にコピーした彼は、念のためにそこに書かれていることを確認すべくじっくりと読んでいった。
『山小屋への荷物配達依頼』
『北部にあるヤムヤム山に点在する山小屋に荷物を届けてほしい。結構な量があるから、受けてくれる人数が多いと助かる。それと、荷物は山に入って少し歩いたところにある村に預けてあるから、まずはそこを訪ねてくれ』
(よし、間違いない! この依頼を受ければ、まだ逆転のチャンスはある!)
転生前の知識を存分に活かし、その内容をシミュレートしながらニンマリと笑うゼノン。
自分の考えが正しければ……とあることを期待しながら周囲を見回せば、そこには同じ依頼を確認しているメルトの姿があるではないか。
「やあ、メルトちゃん! 君も依頼を受けに来たのかい?」
「あっ……! まあ、そうだけど……」
偶然を装って気さくにメルトへと声をかけたゼノンであったが、彼女は若干警戒した様子で曖昧な返事をしてきた。
その反応から、愛らしい彼女が悪役であるユーゴとキスした場面を思い出してしまったゼノンは胸の中に負の感情を一気に込み上げさせるも、懸命にそれを抑えると共に話を続ける。
「君もこの依頼を受けるのかい? 俺と一緒だね! 当日はよろしく!」
「ああ、うん……そうなんだ。よろしくね……」
握手を求めるように右手を差し出せば、多少沈んだ声を出しながらもメルトはそれに応えてくれた。
すべすべとした、そして柔らかい女の子の手の感触に今度は歓喜の感情を爆発させかけるゼノンであったが、そちらも必死に堪えながら彼女へと言う。
「何か困ったことがあったら、俺に任せてくれ! 頼りになるってことを証明してみせるよ! それじゃあ、当日に!」
「あははははははは……」
自分がメルトに少し引かれていることは理解していた。だが、ゼノンはそんなことは気にしない。
何故なら、この依頼が彼女の評価を逆転させるいい機会になるからだ。
一見、何の変哲もない山での配達作業のように思えるこの依頼だが……【ルミナス・ヒストリー】をやり込んだゼノンには、ここで何が起きるかがわかっていた。
この依頼は強制的にメルトをパーティに参加させた状態で受けることになる。ゼノンが彼女を探した理由もここにあった。
彼女と共に依頼を受けた主人公はとある事件に巻き込まれることになるわけだが、自分以外の生徒がそれを知る由もない。
他にこの依頼で何が起きるかを知っている転生者たちは、あまりうま味のないこの仕事を受けることを面倒くさがっているようだ。
確かにまあ、今の彼らにはこの依頼を受ける必要性をあまり感じないだろう。だからこそ、ゼノンも彼らにこの行動を咎められる心配がない。
ここで経験値を稼いで、生徒たちの株も上げて、メルトからの評価を一変させれば、まだ逆転のチャンスはある。
自分ならばどんな苦境からも這い上がれるはずだ。だって自分は主人公、このゲームにおいて絶対の存在なのだから。
(依頼の中でメルトちゃんの好感度を稼いで、イベントも発生させて、そしたら俺は……むふっ、むふふふふふ……!!)
廊下を歩きながら、気味の悪い笑みを浮かべるゼノン。
数日後には自分はメルトから絶大な信頼を勝ち取っているはずだと、そんな妄想を繰り広げる彼は、その後の彼女とのあんな展開やこんな展開を想像して、上機嫌になっていたのだが――
――――――――――
書いてから気付く。これ、ニチアサの話じゃねえ……!
元ネタがわかる人はゼノンくんの目線で楽しんでください!そうじゃない人は普通に楽しんで!
それと滅茶苦茶章タイトル悩んでるんで、何かいい案があったら教えてください……。
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