俺が勇者のパーティを追い出されたら世界は滅ぶんですか?

モリワカ

俺が勇者のパーティを追い出されたら世界は滅ぶんですか?

「レイ、君にはこのパーティを抜けてもらおうと思う」


部屋に来てすぐに、レイ と呼ばれた少年は尊敬している勇者からそう告げられた

言った張本人も悲しそうな目をしながらさらに続ける


「レイには、これまで荷物持ちとしてこのパーティに参加してもらっていた 私たちのサポートを必死になってしている姿を、私はこの目で何度も見てきた」

「では、なぜですか!? なぜ、俺をこのパーティから追い出そうとするんですか!?」


レイは勢いよく勇者に問いかける

今まで優しくしてくれた他のパーティメンバーもみんなうつむいている


「分かってくれ 私たちは勇者パーティなんだ 常に危険と隣り合わせの戦いを、それこそ毎日行っている そんな危険な所にレイをおいてはおけない」

「俺はまだやれます! 荷物持ちだけじゃなく、洗濯や料理など何でも立派にこなして見せます! だから――」

「そういうことじゃないんだ!!」


勇者が珍しく大声で張り上げた

こんな勇者は今まで見たことがない


「今の状況を考えてくれ 私たちは、今魔王討伐の命を任されている 魔王と言えばこの世界の魔物全てを統べる魔の王だ 今の私でも勝てるかどうか分からない相手なんだ そんな強敵を相手にしながら、レイの事も守ってやれる自信がない……」


勇者は静かに頭を抱えて言った

勇者が言う通りレイには特別な能力がない

勇者パーティのみんなが使う圧倒的な強さに、ただただ憧れる一人の少年だった


千の魔法を操る魔法使い

どんな傷も一瞬で治す治癒師

全ての攻撃を肩代わりするタンク

圧倒的な力で敵を殲滅する勇者

そんな中、荷物持ち兼雑用係のレイだけが明らかに浮いていた


「……分かりました」

「すまない 私にとっても苦渋の決断なんだ どうか許してくれ」


勇者はレイに静かに抱きついた

そんな勇者の体はかすかに震えていた


レイは他のメンバー 一人一人と握手をし、勇者パーティを脱退した

レイがいなくなったのを見て、勇者はその場に崩れ落ちる


「ああ レイ、どうか許してくれ! あ、あああああぁぁ!!」


他のメンバーも勇者の周りに集まり、静かに泣いていた


レイは勇者パーティから脱退した後、ギルドに入り浸っていた

しかし、何かクエストをこなすでもない

勇者からもらった金貨を酒に使って毎日を怠惰に過ごしていた


レイが勇者パーティを追放された数日後、驚きの情報がレイの耳に入ってきた

勇者パーティが魔王によって壊滅させられたらしい


あの優しくしてくれた魔法使いも、毒舌ながらもレイの事を大切に思ってくれていた治癒師も、弱い自分のために剣の訓練を付けてくれたタンクも、レイの話をいつも静かに聞いてくれた勇者も

みんな魔王一人によってやられてしまった


遠くから轟音がする

勇者が死んだ今、怖いものは何も無いと魔王軍がこの街に押し寄せていた


ギルド内は騒然とする

荷物をまとめ始める者、逃げ惑う者、静かに運命を受け入れる者、錯乱して暴れる者

そんな者たちを背に、レイは一人涙を流していた


所詮、自分は一人の人間でしかなかった

この世界のために何かできただろうか

この世界を少しでも守ろうとしただろうか

勇者パーティの一員として何か誇れることはしただろうか


レイは一人駆け出し、魔王軍につっこんでいく

この世界のために何もできないまま終わるのなら、いっそ何も思い残すことがないくらい戦ってから終わりたい


「少年ッ! 無茶だ! やめておけ!」

「危険ですから、戻ってきてくださーい!!」

「一人で魔王軍に挑むとは 何とたくましい子だ……」


街の人の制止も聞かずに、レイは魔王軍の先頭ゴブリンに剣を放つ

しかし、レイのような普通の攻撃は魔王軍には効かず、頭を跳ね飛ばされてしまう

それは一瞬の出来事だった


レイの頭が地面に転げ落ちたのを見て、街の人達は一斉に逃げ出した

だが、周りは魔王軍によって囲まれており、誰一人として逃げることはできなかった

街はあっという間に魔王軍に占領されてしまった


レイが目を開けると、そこには神様がいた

頭には天使のような輪っかを付けており、背中には大きな羽が生えていた


「ああ、神様 俺は死んだんですね」

「ええ あなたは勇敢にも一人で魔王軍につっこんでいき、先頭ゴブリンによって頭を跳ね飛ばされ、死亡しました」


神様にそう言われ、レイは自分の首を確認する

首には傷一つ無かった

不思議に思ったレイに気づいたのか、神様がこの世界のことについて話す


「今、私とあなたがいるこの世界は生死の境目と呼ばれています あなたの肉体はとうに滅んでいますが、精神は生きているという状態です」


複雑な事を言われ、困惑するレイを見て神様は言い換える


「簡潔に言いますと、あなたは完全には死んではいません 私の力で生き返ることができるということです」

「それは分かりました ですが、生き返ったとしても俺の世界は魔王に占拠されているわけですよね?」

「そこなんです 確かにあなたの世界は魔王により闇に包まれました 残念な話です しかし、一つだけ世界を救う方法があるんです」


神様はレイのことを指さし告げる


「あなたが勇者パーティを追放されなければ世界を救う事ができるんです」

「…………はぁ?」


レイは神様に言われた事を理解するのに時間がかかった


「俺が勇者のパーティを追いだされたらこの世界は滅ぶんですか?」

「はい それはこの世界の決定事項ですから」

「何で俺なんですか?」

「さあ? ですが、あなたにはこの世界を救う力があることは確かです」


もう一度やり直せるのは願ってもみないことだ

でも、やり直しても勇者パーティを追放されないとは限らない


「何か俺に圧倒的な力とかくれないんですか? 神様ならそんなこと簡単なんですよね?」


レイが神様に言うと、神様は顔を伏せ言った


「あなたが思っている通り、私は神です しかし、あなたに私から何かをあげることはできないのです 神は下界の事に干渉してはいけない決まりになっています そのため、あなたに力を与えることはできませんし、崩壊する世界を救うこともできないのです」


人間の世界の事は人間が解決しなければいけない

神様がしょっちゅう人間界に力を与えていたら、人間は何もしなくなってしまう


「俺が、世界を救う……」

「はい、あなたにしか崩壊する世界を救うことはできないのです 私ができるのは世界の崩壊によって死んでしまったあなたを生き返らせて、再び世界に送り返すことしかできないのです」


レイは、自分の行動一つで世界の命運が決まってしまうことに、強いストレスを感じ泣き喚いた

レイも一人の人間であり、少年でもある

そんな少年一人に世界の命運がかかっていると言われれば精神が先に崩壊してもおかしくない


「本当にすみません 私にはこうする事しかできず 全くこんな自分がふがいないです」


神様はワンワン泣き喚くレイを、優しく抱き慰める

神様の胸の中は温かく、レイもどこか安心した気持ちになった


ひとしきり泣いて気が済んだレイは、決意した

自分が暮らす街を、世界を守れるのが自分しかできない事だというのなら


「できる限り、やってみます まだ、自身はありませんけど こんな事しか今の俺にはできないんですから」

「よかった では、あなたを元の世界に送り返します 一度で成功するとは限りません 何度も何度も挑戦してみてください 制限はありません」


レイは静かに目を閉じ、神様の指示を待つ

神様は魔法陣を描き、レイに向けて放った

レイの体が徐々に浮かぶ

こうしてレイの世界を救う挑戦は始まった


それからのレイは世界の崩壊を防ぐため、必死に勇者パーティについて行った

いくら追い出されそうになっても、レイは決して自分の信念を曲げなかった

そんなレイとは裏腹に、世界は残酷さを見せ付けていた


レイがどれだけ必死に頑張っても、勇者パーティからは追い出されてしまい世界は闇に包まれる

その度に、魔王軍は街に押し寄せ世界を崩壊させる

レイはその光景から一度も目を離したことはなかった


自分が救えなかった世界がこの目でどうなるのか、毎回毎回確認していたのだ

それはレイにとってあまりに辛く苦しいものであった


それでもレイは諦めなかった

それはこの世界が好きだから

この街の人達を心の底から愛しているからこそできるものである


「ねえ、君はどうしてそこまで頑張れるの? ただただ街の事を思っているだけじゃ、そこまでの力は出ないわよ?」


何回目の挑戦か忘れかけたころ、神様が話しかけてきた

確かにレイも最初の頃は、こんなの自分にできるわけないと消極的だった


「気づいた、からですかね パーティのみんなが弱い俺を全力でフォローしてくれていることに 今さらですけど、俺って意外とみんなから好かれてたみたいです」


レイはポリポリと頬をかきながら言う

最初はパーティのみんなもレイを追い出すつもりは無かった

ずっとこの四人で冒険していけたらなと、みんな思っていた


しかし、そうも言っていられる余裕もなくなってきて、レイを追い出したのは本当に苦しい決断だった

どんな時でもめげず、どんなに無茶な相談をしたとしても、レイは全く否定せずどうにかして成功させたいという気持ちが見て取れた

何が何でもみんなの役に立ちたい 力がないなりに懸命に努力していたのをパーティのみんなは知っていた


だからこそ、レイを追放するのはパーティのみんなも忍びなかった

そのことをレイは繰り返しの中で知った


「俺はみんなの優しさでここまでやってきたことに気づいたんです だから俺もみんなのために頑張るのは当たり前じゃないですか」

「そうなのね まあ、世界を救うきっかけになったのなら良かったわ」


神様はそう言って、レイをまた世界に送り返す

その時、レイは神様に一言告げる


「神様と会うのは、これが最後になるかもしれません」

「ほう それは何か理由があるのですか?」

「はい 俺に考えがあるんです」

「それは楽しみにしています」


そう言いあい、神様とレイは別れた

そして、レイは最後の挑戦に臨んだ


「よし、みんな今日も頑張るぞ!」


勇者がみんなに喝をいれる

レイもこれを最後にするため気合いをいれる


「おッ 今日は何かいつも以上に力が入ってるな、レイ」

「ああ、今回こそは頑張らないと」

「今回?」

「い、いや 何でも無いんだ」


レイはこの世界を繰り返していることを伝えるわけにもいかず、あいまいにごまかした

今回こそは成功させて、世界を救ってみせる!


それからレイはいつものように、荷物持ちや雑用を精いっぱい頑張っていた

最初から飛ばしていけば、怪しまれることは今までの経験で分かっているからだ

かといって、何もしなくても逆に呆れられ追放される事もあった


そして、みんなの手助けをしているときに勇者に呼ばれた

内容は分かっている もうすぐ魔王との直接対決が始まること

部屋の中には他の仲間も勢ぞろいしていた


「レイよ 君にはいつも感謝している 私たちの手が回らない所まで、まさにかゆい所に手が届くとは君の事をさすのかもしれない」

「そんなこと 恐れ多いです」

「そんなレイにこんな事を言うのは大変心苦しいのだが――」


やっぱりか

レイは静かに肩を落とす

何度挑戦してもレイは追放されてしまう

それも全く同じシチュエーションで


でも、今のレイは違う

何回も何回も繰り返してきた

もう、こんなところで諦めたりなんかしない


「俺を、追放 するんですね」

「――――ッ!!」


勇者と他のメンバーがなぜわかった!? というような表情を浮かべていた

いつもと同じだ 何も変わっていない

変わっているのはレイ自身だけ


「分かっています 自分が勇者様方と比べて劣っているのは 確かに自分には何か特別な力がある訳でもありません このパーティでできることと言えば雑用がほとんどでしょう」

「…………」


レイの言葉に誰も反論する者はいなかった

いや、レイの話を最後まで聞こうとする意志の表れなのかもしれない


「ですが、俺は勇者様と一緒にこれからも冒険したいんです! 美味しいご飯を食べたり、手強い魔物を協力して倒したり…… これからもそんな思い出をたくさん作っていきたいんです!」

「そ、そうは言うが 私たちがこれから戦うのは魔王だ あの魔王だぞ? どんな攻撃をして来るか分からない 君も生きて帰れる保証は無いんだぞ?」


レイは大きく息を吸い、言葉を絞りだす


「それも覚悟の上です! 勇者様と一緒に戦って、それで死ねるのなら何もできない俺にとってはメリットしかありません! それに俺の身は自分で守りますから勇者様方は戦いに集中してもらって構いません! なので、どうか俺も一緒に連れて行ってはもらえませんでしょうか!?」


レイは勇者たちに深く頭を下げた

長文を急ぎ足で喋ったせいか、息が切れている

勇者はそんなレイを見て、他の仲間たちに視線を送る


「ま、いいんじゃないの? でも、本当に何かあったら責任は取れないからね」


と、魔法使いは言う

いつも魔法使いの魔法には世話になっているレイ

今度は自分自身で身を守れと、珍しく厳しい言葉を告げた


「レイは私達より劣っているかもしれませんが、諦めない精神の持ち主です これからの戦いに役立つかもしれません」


と治癒師は言う

ケガをしたときには、いつも治癒師に治してもらっていた

レイのこれからに期待をしているかのような、含みのある言い方をする


「今日のレイなら大丈夫だろ 俺も鍛えてやってることだしな! ガッハッハ!!」


とタンクは言う

タンクは物事を深く考えない性格で、それもあってか危ないところを何度も救われた

自分が鍛えたのだから自信を持てと、ひそかに言ってくれているような気がした


「みんなにそう言われちゃあ仕方ない 私だけ反対するわけにもいかないしな だがな、本当に危険な戦いになる 私も自分の事で精いっぱいになって、君のことを気にかけることができないかもしれない それだけは分かってくれ」

「承知の上です!!」


レイは元気よく返事をした

これで当初の目的は達成した

あとは、悪の根源たる魔王を倒せば全てが解決する


決戦の火ぶたは今、切って落とされた!


勇者たちは魔王城の前にいた


「みんな準備はいいか?」

「ああ なんてことない 俺が全ての攻撃を防ぎきってやる!」

「魔王なんて私の魔法で簡単にやっつけちゃうんだから!」

「回復は任せてください! ケガをしたらいつでも私に言ってくださいね!」


レイはここに来て涙を流していた

そんなレイを見た他のメンバーが心配するように声をかけてくる


「おいおい こんな所で泣くなよ その涙は魔王を倒した後に取っておいてくれ」


勇者が涙を流すレイの背中を優しくさすりながら言う

その優しさのせいで、さらに涙があふれてくる


「あー 勇者が泣かせたー」

「ち、違う!! これはだな……」

「いくら勇者でもそれはいけませんよ」

「うんうん 俺も良くないと思う」

「だから、違うって言ってるだろおぉ!!」


そんな掛け合いをしているメンバーたちを見て、レイは思った


(ようやく、ここまで来たんだ)


涙を拭いたレイは勇者パーティの皆に向けて言う


「俺はここまで、みんなと一緒にやってこれて良かった! これからもどうかよろしくお願いしますッ!!」


レイが頭を下げると、みんなは言い合いをやめてにっこり微笑んだ


「頼んだぞ! 期待してるからな!」


勇者がみんなの気持ちを代弁して言った

そして、勇者たちは魔王城の扉に手をかける


「行くぞッ!」


『おおぉぉぉおおお!!』


みんなの気持ちが一つになった瞬間だった

魔王との最終決戦の時が訪れる


「ここからは私は何も指示を出さない いや、出せない 各々で考えて最適な行動をしてくれ」


他のみんなが静かに頷く中、レイは緊張で震えていた

だが、ここまで来て逃げるわけにも行かない

せいぜい足を引っ張らない程度に頑張ろうと決めた


魔王との戦いは、文字通りまさに死戦だった

一歩間違えれば、死んでいたという瞬間が幾度もあった

そんな中、レイは自分に何ができるのか必死に考えていた


勇者メンバーは苦戦を強いられながらも、満身創痍で魔王に勝利した

タンクの盾は粉々に砕け、魔法使いも魔力切れで動けないでいた

治癒師は勇者の傷を癒しているが、治癒師の方もかなりのケガを負っていた


「レイ、ちょっとこっちに来てくれないか?」


勇者がレイの事を呼ぶ

何の事だろうとレイは勇者に近付く


「君がこのパーティにいてくれて良かったよ 君がいてこそ、このパーティは初めて成り立つというものだ 五人そろって勇者パーティだもんな」

「勇者様……」

「もう様付けはいいんじゃないか? 君も立派な勇者パーティの一員なんだから」


勇者たちは落ち着いてから街に戻った

街へ戻ると街の人達が総出で歓迎してくれた


「ほら これが私の見たかった景色だ」


勇者はレイに向けて言うが、そこには誰もいなかった

勇者は不思議に思ったが、街の人達にもみくちゃにされてしまった


「俺はちゃんと任務を果たせただろうか」

「ええ あなたは立派にこの世界を救いましたよ 改めてお疲れさまでした」


レイは勇者パーティが魔王討伐の宴をしている所を空から眺めていた

もう、レイはあの場所には戻れない

レイはこの世界を救うために生まれた存在であり、この世界の危機が去った今必要のない存在になってしまったのだ


「本当にこれであなたは幸せなのですか?」


神様がレイに聞く

レイは元気よく、ハキハキと答えた


「これでいいんだ 共に戦ってきた勇者パーティと別れるのは悲しいけど、自分のおかげでみんながいる世界を救うことができたことを誇りに思うよ」

「そう、ですか」


神様は嬉しそうに勇者パーティを眺めるレイを見ながら思う


(まあ 本人が幸せと言っているのですから、これ以上私が関与することは間違っているのかもしれませんね)


「魔王討伐 本当にお疲れさまでしたー!!」


『カンパーイ!!』


勇者の周りには共に戦った四人の仲間がいた

他の仲間は忘れているかもしれないが、勇者にはもう一人共に戦った者がいることを知っていた


「レイ どこに行ったのかは分からないが、こんな私と一緒にいてくれてありがとう」


勇者は自分にしか聞こえない声でそう言った

どこかでレイが笑っている そんな気がした


                      FIN





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺が勇者のパーティを追い出されたら世界は滅ぶんですか? モリワカ @Kazuki1113

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ