第14話
「今日はどうしましょうか佐渡さん」
「んー。そうだね。なんだか一通りのことはやった気がするんだけど……」
朝食を取り終わり、洗濯と食器の片付けも手分けして済ませてしまった僕らは、絶賛暇中である。
ここ最近、彼方ちゃんとはいろいろなことをやってきた。
デパートで買い物、商店街で買い物、ゲームセンターで遊んだり、家でゲームをしたり、たまに外でバドミントンや、フリスビーで遊んだりもした。というかできることをすべてやってしまった感がある。
でも、休日をただ黙って家で過ごすのもなんだかもったいない気がして、二人でなにをしようかと模索していたのだ。
「ゲームも結構いろいろやりましたし……」
「外でも結構遊んだよね……」
「デパートでお買い物したり……」
「ゲームセンターも行ったよね……」
「「はあー」」
二人同時にため息を吐く。
もう少しお金があれば少し遠出をして遊園地なり、水族館なり、動物園なりに連れて行ってあげることもできるんだけど、母からの追加のお金もこの前のゲームセンターや彼方ちゃんの日常品の買い足しでほとんど底をついてしまった。
流石にもう一度頼むのは母に申し訳が立たないし、これ以上迷惑をかけるのも僕としてはしたくない。
でも、彼方ちゃんとどこかに行きたいという気持ちも確かなもので、という負のスパイラルが僕を惑わす。
「どうせならお金を掛けないことをしたいですね。これ以上お金の負担を佐渡さんに掛けるのも嫌ですし……」
流石にここ最近一緒に暮らしているだけはあって、彼方ちゃんも僕の金銭面をある程度は把握しているようだ。
情けないような気もするが、わかっててもらえるのは今は素直にありがたい。
それくらい今の金銭面は絶望的だ。正直食料を買うお金ぐらいしか残っていない。
「お金を掛けないことっていうと限られてくるよね。家に今あるものでできることか、何も用意しないでこの近くでできること……」
お金を掛けないでできることなんて結構限られている。そのうちのほとんどはもう既に実行済みだし、打つ手なしか。
二人してあきらめモードに入りつつ、なにかいい案でもないかとテレビをつけてみる。
映し出された画面にはアナウンサーの人と日本地図が映っていて、天気予報をしていた。
「今日の天気は晴れ。今までの寒さが嘘のように暖かくなるでしょう……」
そう言えばここ最近少し暖かくなってきた。
コートが必要な日が少なくなってきたし、暖かい日にはパーカーですら熱く感じる日もある。
そんな暖かい日は洗濯物がよく乾くので僕としては大満足だ。
「こんな暖かい日には家に籠ったりなどせず、外を散歩してみてはどうですか? いつもは見えないような意外な発見があるかもしれませんよ」
というところで天気予報は終わり、ニュースへと切替わった。
「……散歩ってどうかな?」
「いいと思います。私も佐渡さんが言わなかったら言おうと思ってました」
実に単純な僕達だった。
「どうせならお弁当持っていこうか。外で食べるお弁当って言うのもたまにはいいと思うんだけど……」
「いいですね! 私お手伝いします!」
「うん、それじゃあ支度して散歩に行こうか」
「はいっ!!」
こうして今日は散歩を兼ねたピクニックということに決まった。
「わあー。なんか普通に散歩してるだけなのに周りがいつもと違う気がするね」
あの後すぐにお弁当の支度を済ませ、意気揚々と外に出た僕達。
外に出るなり待っていましたとばかりの太陽が僕らを照らし、気分を高揚させる。
風もまだ少し冷たいものの、それが今日の気温的に気持ちよく、天気予報で言っていたとおり最高の散歩日和だ。
「ホントですねー。こんな天気だとただ外を散歩してるだけでも楽しいです!」
彼方ちゃんも心なしか今日はテンションが高い。
天気のせいなのか、それとも散歩のおかげなのかわからないけど、彼方ちゃんが楽しいのならそんなことはどうでもいい。
「そういえば佐渡さん、お弁当はどこで食べるつもりなんですか? この辺りだとお弁当を食べられそうな場所がないように思えるんですけど」
「そうだね、彼方ちゃんの言うとおり、あまりお弁当を広げて食べられる場所はあまりないよ。だから今回は商店街の方に行こうと思うんだ」
「商店街の方ですか? 確かにデパートの方に比べたら自然が多いですし、お弁当が食べられそうな場所も多そうですけど……」
「うん。だから今日は広い公園で食べようと思うんだ」
「広い公園……? そんなところがあるんですか?」
「商店街の少し先のところに大きな公園があるんだ。桜の木もたくさんあって、大きな噴水もあるんだ。普通の公園みたいに遊具はないんだけど、自分たちで物を持参すれば何でもできるような大きな公園だよ。たぶん散歩するのにもいいと思うんだ」
商店街を少し行った先に大きな公園がある。
そこは今言った通り、春になれば満開の桜が咲き乱れ、夏になれば噴水の近くで遊ぶ子供たちが集まり、秋になれば紅葉が落ち、冬はたまに降る雪が一面に広がると幻想的な、そんな春夏秋冬を感じさせる公園だ。
普段から散歩をしている人やランニングをしている人も多く、みんなの憩いの場としても最適な場所だ。
僕もたまに気分が落ち込んだ時にお世話になる。
「そうなんですか。それは確かに今日のお散歩に最適かもしれませんね。佐渡さんの話だと自然も豊かそうですし」
「うん。この辺りならたぶん一番自然が多いと思う。だから彼方ちゃんも満足できると思うよ」
「佐渡さんがそう言うんだったら期待できますね。私、今から楽しみです」
なんだか自分で言っておいてなんだけど、かなりあの公園の期待度が上がってしまった。
一応僕なりに考えて出した答えだからそう間違いということはないと思うけど、ここまで期待の目をされると少し不安になる。
そんなことを考えているうちに目的の公園まで来てしまった。
「ここだよ、さっき言ってた公園。僕的には結構今日の散歩に向いてる場所だと思うんだけど……どうかな……?」
少し不安になりながら彼方ちゃんに尋ねる。
彼方ちゃんは少し周囲を見回し、そして感嘆の声を上げた。
「うわー。佐渡さんの言った通り、この辺りでは一番自然が多いですね。こんな自然に囲まれたところ久しぶりですよ」
彼方ちゃんが思っていた以上に喜んでくれているので一まず安心。
ここに来るまでに少しずつ蓄積されていた期待感への不安は消え去った。
「とりあえずお昼にはまだ早いし、少しここで歩こうか。それともなにかしたいことある?」
「確かにお散歩もいいですけど、私、その……」
彼方ちゃんの少しずつ声が小さくなっていく。
なにか言いづらいことでもあるのだろうか。
「えっと……ちゃんと聞いてあげるから言ってみなよ。絶対に笑ったりバカにしたりしないから」
「ホントですか……?」
「絶対に約束するよ」
なんかよくわからないけど彼方ちゃんの心配を取り除くために僕は力強く頷いた。
「その……お恥ずかしいんですけど……芝生で横になってみたくて……」
顔を真っ赤にして本当に恥ずかしそうに、か細い声でそう言った。
「ふっ。あはははははっ!!」
「あっ! ひどいです佐渡さん! 絶対に笑わないって言ったじゃないですかっ!!」
早速約束を放棄して笑しだした僕に明らかに怒りを露にする彼方ちゃん。
「ごめんね。だって、そんな恥ずかしがることじゃないのに。って思っちゃって」
「ひどいです佐渡さん。私は真剣に言ったのに。もう口きいてあげませんから」
「えっ!?」
それはまずい。
そんなことをされたら今度こそ僕はこの世を去るかもしれない。
彼方ちゃんに嫌われるくらいなら死んだ方がマシだ。
でも、どうしよう。ここには包丁がない。
どうやって死んだものか……
「さ、佐渡さん? なにをキョロキョロしてるんですか?」
しかし、彼方ちゃんの声は既に僕には届いていない。
僕はもういかに早く死ぬために、どうやったら手っ取り早いかを模索することに意識を集中している。
「あの……佐渡さん? 本当に何をしてるんですか? なにか探してるんですか?」
さて、本当にどうやって死んだらいいのだろう。
周囲を見回して見るも、特に死ねそうな考えが浮かばない。
一番に浮かぶのは道路に飛び出して車に轢かれるというものだけど、それだと相手の人に迷惑がかかる。
僕としては自分で勝手に死んで、他人に迷惑をかけるような行為はしたくない。
しかし、周りにそう言ったことのできそうな所や物はなく、本当にどうしたものかと途方に暮れかけていたところ、僕はようやくそれらしいものを見つけ出した。
「さ、佐渡さんっ!? いったいどこに行くんですか? あの、なんかなぜか木にぶら下がっている輪のあるロープの方に向かってるような気がするんですけど、気のせいですよね? そうですよねっ。佐渡さーんっ!!」
結局、彼方ちゃんによって自殺は阻止されました。
ホームレス少女 @Rewrite3104
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