戦隊の敵って結構理不尽な目に遭ってる気がする

「ユーゴ・クレイ! お前は徹底的に叩きのめす! この俺の全力を以てなあっ!!」


「おわ、やっべ……!」


 指輪が一つ、また一つと輝く度に、こちらを見つめるラッシュの数が一人ずつ増えていく。

 合計六人。指輪の数+本人という数まで増えた彼は、揃って剣の切っ先をこちらへと向けると、連続してかまいたちを発生させ、攻撃を繰り出してきた。


「どわああっ!? くっそっ! 六対一とかズル過ぎだろっ!? うおおっ! あっぶねっ!」


「はっはっは! どうだ? 魔道具の性能によって蹂躙される気分は!? だがしかし、勝負を分けているのは魔道具の力ではない! お前と俺との単純な実力差だ!」


「リンチ状態で言っても説得力ねえって! ちくしょう! 俺は戦隊ものの敵怪人じゃあねえんだぞ!?」 


 大好きなテレビ番組の中でヒーローはこんなふうに敵と戦っていたが、その敵側になってみると理不尽さがわかる気がする。

 だがちょっと待ってほしい。そうなるとラッシュがヒーロー側ということになるわけで、それはなんだか釈然としない。


 そもそも複数対一で戦っていると言われるヒーローたちもその前に大量の雑兵を相手に戦っているわけで、本来ならば数十対五というヒーロー側が圧倒的に不利な状況から戦いが始まっているはずなのだ。

 その状況を打破して、どうにかボスとの戦いに持ち込んでいる彼らをそう言って弄るのはどうかと思う……と全く関係ないことを考えていたユーゴは、今はそんな場合じゃないだろうとセルフツッコミを入れつつ、一瞬の隙を縫って一気にラッシュ(分身A)の懐まで飛び込んだのだが――


「甘いんだよ、クズユーゴ!」


「おぎゃああっ!? そうですよね~っ!!」


 ――一人に攻撃を繰り出す間に残り五人のラッシュたちの反撃に遭って、あべこべに吹き飛ばされてしまった。


 情けない悲鳴を上げながら吹き飛ぶユーゴの姿に決闘を見守る生徒たちは大歓声を上げ、フィーとメルトは口を手で覆った心配そうな表情を浮かべている。

 幸いにもそこまで被害はなかったものの、完全にダメージレースでは敗北している今のやり取りを思いながら立ち上がったユーゴへと、不敵な笑みを浮かべたラッシュが挑発の言葉を投げかけてきた。


「どうした、もう息切れか? 少し休憩の時間をくれてやろうか?」


「マジ? ちょうど良かった。対策を考える時間がほしかったんだ、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 プライドも何もなく、相手からの情けをありがたく頂戴したユーゴへと観客たちの嘲笑が飛ぶ。

 だが、嗤われているユーゴ本人はというと、そんな声が耳に入らないほどに集中して、この状況の打開策を考えていた。


(超頑張れば一気に接近して、一発は攻撃を当てられる。問題は、その後で他の分身から一斉攻撃を食らっちまうことなんだよな……さて、どうするよ?)


 先の攻撃、間違いなく自分の拳はラッシュ(分身A)に届いていた。

 だがしかし、その一発で与えるダメージとそれと引き換えに自分が受けるダメージでは圧倒的に後者が多く、戦況を打破するには至らないというのが現状だ。


 ならばその一発の威力を上げようとしても、強力な技を繰り出すための魔力充填の隙をラッシュが見逃してくれるとは思えない。

 遠距離攻撃である『ドラゴンファングブラスター』はそれに輪をかけて溜めの時間を必要とするし、相手の土俵に立って遠距離戦に持ち込むというのも不可能。

 要するに……八方塞がりというやつである。


(やっぱ数って暴力だな。一対一なら勝てると思うんだけど、多対一ってそれだけで不利になるんだもん)


 このままでは本当に戦隊の敵役のように数の暴力によって粉砕されてしまう。

 それを回避するためにはパワフルかつシャープな攻撃での一撃必殺戦法が有効なのだが、それをどうやって行えばいいのかがわからずにいた。


「ふふふ……! そろそろ休憩も終わりにするか。叩き潰してやるぞ、ユーゴ・クレイ……!」


(あ~、くっそぉ……! せめてメルトみたいに素早く出せる遠距離攻撃があれば活路が見いだせるかもしれないのに……)


 遠距離から相手の体勢を崩す小技が使えれば、まだ戦況を打破できたかもしれない。

 魔鎧獣を一網打尽にしたメルトの紫の剣を作り出す能力がほしいと、心の中で思ったユーゴであったが……その瞬間、彼の脳にスパークが走った。


(うん……? 紫? あれ、何かが頭の中に浮かんできそうな感じが……)


 何故だか頭の片隅に引っかかる『紫』という色。

 六対一という状況で先ほどから頭に浮かんでいる『戦隊』のワード。

 そして、『パワフルかつシャープな一発』という今の自分に必要なものを思い返したユーゴの頭の中で、カーンッというが鳴った。


「そうだ……あれ、やってみるか」


 彼の戦い方ならば、この状況を打破できるかもしれない。

 一縷の望みに賭けることにしたユーゴは、これまで取っていた戦いの構えを全く別のものへと変えた。


「うん……? なんだ、その構えは? ハッタリか? それともこけおどしか?」


 握った拳を目の高さまで上げ、緩く脇を締める。

 前に出した右脚を軽く浮かせるように動かしながら、後ろに置いた左脚に重心を寄せている不可思議な構えを見たラッシュは、嘲笑を浮かべながらその型を見た率直な感想を述べた。


「まるで猫だな! 顔を隠し、いつでも逃げられるように及び腰になっている猫そのものだ!」


「猫かぁ……俺としてはのつもりなんだけど、まあいいや。休憩サンキュー、続きを始めようぜ」


「何を考えているかわからんが、お前の下らない考えなど全て打ち砕いてくれる! すぐに勝負を決めてやるぞ、ユーゴ・クレイ!」


「……さ~て、そう上手くいくかな?」


 謎の構えを取ったユーゴが、兜の下で不敵に笑う。

 両足首の結晶に少しだけ魔力を注いで機動力を上昇させた彼は、剣を振るおうとするラッシュを見つめながらぼそりと呟いた。


「注意しろよ、こっからの俺は結構的だぜ?」


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