第6話 後日談

「アイさん、どうぞ~」


看護師に呼ばれ、私と母は診察室に入る。

私は、主治医と近況について語り合い、心理検査も受けた。


診察を終え、主治医である精神科医は、私と母にこう言った。


「寛解ですね」


私も母も、ほっと一安心した。


私はこれまで、「解離性同一性障害」と診断され、治療を受けてきていた。

昔は多重人格などと言われてきた病気だ。

ただ、私の場合は、純粋な意味での多重人格とは異なる。

別の人格が出てきて乗り移る、みたいなことは起きない。

私、アイとしての人格ははっきりと存在しつつ、別の人格、マナメグミが心に現れるのだ。

「現れる」というよりは、私は英語の勉強やピアノの練習への過度のストレスが原因で、こういった人格を私自身が「作り出した」と言った方が適切だろう。


一般的な多重人格は「憑依型」と呼ばれるのに対し、私の場合は「」に分類される。よって、人格を乗っ取られるということは、私の場合はない。

私の場合は、自分を見ている別の人格が現れる、という表現が一番しっくりくる。

自分が出演している映画を観ている、という感じかな。

自分自身に対して意見を持ったり述べたりする人格が現れるのだ。

その人格がマナメグミであった。

彼女らが出現している間は、私はアイではないような気がしてしまう。

そのため、私は私の意思で考え、行動しているという自覚をなかなか持てずにいて、それがとても苦しかった。


今回、私は作り出した人格と別れることができた。

そのことにより、私の離人感が解消されたのであった。

私の先生は、

「自分の意思で人格の統合を成し遂げた例は珍しいですよ」

と言ってくれた。


私は、欠点だらけの人間だ。

そんな自分が許せなかった。

それと同時に、欠点は欠点のまま、認めてほしいという強い気持ちもあった。

そんなことから、私は解離性同一性障害になってしまった。

しかし、私は私。


私は心の中の姉や妹と別れ、私は私を取り戻した。


翌日、私はいつもと同じように学校に行った。

そして、クラスメイトと雑談を楽しんだ。


「私、一人っ子なんだよね~。だからさ、優しいお姉さんがいたらいいな~とか思っちゃうんだよね。あと、できればかわいい妹もいたらいいな~ 口うるさくて生意気でもいいからさ。でもね、最近思うんだ~ 一人っ子ってさ、寂しいこともあるけど、兄弟のせいにしないで自分の人生を生きることになるからさ、それはそれで素晴らしいことなのかも、って思うんだ~」


「アイ、随分まじめに語っちゃってるね。何かあった? どうしたの?」


「うふふ……別に」


そして、クラスメイトたちはいつもように、こんな兄がいたらいいな、こんな妹がいたらいいな、なんて妄想話を延々と繰り広げるのであった。


《終》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私が姉妹と別れた理由 神楽堂 @haiho_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画