こうして人類は滅びましたとさ

染谷市太郎

じんるいはほろびました

 ある土壌中に、フィトフトラインフェスタンスという微生物がいました。

 彼は藻類と共通の祖を持ち、カビと同じ力を持ち、南米で生まれました。

 彼は芋を宿主にして増えました。

 そして彼には、芋を腐らせる力しかありませんでした。

 正確には芋を腐らせるのは他の微生物のため、彼ができることは芋を弱らせ人間の食料を減らすことです。

 かつてはヨーロッパなどでブイブイ言わせていた彼ですが、現在は農薬などにより一部の専門家にしか注目されません。

 特に人間は、植物を病ませる微生物よりも、自分たちを病ませる微生物のほうにご執心です。

 生態系の底辺であるフィトフトラインフェスタンスの知名度は、地の底でした。


 しかし、フィトフトラインフェスタンス(などの微生物全体)にはある力がありました。

 それは、他の微生物から能力を貰うことです。

 かつて彼らは、真菌類から能力をもらい植物を病ませる力を得ました。


 そして現在、土壌中、彼らは再び真菌類と同盟を組んだようです。

 フィトフトラインフェスタンスは、人間に感染する力を得ました。


 そうして進化したフィトフトラインフェスタンスは、土と芋を媒介に、農薬を使わない有機農業を行う農家に感染しました。

 その農家は家族が多く、かつ社交的でした。

 感染した有機農業を行う農家たちは、喉に違和感を持ちながらも生活しました。

 その間にも、フィトフトラインフェスタンスは肺に侵入し、細胞の間に菌糸を伸ばし、栄養を吸い取りました。


 地域全体に感染が広がるころ、フィトフトラインフェスタンスは肺を蹂躙したため、入院患者が現れました。

 入院患者が隔離される頃には、学生や職業従事者、旅行好きなどにより人口密集地域へとフィトフトラインフェスタンスは運ばれました。

 そうしてフィトフトラインフェスタンスはたくさんの人類に感染しました。

 やがて人類は自分たちを病ませる存在がフィトフトラインフェスタンスであることを認識しました。

 フィトフトラインフェスタンスの知名度は爆上がりになりました。


 人類がフィトフトラインフェスタンスを危険な病原体として認識したころ、フィトフトラインフェスタンスは真菌類と再会しました。

 その再会により、フィトフトラインフェスタンスは子実体を作る能力を手に入れました。


 新たな能力を手に入れたフィトフトラインフェスタンスは、感染した人間の肺を培地に、子実体(キノコ)を作り始めました。

 感染初期段階では、子実体は白い糸のようなもので、咳と共に吐き出されていました。

 感染が進むと、細胞間を縫った菌糸が気管を伝い体の外部へと姿を現します。

 口や鼻から白い糸状の物質が現れればそれはもうすぐです。

 一晩も経たず、口や鼻から子実体があふれ出ます。

 そのような状態になれば人間の肺は回復不可能であり、もはや窒息か衰弱かの二択しかありません。


 フィトフトラインフェスタンスが新たな力を手に入れた一方、人類は様々な手法で防除を試み、またワクチンの開発も急ぎました。

 しかし明確な解決方法は現れませんでした。

 やがて人類の間には陰謀論が流布し、中には農薬を飲めば感染しないというデマを信じる者もいました。そんな人間は感染する前に亡くなりました。


 そのように、人類が勝手に勢力をよわめている間、フィトフトラインフェスタンスには新たな出会いがありました。

 それは藻類との、再会ともいえる出会いでした。

 かつて祖を共通とする彼らは、光合成の能力を共有することにしました。

 そうしてフィトフトラインフェスタンスは、光合成の能力を手に入れ、人間から緑の子実体(キノコ)を生やすことができるようになりました。


 一方人類は、人流を止めることでフィトフトラインフェスタンスへと水際対策を行いました。

 しかしフィトフトラインフェスタンスは物にも付着して移動するため、人類は泣く泣く物流も止めることにしました。

 これにより食料や医療が行き届かない、失業者の大発生、商品の高騰などが起こり、人類はまた勝手に衰退を進めました。


 同時期、一部のフィトフトラインフェスタンスは、人類の脳に侵入し操るという発見しました。

 新発見をしたフィトフトラインフェスタンスは、すぐに同族へそれらを共有、また発見者も増殖し、フィトフトラインフェスタンスは、緑の子実体を生やした人類を操れるようになりました。


 緑の子実体を生やした人類は、フィトフトラインフェスタンスに操られるまま日光浴をしたり水浴びをするようになりました。

 人類という足を手に入れたフィトフトラインフェスタンスは、未感染の人類を新たな培地にすることも可能でした。


 その後、人類が緑の子実体を生やした人類をゾンビと呼び、掃討作戦が行われたり、戦争が起こったり、世紀末な世界にもなりましたが、そんな時代は人類が最後の一人までフィトフトラインフェスタンスの感染することにより終わりを迎えました。


 こうして生態系の頂点を自称した人類は滅び、フィトフトラインフェスタンスは元の宿主である芋のもとに戻りましたとさ。

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こうして人類は滅びましたとさ 染谷市太郎 @someyaititarou

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