第7話 ライバル? or 好きな人
「どこ行くんだよー!下ろせー!」
「何だよ急に!もう授業始まっちゃうぞ」
文句を言う未来に
「……
「あんなの……大したことない!」
未来が
「……俺が辛かったから」
「え?」
旅人がしゃがんで未来と視線を合わせた。未来は
「漫画に全力な青空さんがそんな風に言われて……。悔しくて、辛くて、ムカついた。青空さんは……大丈夫?」
(こいつ……!何なんだよ。急に……)
未来の大きな瞳から耐えていたはずの涙が零れ落ちた。一度流れだすと次から次へと流れだして止まらない。旅人の鋭い眼光が、優しい色を
「……何を言っても、漫画を描く苦悩は描かない奴には絶対に理解されないって分かってた……。私にとって命懸けで仕上げた原稿も、あいつらにとっては紙っぺらでしかない。……分かってたのに悔しかった!」
そこまで言って視線を廊下の
「ゼロから何かを生みだす苦悩なんて……生み出す本人しか分からないんだ。漫画家ってそういうもんだって、孤独なもんだって分かってたのに……!」
そう言って袖口で涙を拭う未来を大きな何かが包み込んだ。
旅人が泣きじゃくる未来を抱き寄せていた。時々、不器用そうに小さな背中を叩く。旅人の優しさに未来はそのまま肩口におでこをつけて、泣いた。せき止めていた悲しさと悔しさが一気に溢れ出す。
2人の頭上から授業開始を知らせる、チャイムの音が鳴り響いた。
翌日。旅人は目の下にクマを作って登校した。
昨日の出来事のせいでよく眠れなかったのだ。旅人は自分の衝動的な行動に自分でも驚いていた。
(小さかったな……。泣いてるところも可愛いかっ……いや、不謹慎だぞ!)
下駄箱に小さな人影を見つけて、旅人は歩みを止めた。
その人物は未来だった。
「昨日は……その、ありがとう。さっきあの3人から謝られたよ……」
(可愛い)
「本当は漫画を破ろうとしていたらしいけど、できなかったって。私の漫画が凄すぎて」
(可愛い)
照れくさそうに、でも得意そうに話す未来を旅人は無言で見守っていた。
「旅人君。これからも……漫画描きとして宜しくな!」
花びらが飛び散るような、眩しい笑顔を浮かべた。
「……ああ。勿論!」
旅人も柔らかい笑みで答える。
(ライバルとして!)
(好きな人として)
すれ違いが無くなるのにはまだ時間がかかりそうだ。
少年漫画家ちゃんと少女漫画家くん ねむるこ @kei87puow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます