2つ

シャワーを浴び終え、冷蔵庫に手を伸ばそうとした時、ポストのランプがオレンジ色に点滅した。


ポスト横の扉を開け、母からのものであろう荷物を受け取る。


やった。今日はナフタレンのジュースが入ってる。

飲みながら一緒に入っていた手紙を手に取り、ソファーに腰をかける。



ジン へ


――今日も報告ご苦労様です。

相変わらず、言語の重みに愚鈍な人間が多いようですね。


そこまで読んで少し笑ってしまう。

母の綺麗な字だけど、確かにこれ、こっちの人には雑で読めない日本語に見えるな。


――このまま行けば、私たちの領土を奪うことは出来ず、自滅していく日も近いのかもしれませんね。


そして、僕の体調を気遣う言葉と、どうか危険な言葉をかけられないよう、気をつけて過ごしてほしいと綴られていた。


――ちなみに、ジン。

つい先日修理したばかりなんだから、眼鏡は大切に扱ってください。

そもそも、あの程度の大きさの半球から飛び降りたとて、ワープはできませんよ。

あと、タイヤは球では無く弧です。


優しい言葉から、急カーブでぶつかってきた言葉に、僕はジュースを詰まらせかけた。


発信機付の眼鏡さえ置いていってしまえば、時空移動してもバレないと思っていた僕の考えは甘かったようだ。

どこから見られていたんだろう。あ。でも、タイヤの大きさじゃダメってことは、あのタコの丸い頭の上からだったら、ほとんど半球だし成功するかな?

そんなことを考えながら、最後の一文に目を通した。



――p.s.今日そちらから、見慣れないものが飛んできました。同梱しますので、何かわかったら教えてください。



なんだろう?

手紙をテーブルに置き、箱の奥を探ってみると、小さな冷たい物体を2つ見つけた。


手のひらに銀色のそれを乗せ、コロコロと揺らしてみる。


「うわ。2つも外れてた。これをちゃんと締め直せば、来週の持久走は無くなるかもしれないな」


まだしばらく続く寒い冬の体育が、少しは楽になりそうで、僕は笑った。

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死あわせな世界 @hilomichi

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