宇宙三国志 G(ギャラクチカ) 小説編
高原伸安
第1話
宇宙三国志(G(ギャラクチカ)) 小説編
高原伸安
主な登場人物
リュウ……主人公。少年。光の子。人間。
シャン……連合国総司令官。人間。
コウメイ……リュウの忠臣。連合国軍師。人間。
ファー……リュウの忠臣。セミ型エイリアン。
ガイ……同。オラウータン型エイリアン。
子龍(しりゅう)……リュウの親友。少年のアンドロイド。
ナオミ……リュウのガールフレンド。人間。
武蔵……リュウの親友。後の臣下。
明……リュウの親友。後の臣下。
ヒヒ総統……ギーガ帝国総統。金属人間。
エメリッヒ……ギーガ帝国総合司令官。ヒヒの腹心。金属人間。
ラミ女王……ラーラ王国女王。植物人間。
ローズ……ラーラ王国総司令官。植物人間。
ミミ……ラーラ王国副総司令官。植物人間。
ショウ……銀河帝国皇帝。リュウの双子の兄。
ロロ……シャナ教教皇。
イザヤ……シャナ教十字軍の若き総司令官。
サスケ……コウメイの同門。在野。
ユタ……暗殺者。変幻自在の金属人間。
レイ……コウメイの親友。バル星の皇子。
ケイ……レイの弟。バル星王位継承者。
トト……連合国将軍。魚型エイリアン。
ホウトウ……連合国提督。ペンギン型エイリアン。
メイダ……連合国司令官。隊長。オーガ艦長。人間。
アルファ……連合国操縦士。機械人間。
ハイジ……連合国作戦立案官。緑色の植物人間。
グー……ギーガ帝国親衛隊長。金属人間。
ガラン……ギーガ帝国伝達官。金属人間。
バーン……ギーガ帝国司令官補佐。金属人間。
ブルー……ギーガ帝国将軍。ブルドッグ型エイリアン。
ドル ……ギーガ帝国将軍。トカゲ型エイリアン。
カーン……ラーラ王国長老。男。キノコ型植物人間。
マロン……ラーラ王国作戦司令官。美しい金属人間。
オウ……シャナ教枢機卿。
フー……シャナ教大司教。
オーサン……シャナ教大司教。
レイラ……銀河帝国皇后。
サイボー、カイン……ケイの母の腹心、参謀。
外……三国志と同じぐらいの登場人物がいる。それぞれの物語に出てくる。
ギーガ帝国の軍服はナチス・ドイツ風の格好いい物、宇宙船も三角形を基本としたもの。ラーラ王国の衣裳・軍服はフランス王朝、織田信長や伊達政宗軍といった華美で優雅な物、宇宙船も円形が基本。連合国は寄せ集めのアメリカの海軍・陸軍風のもので、戦闘機などもF15、16モデル、ステルス戦闘機といったような物。また法王庁(中世の十字軍、戦国時代の本願寺)の衣裳はローマ法王庁のような赤や白の法衣のような宗教的なもので、軍服は十字軍のようなデザインの物。宇宙船はコウモリとか神秘的な形のもの。もちろん部隊によって、その帽子、ヘルメット、兜、軍服、防護服、鎧など違う。etc。いろいろユニークで雅なものにする。
「バル星の戦い」の章。
第1話、帝国
我が、銀河帝国は、今や混沌の頂点にあった。ちまたには、宇宙海賊メギドが出没し、宮廷は皇帝の側近の思いのままで腐敗と堕落が蔓延していた。
そんな中、この銀河帝国は、皇帝を頂くヒヒ総統率いるギーガ帝国と、ラミ王女を中心とするラーラ王国、その他平和を願う連合国に分れて、この銀河の覇権を争うようになった。
そして、ロロ教皇を頂点とするシャナ教の教団も一大勢力となっていた。
これは、その皇帝の弟、連合軍のリュウの目を通してみた光の戦いの物語である。
ある時、ある場所、ある宇宙。星がカラフルで美しい銀河。
宇宙空母インディペンデント内のスクリーンに、ギーガ帝国軍と連合軍の戦いの様子が映し出されている。連合軍が、遙かに劣勢で、宇宙戦艦や戦闘機が次々に撃ち落とされている。
老総司令官のシャン、リュウ少年、他の乗組員達が痛ましそうに、それを見ている。
「全軍、撤退せよ」
シャン総司令官が、苦渋の決断をする。
一八〇センチを超える大男で、髪に白いものが混じっているが、決断力と意志の強さを感じさせる司令官である。
「でも、まだ勝敗はわかりません」
リュウは聡明そうな人間の少年で、辛い過去を持っていた。養父母を帝国軍に惨殺されたのである。そればかりか、故郷の星も木っ端みじんに破壊されたのだ。その後はジェニー星の貧民街にいたところをシャン司令官に拾われたという次第である。
「このままでは全滅だ。逃げるも勝ちということもある。お前も、まだまだ学ぶことは一杯ある」
シャン総司令官の目は、子供にものを教えるときのやさしいが厳しい目だ。
ギーガ帝国の巨大な三角形を基本にした空母内では、ヒヒ総統が指揮を取っている。帝国軍の総統である。大柄な白金色の金属人間で、ナチス・ドイツのような軍服でマントを羽織っている。
「連合軍のすべてを、この宇宙から抹殺するのだ」
ヒヒ総統が、傲慢に言い放つ。
「仰せのとおりに!」
エメリッヒ総合司令官は、ヒヒ総統の言葉に従うだけだ。白金の二メートル以上の大男であるが、ヒヒ総統より小柄である。
空母から、分子破壊ビームがでて、連合軍の空母フリーダムに当たり、炎上する。
「やったぞ!」
グー親衛隊長とバーン司令官補佐が叫ぶ。グー親衛隊長は銀色の、バーン司令官補佐はメタルブルーの体の金属人間である。
この司令室にいる幹部連中は、すべて金属人間や機械人間である。
また、主だったものはドイツ・ナチスのような軍服を着ており、立派なマントを羽織っている。
少し離れたところにいるラーラ王国の空母は、巨大な駒形の円盤(UFO)である。スクリーンの前に四人の侍女を従えたラミ女王が王座に座っている。煌びやかな髪飾りと衣裳を身につけている。美しい植物人間で、首のところがポルトガルの宣教師の服の襟のような萼が付いている。
その横に、ローズ総司令官とミミ副総司令官が立っている。ローズは赤いバラ、ミミは白ユリのような美人の植物人間である。オシャレで機能的な軍服を着ている。
その傍に、カーン長老とマロン作戦司令官が控えている。カーン長老は女王の相談役で唯一男のキノコ型人間で、背が高い真っ赤な帽子を被り、杖をついている。マロン作戦司令官はブリリアントな金属人間である。
「この戦い、ギーガ帝国の勝ちでしょうね」
ラミ女王が、愁いを帯びた瞳でつぶやく。
「そうでしょうな。今は、傍観しているのが一番ですじゃ」
カーン長老が、ユニークな形の木で作った杖で、床をコツコツ叩いている。
「この作戦自体が失敗だったのです」
マロンが、キッパリ言いきった。彼女は少女のような外見をしているので、周りから軽く見られる傾向がある。
奇妙な形をした神秘的な戦艦の中では、法王庁の教皇や司教達がこの戦いを静観していた。シャナ教のシンボル・マークが入ったゆったりした法衣を纏ったロロ教皇の周りに、オウ枢機卿、フー大司教、オーサン大司教などが、この戦闘を見守っている。
法服は、白と赤を基調にしており、胸にシャナ教の紋章が入っている。
ロロ教皇は、小柄な人間だが強大なカリスマ性を持っているので大きく見える。
スクリーンの中では、連合軍の空母インディペンデント、エンタープライズが攻撃を受け、被害が拡大している。連合軍が劣勢なのは誰の目にも明らかである。
同じ時、遠く離れたバル星でも動きがあった。首都バルガの宮殿の広場では、国王のクオーツが、集まった民衆の前で演説をしていた。青い皮膚をした人間である。
「私は、まだ帝国側につくかどうか、決めかねている。すべては国民の意志次第だ。その決定は、今回の国民投票に委ねるつもりだ(国民に手を上げて答える)」
クオーツは、国民の絶対的な支持を受けており、その声は大きく影響力がある。国王の意思ですべてが決まるのは明らかだった。
バル星にある首都広場の斜め前の連邦ビルの屋上に、金属人間の暗殺者のユタが身代わりの犯人を抱えて現われる。メタルグレーで、自由自在に顔、体を変えることができる金属人間である。暗殺や破壊活動に都合がいい。
一瞬にして、ユタはそのバル星人に変身し、連合軍の狙撃銃を構え、国王に照準を定める。
国王の演説は、最高潮に達していた。スコープの向こうで、国王が後ろに吹き飛ばされ、胸から血を流す姿を捉えていた。
少し距離はあるが、護衛はビルの屋上に狙撃兵を発見し、発砲してくる。ユタは銃を捨て、陰の犠牲者にレイ銃を握らせ自殺させる。次に、また警備員に変身し、屋上から消える。
連合軍の兵士が、国王を狙撃し、暗殺したという構図である。
銀河のギーガ帝国軍と連合軍の戦場では、勝敗の趨勢が決定しようとしていた。
ギーガ帝国の総攻撃の前に、連合軍はなすすべもなく、空母インディペンデント、エンタープライズ等、主だった艦が次々にワープ航法により、宇宙の果てに消えていく。連合軍が退却したのである。バル星を目指して……。
ギーガ軍は、残った艦隊を掃討していく。この戦いは連合軍の完敗だった。
バル星の宮殿内では、バル星評議会が開かれていた。
急遽招集された評議員が、恐々諤々と議論していた。次期、国王を決する会議である。
長男で、人気もあり、人格者のレイ、平凡であるが、現后の実子で次男のケイの姿も見える。良識のある穏健派の長老のザボや議長のルーガはレイを推しているが、后の腹心で実力者のサイボー、その参謀のカインなどはケイを支援している。
国民評議会会場のレイのブースでは、レイが難しい顔で座っている。レイは見るからに精悍な青年である。
「(レイの方へ囁くように)父君の暗殺で国民は知性を重んじるより、盲目のごとく感情的になっています。あの帝国支持派が圧勝した国民投票の結果を見ても明らかでしょう」
ザボは、レイの相談役で、初老の少し太った体が温厚そうな印象を与える。
「それは、ここでもケイが勝つってことか?」
レイが、暗い表情でつぶやく。
大きな会場の反対側にケイと后のブースがある。
后は美しく大きな武器になっている。ケイは、取り立てて何もない凡庸な若者で、置物のように座っている。
「サイボー様に任せておけば、ケイ様が必ずこの星の国王に祭り上げられるはずです」
参謀のカインが、ケイと后の御機嫌を取るべく、二人にささやく。背が低いが、ずるそうな顔をしている。
「それは本当か?」
后が、喜んでいる声を出す。外見的表面的には綺麗だが、あまり頭はよさそうではない。
「お任せください。根まわしは万全です」
サイボーが、腰をかがめて陰険に笑う。サイボーは、狡猾そうな長身のカマキリのような男である。
同会場の壇上では、サイボーが熱弁をふるっていた。
「国民評議会の諸君、我が国父クオーツを暗殺したのは、連合軍を支持する輩であった。だから、我々は親連合の立場に立つレイ様を国王に押すことは道理が通らない。よって、我々は帝国を支持するケイ王子を国王と頂くべきであろう。それが国民の意志でもある」
大きな拍手と喝采の声で、会場が包まれる。
同会場の電光掲示板には、次のような結果が表示されていた。
ケイ支持二九三対レイ支持一五九。棄権四八票。
レイはガックリ肩を落し、ケイは母の后と抱き合い、后は笑顔でサイボーはカインと握手する。
第2話、逃亡
バル星の宮殿のレイの控室では、レイがホログラムのコウメイと話している。レイの参謀の若いライラも、横に控えている。モデルのように美しい女性である。コウメイは、連合軍の青年軍師で、レイの友人であり、涼しげな顔と姿をしている。
「レイ、いますぐその星を脱出しろ。さもなければ、父君と同じような目に会うことになる」
レイは驚いた顔をして、「ケイにか?」
「ケイ王子は何も知らないだろう。問題はサイボーとカインだ」
コウメイが諭す。
バル星の宮殿のレイの控えの間に、カインのホログラムと数体の戦闘アンドロイドが踏み込む。
「レイ様、国家反逆罪であなたを逮捕します」
カインのホログラムが、叫ぶ。
部屋はすでに空っぽで、だれもいない。
「ヤッ、逃げられたか?」
カインが、地団駄を踏む。
バル星のバルガ軍事空港では、出発の準備が着々と進んでいた。
レイの戦艦内では、レイが部下たち皆に決意を述べていた。
「それじゃ、そろそろ出発しよう」
「さらば、我が故郷。しばらくの別離です」
ライラも、悲痛な顔をしている。
レイの旅団の艦隊が次々にバル星を飛び立って行く。
バル星の星系の、空母インディペンデント、エンタープライズ、戦艦オーガ等連合軍の艦隊が現われる。
インディペンデントのブリッジ内では、シャン総司令官が、全軍を指揮している。
「バル星へ交信せよ」
「バル星からの返信です」
アルファが、すぐさま応じる。アルファはこの艦のナビゲーターで、正確無比な機械人間だ。
スクリーンにサイボーが現われる。
「私は連合軍のシャン総司令官です。我々は、燃料や物品の補給をしたいだけです。それが済んだら、速やかに出ていきます。我々はケイ国王に寄港の許可をお願いします」
「よくわかっているよ、シャン総司令官。しかし、答はノーだ。我々はギーガ帝国と手を結んだ。だから、貴公らの条件を飲むことは、同盟に反することになる。すぐにこの星系から出ていきたまえ。さもなければ、総攻撃に移る」
サイボーが、横柄に命ずる。
すぐさま、破壊光線がバル星から発射され、インディペンデントを掠める。
「安心したまえ。ただの脅しだ。しかし、今度は容赦しない。直ちに行動しないと、君たちは後悔することになる」
サイボーの姿が消え、交信が一方的に切れる。
バル星の星系では、バル星から再び破壊光線が発射され、戦艦の一つが炎に包まれる。バル星からも次々と戦艦が発進してくる。
「仕方がない。出発だ」
シャン総司令官が、小さな声でつぶやく。
「しかし、もう燃料もほとんどありません」
ホウトウ提督が報告する。
地味な仕事人のペンギン型の鳥人間である。
「戦う力も残っていないだろう?」
シャン総司令官が命令する。
全艦は、補給基地がある惑星パオパオへ向かうことになった。
バル星系の辺境では、インディペンデント、エンタープライズ、オーガを中心にした連合軍が、バル星の艦隊に追われ攻撃を受けている。もう、退却あるのみの戦況である。
インディペンデントのブリッジ内では、リュウの忠臣のファー、ガイ、友達の子龍、幼馴染みのナオミ達もスクリーンに映る、この惨状を注視している。
ファーはセミ型昆虫人間で、ガイはオラウータン型異星人である。どちらも、二.五メートル超の大型の漢だ。子龍はリュウと同じ程の子供のアンドロイドである。ナオミは、リュウと同じ年の女の子で、シャン総司令官の孫娘である。
「どうしましょう。もう我軍には戦うだけの余力はありません」
メイダ隊長が、悲痛な面持ちできく。
「戦うしかありますまい」
ファーが決意を述べる。
「それしか方法はなさそうだ」
ガイも同じ気持ちである。武将の心意気である。
「逃げきれないわ」
と、ナオミ。
「前方の何者かからの交信です」
アルファが、報告する。
「応答しろ」
シャン総司令官がすばやく応答する。
スクリーンに大艦隊が現れる。
「あれはレイの部隊だ」
コウメイの頬が緩む。
スクリーンは、レイの姿に切り替わる。
「皆さんを助けに参りました」
レイの頼もしい顔がみえる。
「助かった!」
子龍が飛び上がって喜ぶ。
ブリッジの乗組員から歓声が沸き上がる。
「ちょっと鬼退治に行ってきます」
レイの船団から、次々と光子魚雷が射たれバル星の艦隊を破壊していく。しかし、致命傷にならない程度だ。同国人なのだからだろう。
バル星の兵士は、目の前に現われた新しい敵のために混乱し、同士討ちまでする始末だ。カインの戦艦も被弾し、カインも命からがら脱出艇で落ちのびていく。
空母インディペンデントの展望指令室では、シャン総司令官とハイジ作戦立案官が話している。ハイジ作戦立案官は、全身緑色の美人の植物人間である。アメリカの陸軍のような迷彩服を着ている。
「いまの銀河の勢力地図は、どうなっている?」
「領土は別にして、兵力だけをいえば、ギーガ帝国が4、ラーラ王国2、連合国1・5といったところでしょうか? あと、法王庁が1・5、その他が1でしょう。法王庁は、信者の心の中に入っているので、何とも云えません。でも、いまや帝国軍が圧倒的に有利です」
「シャナ教は侮れないぞ! ギーガ帝国やラーラ王国の中にも信者がいると言うからな。あのギーガ帝国の中にもだ。属国の首長でさえ、シャナ教に帰依している者がいるといわれている」
シャン総司令官が、指摘する。
「金属人間といえども、心を持っていますからね。動・植物と何ら変わりはありません。エルム星への巡礼は、後を絶たないといいますよ」
ハイジ作戦立案官は、ラーラ王国のことも頭に入れて言った。
「宗教は、麻薬と同じだ」
シャン総司令官が穏やかな口調で言う。
「彼らは、法王庁を潤す糧となっています。法王庁も財力では、ギーガ帝国に引けを取っていません。それに、イザヤという若きリーダーがいます」
と、ハイジ。
「ラーラ王国も、忠誠心という点では盤石だし、どこも敵に廻すと、恐い存在だ」
シャン総司令官が、遠くを見るような目で言った。
バル星の軌道上ギーガ帝国の空母のブリッジ内。
ヒヒ総統の前で、サイボーとカインが首(こうべ)を垂れて小さくなっている。
「レイ皇子を逃がし、そのうえ連合軍を打ち漏らした罪は重いぞ! 今頃は宇宙の塵になっていたものを!」
ヒヒ総統が、怒りをあらわにして雷を落とす。
「申し訳ございません。今度こそは、息の根を止めてやります」
サイボーとカインが、平伏して同時に頭を下げる。
「よし、もう一度だけチャンスをやろう。次はないものと思え」
ヒヒ総統が横柄に頷く。
「今度おめおめと逃げ帰って来たら、私が首をねじ切ってやるぞ!」
エメリッヒ総合司令官も、同じように脅しの言葉を示す。
サイボーとカインは、スゴスゴとブリッジを出て行く。
ブルーとドルの二人の将軍がヒヒ総統の前へ進み出る。ブルーはブルドッグの顔をした動物型人間。ドルはトカゲが進化した爬虫類型エイリアンだ。共通なのはどちらも、冷血で残忍だということである。二人は機械、金属人間ではないが、利用できるものは利用するというヒヒ総統の実利主義の賜物である。
「今度はわたしたちにやらせてください。千の兵でも貸していただけたら、奴等を根絶やしにしてやります」
ブルーとドルが同時に申し出る。
「最早、勝機は去ったわ。予が命令を下すまで待機しておけ!」
ヒヒ総統が、吐き捨てるように言う。
「ハハアー、仰せの通りに!」
ブルー、ドルは、平伏する。
第3話、同盟
惑星パオパオの地下の秘密基地。この星は、氷の惑星である。快適な会議室の中、様々な種族の人々が集まっている。シャン総司令官、リュウ、トト将軍、ハイジ作戦立案官、コウメイ参謀長などがいる。
「トト将軍から、現在の我軍の状況を説明してもらおう」
シャン総司令官が、厳粛な雰囲気の中で口を開く。
「先の戦いで私たちは空母フリーダム、戦艦グリフィン、アルカンを失い、現在の戦力はレイ皇子の助力を得た今も3/5ほどに落ちています。態勢を立て直すまでには、悲しいことかな、半年程かかる計算です」
トト将軍が、液体に満たされた宇宙服の中から、マイクで言った。
「そんなに悠長なことを言っているひまはありません。その間に、ギーガ帝国はこの宇宙の大半を支配してしまうでしょう。そうなっては手遅れです」
ハイジ作戦立案官が、せっかちに言う。
「何か名案があるかね? ハイジ君」
シャン総司令官が促す。
「一つだけあります。ラーラ王国と同盟を結ぶのです。手を組めば、帝国の武力に対抗できるでしょう」
ハイジ作戦立案官は一人ひとりに目を注ぐ。
「これは、なにも私が植物人間だからという理由からではありません。同じ生態系で共存できる生物だからです。あの冷酷な金属人間達とは同盟はできません」
「僕もハイジ女史の意見に賛成です。皆さんは、あの”トーマ星の悲劇”を忘れたわけではありますまい。ギーガ帝国は平和を唱えるトーマ星を、連合軍の婦女子を匿ったという理由だけで、バイオ爆弾を落して、死の星にしたのです。植物も動物も生きるものすべてを殺戮してしまった。心やさしいラミ女王の心から、そのことは決して離れてはいないでしょう。それに、古(いにしえ)の地球から発見された『三国志』という古書に三国鼎立(ていりつ)というのがあります。三国が互いに睨みを利かせ、鼎(かなえ)のように立脚するというものです。三つの足のどれを欠いても転倒します。弱っている我らに残されているのは、この方法しかありません。いまは、ラーラ王国との同盟が必要なのです」
コウメイが、口をはさみ、意見を述べる。
「選択の余地なしか? 他に意見のある者は?」
シャン、周りを見回す。
「それで、誰が使者として出向く?」
「私が言い出したのですから、私が行きます」
ハイジが、手を挙げる。
「それは駄目です」
コウメイが、反対する。
「同族だから、私が裏切るとでも?」
ハイジ、憤慨して、食ってかかる。
「そうじゃありません。同門相食むという諺もあります。あなたが使者に立てば、相手が感情的になってしまうでしょう。それじゃあ、まともに交渉はできません」
コウメイが、やさしく説明する。
「すいません。出過ぎた真似でした」
ハイジは、素直に謝った。
「それでは誰が?」
シャンは、皆をみる。
「僕が行きます」
今度は、コウメイが名乗りを上げる。
「ボクも行きたい」
と、これはリュウ。
「駄目だ。交渉不成立の場合は殺されるかもしれないのだぞ」
シャンが,やんわりとリュウをさとす。
「確かに難しい任務です。しかし、我が主君のリュウには、光がみえます。それは、暗黒を照らす一条の光です。僕は、リュウに賭けてみたい」
コウメイが、意見した。
コウメイとしては、リュウの威光を借りるつもりと、いい経験になるとの教育をかねる考えから出た言葉だった。
「それでは、二人に任せることにしよう。ファー、ガイ、子龍が護衛だ」
シャン総司令官は、コウメイの胸中を推し量って許可した。
アベル星の軌道上。ギーガ帝国の人工小惑星内、王座の間。
王座に銀河帝国の皇帝ショウが、その横に皇后のレイラが座っている。その斜め後ろには、オウマイ、コウツ、エツという側近が控えている。また、レイラの横には侍女の若いユウリが立っている。伝達官のガラン、親衛隊長のグーという腹心を引き連れたヒヒ総統が、部屋に入ってきて、皇帝の前で恭しく頭を下げる。その態度は神妙にみえて、実に傲岸不遜である。
「閣下におかれましては、御機嫌麗しゅう……」
ヒヒ総統の言葉の内には、有無を言わせぬ力があった。
「麗しくない」
ショウ皇帝が、顔をしかめて言う。その顔には、気品とやさしさ、威厳を秘めており、顔かたち体格までリュウと瓜二つである。
「なぜでございます?」
ヒヒが、わざとらしくきく。
「予は、もうこれ以上、お前の殺戮など見たくない」
ショウは、幼少ながらも正義感が強く、将来にはいい皇帝になる威厳をもっていた。オーラがあふれている。
「私は陛下に弓引く反逆者どもに剣とナイフをもって挑んでいるだけです。今の乱れた世界を統治するには、力で平定するしかありません。私は陛下の望む平和を実現させようと日夜努力しているのです」
ヒヒ総統が、下手に出て言う。
「詭弁だ!」
ショウは、怒っていた。
「陛下はまだ子供ですから、そのような論理はおわかりにならないのかもしれません」
「ヒヒ総統、口が過ぎますよ!」
皇后のレイラが、横から強く口をはさむ。
「どうも申し訳ございません。しかし、閣下に感謝していただける日がやってくることでしょう。すべて私に任せて、大船に乗った気持ちでいてくだされば、よろしいのです」
ヒヒが、恩着せがましく言う。
ギーガ帝国空母のブリッジ内では、ヒヒ総統の横にエメリッヒ総合司令官が、悪だくみにを巡らせていた。
「総統、もう陛下は用済みなのじゃありませんか。もう始末してしまっても?」
エメリッヒが、ヒヒ総統の顔を伺う。
「確かに、銀河帝国の半ばを手中に収めた現在、皇帝の名は利用価値が少なくなっているかもしれん。しかし、法王庁との戦いにおいては、まだ必要なのだ。奴らは、権威のあるものが好きだからな」
ヒヒ総統が、遠謀深謀をみせる。
「皇帝を戴く限り、法王庁といえども面と向かって、我らに歯向かうことはできません。しかし、全宇宙の住民の1/3以上が信者だというシャナ教もやっかいなものです。法王が死ねといえば、自ら命を絶つのですから……。我がギーガ帝国の兵士にも信者がいると聞いています。噂ですが」
エメリッヒが同意する。
「宗教のような形のないものこそ、手強いものだ。だから、一線を引くためにも皇帝が必要なのだ。シャナ教を潰すまで、あの若造は生かしておいてやろう」
ヒヒ総統が、傲岸不遜に言い放つ。
ラーラ王国の女王専用船に小型宇宙船が近づいていく。
「ラミ女王様に敬意を表し、連合軍の使者が乗船を望んでいます」
小型宇宙船の船長が、通信する。
「どうぞご乗船ください」
ラーラ王国母船が応答する。
コクピットの窓外に、女王専用船が浮かび上がり、接近してくる。リュウ、コウメイ、緊張した顔をしている。
女王専用船の中の着陸デッキに小型宇宙船が、静かに着陸する。
小型宇宙船から、リュウ、コウメイ、護衛としてついてきているファー、ガイ、子龍等が降り立つ。
広い通路にずらりと煌びやかなラーラ王国の女兵士が並んでいる。一行は、その中を控室まで案内される。リュウ、コウメイ特使とファー、ガイ、子龍等護衛は別々の部屋へ案内される。
第4話、三国鼎立(ていりつ)
女王専用船の中の女王謁見の間。
中にはいった者が、まず初めに感じるのは、華やかで豪華という言葉である。内装はゴージャスで、ラーら王国の富というものを感じさせる。
基本は黄金色である。
着飾って美しいラミ女王が王座に座わり、その前のテーブルの両脇に、カーン長老、ローズ総司令官、ミミ副総司令官、マロン作戦司令官、元老院のアリン、マン等名だたる実力者達が黙って席についている。
女王の前に、リュウとコウメイが立ち、今はコウメイがその熱弁をふるっている。
「ですから、我々とまったく生態系を別にする金属人間とは共栄、共存は不可能の運命にあるのです。それが、彼らが我々に対して、あんなにも残酷になれる所存です」
コウメイが、熱弁をふるう。
「トーマ星の例を持ち出されるまでもなく、ギーガ帝国の残虐非道ぶりは目に余るものがあります。あの繁栄を誇った千年王国を一夜にして地獄に変えてしまったのですものね。あの星は、今後千年以上生物は住めないときいています。あの悲劇のことを思い出す度に私の心は痛みます」
ラミ女王が、すぐさま答える。
「ギーガ帝国はショウ皇帝の名を騙ったいわゆる傀儡国家です。ですから奸賊ヒヒを倒し、皇帝陛下を救い出さなくてはなりません。そのショウ皇帝陛下こそ、このリュウの兄君なのです」
コウメイのこの爆弾発言で座がざわつく。
「皇帝陛下の弟だとナ。そういえば瓜二つだな。一度、お会いしたことがある」
カーン長老が、つぶやくように言った。
「ワシも、ある噂を聞いたことがある。先の王妃は、双子を生んだ。しかし、王は二人立たずということで、側近のズーは弟のリュウ君を亡きモノにしようとした。そこで、王妃の密命を帯びた乳母のミュウは、リュウ君を辺境の惑星に逃れさしたとな」
「そこで、貧しいながらも温かい養父母にリュウ君は真っ直ぐに育てらられた。それが、我らのリュウ君なのです」
コウメイは続けた。
「ギーガ帝国は巨大です。その敵を倒すのは並たいていのことではありません。そのためには、ラーラ王国と連合軍が手を取って戦うしかないのです」
「その報酬はなに? ヒヒ総統は、あなた方の領土の半分で、同盟を申し込んで来ているわ」
と、ローズがせっかちにきいた。
「代償は、ギーガ帝国からの『安全』です。もし我々が亡んだら、ギーガ帝国は、今度はあなた方に牙を向けるでしょう。しかし三国が鼎立していると、帝国も容易に攻めて来られないでしょう。お互いにとって都合がいいというものです」
コウメイが再び熱弁を奮う。
「ハッキリ、ものをおっしゃる方ね」
ミミがやさしくきく。
「ありがとうございます。それにー」
「それに、何? 言い出して止めるなんて男らしくないわ」
ローズが怒ったように言う。
「女王陛下の前では、口にするのも汚らわしいことなのですが……。ヒヒ総統の言葉です……”植物はもともと観賞用にあるべきだ。ラミ女王は、花のように美しい女だそうな。いっそのこと、ラーラ王国を滅ぼして、ラミ女王を、そばにおいて愛でるのもいいな“と言ったとか、言わなかったとか……」
あちこちで非難の声があがるが、女王は顔色ひとつ変えずに、落ち着いて座っている。
ローズ、バラのような顔を真っ赤にして立ち上がる。
「ヒヒの奸賊め。こうなれば、我が軍の力を目にもの見せてくれようぞ!」
ローズの顔は真っ赤である。
「ローズ、落ちつきなさい。(視線をコウメイの方へ直し)使者のおっしゃることはよくわかりました。追って返事をいたしますので、席を外してお待ち下さい」
ラミ女王が、落ち着いた声で諫める。
数時間後の女王の間には、先程のそうそうたるメンバーが顔を揃えていた。
コウメイとリュウが入って来て、女王の前に立つ。
ラミ女王が立って、二人に言葉をかける。
「私たちは全員一致で、あなた方の申し出を受け入れます」
「それじゃあ」
リュウが、声をかける。
「同盟成立です」
ラミ女王が、高らかに宣言する。
「ありがとうございます」
リュウとコウメイは、頭を下げる。
「こちらこそ!」
ラミ女王も、お辞儀をする。
全ての人々が、全員拍手している。
女王専用船、晩餐の間は、煌びやかという言葉がぴったりである。
こちらも広く、華やかで、ゴージャスなホールである。
みんな、テーブルについている。
ローズ将軍を挟んで、リュウとファーがいる。ガイ、向かいの席で、ミミとコウメイ相手に酒を飲んでいる。子龍、その横でおとなしくしている。
「きみは、あの“ミア”の戦いで、勲章をもらったそうね」
ローズが、リュウに向かって話しかける。
「はい。でも。ぼくは、ナオミたちを助けるために必死に戦っただけです」
リュウが、笑顔をみせる。
「勇気ある少年ね」
「ありがとう。でも、お姉さんは、やさしいんだね?」
「意外! 本当は、恐いのよ」
ローズが、驚いた顔をする。
「みんな、そう言っているけど、本当は違うよ。ぼくには、わかるんだ」
「どう違うの?」
「とても心が暖かいんだって。ぼくにも、大人の男の人のように接してくれるし……」
リュウが、真面目に言う。
「でも、よく厳しすぎると言われるわ」
「それは、司令官なんだから、仕方がないよ。時には、非情にならなければならない時も、あるでしょう。これは、戦争なんだから」
「やさしいのね。きみには、人を惹きつける魅力があるわ。とてもチャーミングよ」
ローズは、リュウを大人のように扱っている。
「ぼくは、お姉さんが好きだよ」
「ローズでいいわ」
「ほら、こんなに暖かい」
リュウは、ローズの手を取る。
「ありがとう」
ローズが、リュウの頬にチュッとキスをする。
「恥ずかしいよ」
「ナオミに告げ口しちゃうぞ」
子龍が、ニヤニヤ顔でちょっかいを出す。
ファーは、無言で笑って見ている。ガイは、テーブルの向こうから、酒を飲みながら、囃し立てる。みんなが、微笑みを湛えた目で眺めている。
女王専用船。貴賓の間。宝石をちりばめたようである。
パーティーをしている。煌びやかな女性ばかりのせいか、華やかな雰囲気である。
「女王様は、いい匂いがするね。それにものすごくきれいだ」
リュウが感想を述べる。
「美しい花に心を奪われましたか? ナオミさんが、やきもちをやきますよ。アッ、これは単なる比喩的な表現ですが」
コウメイが、真面目に言う。
「そんなんじゃないよ。でも、女王様は優しいし、好きになっちゃったみたい」
リュウは、赤くなる。
「素直なんですね。でも、それが人を惹きつける」
「コウメイさんと踊っていいかしら?」
ミミ将軍が、やさしく声をかける。
コウメイは戸惑うが、リュウが、「どうぞ、どうぞ」と言って押し出す。
リュウ、コウメイがぎこちなく踊っているのを見て笑う。
第5話、戦い
場所は変わり、ギーガ帝国の母船の展望室に移る。
「大変です。スパイから、連合軍とラーラ王国が同盟を結んだとの情報が入りました」
ガラン伝達官が報告する。メタルブルーで、やや小柄な体をしている。
「おのれ! 外道どもめ、ふたつの国もろとも、死の星にしてくれるわ。どちらも、予が自ら根絶やしにしてやろうぞ」
ヒヒ総統が、怒って怒鳴る。
「そのお言葉を待っていました。必ずや、この剣の露にしてくれましょうぞ」
エメリッヒ総合司令官が、すぐさま答える。
「同盟を結んだとて、一枚岩ではない。しょせん寄せ集めの軍団よ。もっとスパイを放て! 裏切り者は、必ず出てくる」
「そうですとも。裏切り者に寝首を掻かせるのも、兵法のひとつです。母国に人質を取られている者など、こちらに靡きそうな者を、甘言をもって迎え入れましょう」
と、エメリッヒも、同調する。。
「お前も、そうとうな悪よな」
ヒヒ総統も、笑っていう。
ここは、連合軍、宇宙空母インディペンデント内、会議室の前の通路である。
リュウ、ファー、ガイ、子龍が歩いている。
ラーラ王国の作戦司令官のマロンが会議室に入って行く。メタルレッドの体を持つ金属人間である。
「どこも、かしこも会議、会議だな。しかも極秘と来ている」
ガイが周りを見ながらいう。
「作戦が敵に漏れてはまずいだろう。即致命的な敗北に繋がる」
ファーは、直情型のガイとはちがい理知的である。
「しかし、マロンという女、大丈夫かな? 金属人間だろう」
「人を疑うなんてことは良くないことだよ」
リュウが、注意する。
「……」
子龍は、黙ったままである。
「いつもの冗談です。ガイは、マロン作戦司令官も、うちのアルファも疑ってなんかいませんよ。もちろん子龍もね」
ファーが説明する。
「シャン総司令官とラミ女王は、法王庁のロロ法王に対して、特使を派遣して協力を要請したそうですね」
「でも、コウメイは、たぶん色好い返事はもらえないだろうと言っていたよ」
リュウが、口をはさむ。
「どうしてです?」
と、ファー。
「たぶん、法王庁はボクたちとギーガ帝国を両天秤にかけるだろうってさ。いざ戦争が始まれば法王庁は形勢が有利な方に味方するだろうって。コウメイの予想はよく当たるんだ」
「勝つ者にしかつかない、俺が一番嫌いなタイプだ」
ガイは、憤慨していう。
「コウメイは、それは必要な知恵だっていっていたよ。その知恵がなければこの乱世では生き残れないって」
「そんなものかな」
ガイが、吐き捨てるように言う。
ラーラ王国の女王専用船。女王の間で、ラミ女王が、子供たちとあそんでいる。表情は、慈愛に満ちている。
ローズとミミは、それを愛おしむように眺めている。
「ラミ様は、お美しいな」
ローズが、心酔した声でいう。
「心やさしいお方よ」
ミミが、冷静に応える。
「アタシは、女王様のためなら死ねる」
「富める時も、貧しい時も、一緒ですわ」
「あのリュウという男の子は、勇気ある少年だナ。いつかは麒麟になるかもしれない」
ローズが感想を述べる。
「コウメイ様も、いつも涼しげで、知性に溢れていますわ」
こちらは、ミミ。
「いかにも。ミミが好みそうな男だナ。でも、用心しなければ! 相当の曲者よ」
ローズが、ミミのほうを向いて言う
「アナタも、人を見る目はありますわね」
「お前のように、頭が良くない分、情に厚いのさ。これでも、いろんな奴らを見てきたからナ」
「アナタは、口が悪くて損をしていますわ」
「お前のように、いつも冷静沈着ではいられない。しかし、ラミ女王様に対する忠誠心では負けはしない」
「それは、お互いさまよ」
二人、ニッコリ笑う。
ラーラ王国空母メタルの格納庫内に、兵士がみんな集まっている。
戦闘機の前に兵士たちが並んでいる。閲兵式である。ローズ、ミミ、カーン、マロン、シャン、リュウ、コウメイ、ファー、ガイ、ハイジ、アルファたち、主だった顔も見える。
ラミ女王も二階のデッキに奇麗なフードを被った侍女と一緒にいる。ラミ女王が立ち上がり手を振り式典は終了する。
「マロン作戦司令官、前へ出なさい。今日のあなたの作戦は一体何なの? なってないわ。あなたは敵が同じ金属人間だから手を抜いたの?」
ローズ総司令官が、厳しい目をマロンに向ける。
「そんなことありません。一生懸命やっています」
マロンが弁解する。
「嘘おっしゃい!」
ローズは、顔を真赤にしている。
「ローズ総司令官、あなたは私が金属人間だから憎いんでしょう」
マロンが、反抗的な声を出す。
「上官に向かって、その口の利き方は何! お黙りなさい(マロンの頬を強く平手打ちする)」
ローズは、顔をバラのように真赤にしている。
リュウは、思わず自分の頬に手をやる。
マロンが、堪らず倒れる。ローズは、ムチを取り、力任せにマロンを何回も打つ。
「お前の親玉は、ラミ女王を美術品と言ったのよ。そんなこと、アタシが生きているかぎり赦さないわ」
ローズの顔は、まるで血の色である。
マロンを、アルファと少年兵のアンドロイド子龍が身を呈して庇う。
「お前たちも仲間か。ラミ女王には指一本触れさせないぞ!」
ローズは、ますますいきり立っている。
ラミ女王が、マイクで、
「ローズ、お止めなさい。マロン、アルファ、子龍、許して下さい。ローズに代わってお詫びします」
ローズは、手を止めたままマロンを睨む。
「ローズ、後で私の部屋に来なさい」
ラミ女王は、少し厳しい声で総司令官に命令ずる。
第6話、決戦
ギーガ帝国の母船のブリッジ内では、ヒヒ総統が、漂泊の学者サスケと話している。貧相な人間の男のようで、何一つ特徴がない。
「お前も士官の口を探しに来たのだろう。だったら、予の質問に答えよ。人間と金属人間の違いは?」
ヒヒ総統が、サスケに問いかける。
「人間は感情で動くが、金属人間は論理で動くところですかな。しかし、総統が私を呼んだのはそんなことではないはずです?」
サスケが、問いに答える。
「だったら、何でだ?」
「この船体の揺れです。このバル星の星系のこの辺りは、ブラック・ホールや小惑星群が多い。私はこの辺りが、連合軍、ラーラ王国同盟軍とギーガ帝国の決戦の場になると睨んでいます。しかし、この辺は、重力場が不安定のため、絶えず船隊が揺れています。そのためいかに金属人間といえども、船酔いの似た状態を示す者が多いし、計器類も狂いが生じ易い。その対策のためでしょう?」
「お前も面白い男だな。して、その答えは?」
「あなたは空母を六つお持ちだ。連合軍が二つ、王国が三つで五つだから、あなたがたの方が勝っています。その六つの空母を連結して巨大宇宙ステーションを作るのです。さすれば質量も巨大になり重力の影響を受け難くなるのは常識です」
サスケが提案する。
「なるほど、そういう手があったか。早速試してみよう。褒美は後で取らすから待っておれ。それまで、自由にしていればいい。人間の美味しい食べ物もいっぱい用意させよう」
ヒヒ総統が、気前のいいところをみせる。
ギーガ帝国の空母を六つ繋いで巨大な宇宙ステーションを形成する作業が完了した。
その母艦のブリッジ内に、サスケ、ヒヒ総統、エメリッヒ総合司令官、ガラン伝達官、バーン司令官補佐がいる。
「サスケ、お前の御陰で予の心配は解消した。振動もほとんど感じないし、兵士も元気がでてきた」
ヒヒ総統が、サスケを満足そうに褒める。
「しかし、目標が一つになったという危険はあります」
エメリッヒ総合司令官が、注意を喚起する。
「心配はいらない。ただの宇宙ステーションではなく動力源があるからどこにでも行ける」
「宇宙船というより、まるで小惑星ですね」
サスケ感慨深げに言う。
「ところでサスケ、お前は我ギーガ軍と下賤な生き物の戦いはどちらが勝つと思う?」
ヒヒが、サスケの方を向き再び問いかける。
「私がこちらへ来たことから、明らかでしょう」
「軍事力の差が歴然としているか?」
と、エメリッヒ。
「それに、あいつらの中に獅子身中の虫が、二匹もいるんだから、勝てるものも勝てないさ」
ガランが、口を滑らせる。
「ガラン喋りすぎだぞ」
エメリッヒがたしなめる。
「まあ、いいではないか。サスケ君には、この艦で世紀のショーを見物してもらえばいい」
ヒヒが、鷹揚なところをみせる。
「ここにいれば、安全だ」
バーンが、自信をもって言う。
空母メタルのマロンの部屋。
マロン、ヒヒ総統のホログラムと何か話している。
空母インディペンデントのアルファの部屋。
エメリッヒ総司令官のホログラムが消えてから、アルファは考えに沈んでいる。
ラーラ王国の空母キララのブリッジ内のスクリーンへマロンが指揮する艦隊が映っている。ラーラ王国の1/6の兵力を引連れている。
「マロンに任せて大丈夫なんですか?」
「マロンは裏切りません」
スクリーン上で、ラミ女王が強い口調でいう。
法王庁の母艦のブリッジ内に、ロロ教皇をはじめとするオウ枢機卿、フー、オーサン大司教が鳩首会議をしている。
この場には、まだ若年だがイザヤ総司令官も末席に席っている。イザヤは、知的な青い顔と逞しい身体を持った若者である。
空母インディペンデントのブリッジ内では、決戦の機運が高まっている。
「いよいよ決戦の時だ」
シャン総司令官が、宣言する。
ラーラ王国の空母キララのブリッジ内でも、二人の司令官がスクリーンを見詰めていた。。
「さあ、これからショーの始まりよ」
ローズ総司令官が、威勢のいいところをみせる。
「元気いいのね」
ミミ司令官も、横目でチラッとローズをみて、マロンの補給船の方に視線を戻す。
空母インディペンデントのブリッジ内。
皆がスクリーンを見ている。アルファが率いる補給部隊が、味方の部隊へ向かっている。長い隊列を作っている。それを、ジッと注目しているのだ。
シャン総司令官は冷静だが、トト将軍は緊張している。
「こんな大事をアルファに託してよろしいんですか」
トト将軍が訊く。
「アルファだから、任せたんだ」
シャン総司令官は、自信をもって言う。
乗っ取った敵戦闘機のコクピット内には、リュウ、ファー、ガイ、子龍がいてギーガ帝国の宇宙ステーションへ乗り込もうとしている。
「これからが本番だよ」
リュウは、緊張している。
ガイ、ファーが、「オウ!」、「お任せを」と、叫ぶ。
「ドキドキするな」
子龍も、胸を高鳴らせている。
ギーガ帝国母艦。ブリッジ内のスクリーンにマロン、アルファの艦隊が映っている。
「いよいよですね」
エメリッヒ総合司令官が、ほくそ笑みながらいう。
「もうすぐ、下賤な生物どもの終焉だ」
ヒヒ総統は、自信満々である。
ラーラ王国の空母キララのブリッジ内のスクリーンには、緊張の空気が漂っている。
「マロン司令官、コースを外れています。戻ってください。繰り返します。マロン司令官、コースを外れています。戻ってください。交信が途絶えました」
操縦士が叫ぶ。
「裏切ったな!」
ローズが吐き捨てるように言う。
「ギーガ帝国の防御線の中に入って行きます」
ミミは、スクリーンをくいいるようにみつめている。
空母インディペンデントのブリッジ内にも異変が伝わっている。
「アルファ、どこに行くんだ。そちらじゃないぞ」
シャン総司令官が、強い調子でいう。
「通信のスイッチを切ったようです」
通信士も慌てて言う。
「反逆だ!」
トト将軍が決めつけるように断言する。
法王庁の母艦。展望ブリッジには、ロロ教皇、オウ枢機卿、フー、オーサン大司教がいる。
高みの見物を決め込んでいる。
「我らが、帝国軍に力を貸すのを躊躇わせるのも、あのトーマ星のことがあるからだ。ヒヒ総統も非情だが、シバという母(マザー)もまた冷酷ぞ」
ロロ教皇が諭すようにいう。金色の法衣をまとっている。
「シバは、ギーガ帝国そのものですからね」
オーサン大司教が、同調する。こちらは、銀色の紋章をつけている。
「シバも、またミステリアスな存在であり、強大な知力を持っておる。恐れながら、ロロ様にも匹敵する力だ。我が君が、神秘的な力で人を従わせるならば、彼女(シバ)は圧倒的な力で人をひれ伏せさせる」
「帝国軍の参謀はエメリッヒじゃが、ヒヒは意見を聞くだけじゃ」
フー大司教が発言する。こちらも銀色の紋章を身に着けている。
「連合軍の軍師がコウメイなら、ラーラ王国はミミ、この教皇軍にはイザヤがおる。みな知将よ。しかし、イザヤは文武両道を兼ね備えておる。イザヤは、輝ける星ぞ! ワシは、そう信じている」
オウ枢機卿が、自分の弟子を褒める。赤の刺しゅうされた法衣が権威を表している。
「連合軍には、皇帝の弟のリュウがいると聞いています。聡明で勇気をもった少年だそうです」
オーサン大司教が、注進する。
「お前の占いに、そう出たのか? 我に禍をなすと?」
と、ロロ教皇が身を乗り出す。
「……」
オーサン大司教は口をつぐむ。
「ワシもその者の噂は聞いておるが、如何せん、まだ幼い。いずれは恐るべき者になるやもしれんが、いまはまだ恐れるに足りずじゃ」
オウ枢機卿は、笑い飛ばす。
第7話、勝敗
ギーガ帝国の母艦の帰還口に、偽装した奪った戦闘機が近づいている。
ファー、ガイ、リュウ、子龍が金属人間の甲冑を着て偽装している。その前のスクリーンへコントロール室の金属人間が映っている。
「着陸の許可をお願いします」
ファーが冷静に、冷静に許可を求める。
「わかった。着艦を許可する」
ナビゲーターが応じる。
ギーガ帝国の母艦の牽引ビームが、リュウ達の戦闘機を捕らえ引っ張っていく。
その母艦の着陸デッキに略奪した戦闘機が着陸している。
戦闘機のハッチが開き搬入口から、三人の金属人間が搬送車で、いくつもの箱を載せて出てくる。小さいため、子龍がリュウを肩車して大人ひとりに化けているのだ。
箱の中身はコンピューター・ウイルスをばら蒔く論理爆弾である。
ギーガ帝国の母艦のサスケの客室では、ドアが開き、サスケが出て来る。
「この艦と心中するのはまっぴらじゃ」
サスケが独り言を吐く。
サスケは、ゆったりとした衣裳を着ている。
ギーガ帝国の母艦のブリッジは、静かである。
「敵は混乱しています」
カメラ通信士は、空母インディペンデントとキララの音を盗聴している。
「そうだろうとも。ラーラ軍艦隊の1/6と連合軍の輸送部隊が反旗を翻(ひるがえ)したんだからな」
ヒヒ総統が、高笑いする。
同じギーガ帝国の母艦の遠く少し離れた通路では、サスケが急いでいる。
「あいつらうまくやっているかな」
サスケが独り言でつぶやく。
突然、金属人間警備兵がサスケの前へ現れる。
「おい、お前。どこへ行く」
警備兵がきく。
「エメリッヒ総合司令官に呼ばれて、ブリッジへ」
「そちらは離着陸デッキだ。ブリッジは、あっちだ」
警備兵が、反対側を指さす。
サスケは、回れ右して引き返す。
母艦内への入口からリュウ達が、中へはいる。
警備員たちが、反対側からやってくる。
「それは?」
警備兵Aが、三人を止めて質問する。
「総統へのお土産でさあ。連合軍の輸送船から、分捕ったのです」
警備員に化けているガイが説明する
警備兵Bが箱のふたを開けると、金銀財宝が詰っている。
「よし、通れ!」
ファー、ガイ、リュウ、子龍の四人は母艦のあちこちに論理爆弾を仕掛けている。
重要な部分は、すべて調査済みである。
「よし、これで最後だ」
リュウが、スイッチを押すと、カウント・ダウンが開始される。
赤い電光文字が残り一五:〇〇を示している。
同時間。ギーガ帝国の宇宙ステーションのブリッジ内では、異変に気付く。。
「二人の裏切り者からの交信が跡(と)切れました。再々の停船命令を無視して、突っ込んで来ます」
通信士が報告する。
「罠(トラップ)だ!」
エメリッヒ総合司令官が、すぐさま謀略に気づく。
「全軍、攻撃開始」
ヒヒ総統が、すばやく攻撃命令を出す。
同、宇宙ステーション。六つの空母から、次々に戦闘機が飛び立ち、マロン、アルファの輸送船に向かって攻撃しようとする。マロンの艦隊等も迎撃体勢を取る。
マロンの船には電磁爆弾(ハイテク器機をすべて破壊する)が、アルファの船には重力爆弾(重力を発生させ相手を殲滅する)が満載されている。
連合軍空母インディペンデントのブリッジ内の意気が昂揚としている。
「攻撃開始!」
シャン総司令官が高らかに宣言する。
「畏まりました」
トト将軍が答える。
戦闘開始である。
ラーラ王国の女王専用船の女王の間も、熱気に包まれている。
「攻撃を開始してください」
ラミ女王が、恭しく命令する。
「待ってました」
ローズ総司令官が、スクリーンでの中で叫ぶ。
連合軍空母インディペンデント、エンタープライズ、ラーラ王国メタル、キララ、ランから、次々に戦闘機が飛び立ち、戦闘に参加する。
宇宙空間では、激しい戦闘が繰り広げられている。
戦局は、一進一退で、勝負の行方が見えない。
戦闘機、レーザー光線、(ギーガ帝国の)破壊光線、(ラーラ王国の)プラズマ光線、(連合軍の)光子弾などが飛び交っている。
ギーガ帝国の母艦の通路では、もう一つの戦いが開始されようとしていた。
金属人間の警備パトロールが、、不審な三人組に気づき近づいて来る。
「おい、お前たち、そこで何をしている」
警備兵Aが質問をする。
「いえ、ワタシたちは、何も……」
ファーが、さりげなく答える。
「これは、何だ」
警備兵Bが、論理爆弾を発見し尋ねる。
「お前達を逮捕する」
警備兵Cが、銃を構える。
次の瞬間、警備兵たちは、ファーの電子青竜刀、ガイの光子蛇鉾で切り裂かれる。倒される前に一発光銃を射つ。
偽金属人間の腹、つまりリュウの股間と子龍の頭の間に大穴が開く。リュウと子龍、鎧、兜を脱ぎ捨てる。
「危ないところだった」
リュウが、口を開く。
「危機一髪だ」
子龍も同意する。
「さあ脱出です」
ファーが促す。
ファー、ガイ、リュウ、子龍、反重力スクーター、スケートボードなどで、横の壁や天井を走り、先程の戦闘機へ向かう。追っ手も宇宙オートバイなどで、猛スピードで追撃して来る。サイド・カーに乗っている兵士がリュウたちへ発砲するがことごとく外れる。
ギーガ帝国の宇宙ステーション。シールドの外に、アルファ、マロンの船、接近している。
徐々に距離を詰めている。
空母インディペンデントのブリッジ内は、興奮している。
「あと八分だ。それまでに論理爆弾が爆発して、シールドを消さなければ効果がない。それに動力炉が停止すれば大爆発が誘発される」
トト将軍が説明する。
「あとはリュウたちに任そう」
シャン総司令官が、思案顔でいう。
ギーガ帝国の宇宙ステーション外では、マロン、アルファたちが、輸送船から脱出艇で、無事離脱する。あと数分で、衝突して大爆発を引き起こすだろう。
ギーガ帝国の宇宙ステーションの母艦。離着陸デッキ内では、グー親衛隊長、ブルー将軍、ドル将軍、暗殺者ユタがリュウたち四人を待っている。
「おや、君達どこへ行くつもりだい?」
グー親衛隊長が、茶化してきく。
「我らが相手をしよう」
ブルー将軍が、余裕たっぷりでいう。
ファーが電子青竜刀、ガイが光子蛇鉾、リュウ、子龍が光子剣、ギーガ帝国幹部がレーザー・ソードを抜いて、刃を交える。グー親衛隊長と相対しているファー、ブルー将軍と剣を交えているガイは優勢だが、暗殺者ユタと戦っているリュウ、ドル将軍と対決している子龍は劣勢を余儀無くされている。
同、母艦で異変が起きる。
論理爆弾のカウント、三・二・一・〇! 艦内の何カ所かで、大爆発が起こる。床が揺れる。この隙をつき、リュウは光子剣でユタを倒す。
ギーガ帝国、宇宙ステーションのシールドが消える。
マロンとアルファの輸送船の隊列が、宇宙ステーションへ激突し大爆発する。目もくらむような大爆発である。
ギーガ帝国の宇宙ステーションの近くの空間がゆらゆらと揺らめき歪む。
亜空間から、法王庁の見えない戦闘艦隊が現われ、ブラック・ホール弾(黒い影が飛び重力で相手を押し潰す)などでギーガ帝国軍を攻撃し出す。不気味で神秘的な形の艦である。
「敵はギーガ軍ぞ!」
ロロ教皇が命令する。
「仰せのままに」
オウ枢機卿が頭を下げる。
第8話、大勝利
宇宙ステーションが炎に包まれている。
「また、会おうぞ!」
ヒヒ総統がうしろを振り向き別れを告げる。決断は早いのである。
同、宇宙ステーション。ヒヒ総統、エメリッヒ総合司令官、ガラン伝達官、バーン司令官補佐等それぞれの脱出艇で命からがら脱出する。
同、宇宙ステーション。
グー親衛隊長。ブルー将軍、ドル将軍、離着陸デッキより宇宙へ飛び立つ。
宇宙戦艦オーガのブリッジ内も歓喜に包まれている。
「やった!」
ナオミが、喜びで飛び上がる。
「やりましたね」
ホウトウ提督も笑顔である。
「一気に攻めましょう」
メイダ隊長は、決意を秘めた顔で言った。
ギーガ帝国の宇宙ステーション。離着地区デッキ内で、ファー、ガイ、リュウ、子龍、サスケ、ひとつの中型の戦闘機で脱出する。
「危機一髪だね」
子龍がため息をつく。
「こんなのばっかりだ」
リュウは笑顔である。
「もうこんなのは、勘弁してくださいよ」
ファーもホッとして口を開く。
「本当だ」
ガイも同意する。
瀕死の宇宙ステーションが、重力爆弾に引き摺られて、ブラック・ホールの中に落ちて、消滅する。
同盟国の面々から、歓声が沸き上がる。
リュウたちの戦闘機は、ヒヒ総統の脱出艇を追っている。
ラーラ王国の空母キララのブリッジ内のスクリーンへ宇宙ステーションの大爆発が映っている。
「やった、大勝利だ」
ローズ総司令官は、飛び上がる。
「大成功だわ」
ミミ司令官も笑顔である。
スクリーンは、マロンの顔へ変わる。
「マロン、ごめんなさい。辛い思いをさせちゃって」
ローズが、あやまる。
「私が考えた作戦ですよ」
と、マロン。
今度は、アルファ、子龍の顔へ移る。
「二人とも、ごめんなさい。本心じゃないのよ」
ローズが頭を下げる。
「構いません」
アルファが画面で答える。
「お姉さんがやさしいのは、わかっているよ」
リュウも、画面を通して話す。
「すっかり、騙されちゃった」
子龍も、画面上で、笑顔で答える。
「ウソばっかり。でも、人を騙すには、まず味方からって言うでしょう」
ローズが、お茶目に舌を出す。
リュウたちの乗船した戦闘機が、ヒヒ総統たちの脱出艇の一団に近づく。
「これで、すべてを終わりにしてやるぞ」
リュウ、脱出艇目掛けてレーザー光線を浴びせ掛けるが、今一歩で外れる。
その時、目前に敵の艦隊が現われる。
「敵の艦隊です。逃げましょう。勝機を逸しました」
ファーが警告する。
リュウの戦闘機は、一八〇度転換で、尻尾を巻いて逃げる。
ラーラ王国の空母キララ。ミミの部屋では、新たな展開が待っている。
ミミとコウメイの二人きりである。
「お話があるとか?」
コウメイが、少し緊張して口を開く。
「まあ、お座りになって」
コウメイは、素直にロッキング・チェアに座る。ミミは、コウメイの横に来て、いきなりキスをする。コウメイが、目を白黒させる。
「積極的な女って嫌い?」
ミミが、直球できく。
「そういうわけじゃ……。でも、ミミ司令官って、見かけによらず大胆なんですね。ラーラ王国の女性って、みんな(後は聞こえない)?」
コウメイは、赤くなりしどろもどろである。
「ミミって呼んで」
「はい、ミミ」
「物事には潮時ってあるでしょう。ワタシは、みすみすチャンスを逃したくないの」
ミミは、コウメイの瞳を覗き込む。
「じゃないと、ここまで登って来られません」
「そうですよね」
ミミは、一枚のCDをコウメイに渡す。
「これは、バル星を廻るワタシたちのスパイ衛星が偶然撮ったものなの。きっと、あなたのお友達のお役に立てるはずよ」
コウメイが、デッキにCDを差し込むと、ユタが兵士に姿を変え、バル星の国王を暗殺し、兵士に濡れ衣を着せる光景が映し出される。
「気に入ってくれたかしら?」
「とても、素敵なプレゼントです。ありがとう。なんとお礼を言っていいやら」
コウメイ、ミミにお礼のキスをすると、慌てて部屋を出て行く。
「もう、せっかちなんだから」
ミミは、呆れた顔でコウメイが出ていったドアの方を見る。
バル星では、民衆が蜂起している。
レイを中心とした反乱軍が中心である。
激しい戦闘の結果、レイはサイボー、カイン達を倒し、勝利する。
ケイと后は、許され、名実ともにレイがバル星の国王になる。
バル星の宮殿の前の広場では、レイが国民へ演説している。
「我々は人民の、人民による、人民のための政治を行なうだろう」
レイの言葉に、会場は拍手喝采の渦である。
連合軍空母インディペンデント、エンタープライズ、ラーラ王国空母メタル、キララ、ライアの乗組員全員から歓声が上がる。
シャンペンを抜いたりして、この大勝利を祝福している。
エルム星は、シャナ教の聖地である。
この星は、聖地だけあって青く自然が豊かで、三国の境界にあり、直前までギーガ帝国の影響が強かった星である。
連合軍戦艦オーガが、ギーガ軍の掃討へ向かっている。
「大勝利だわ」
ナオミが感想を述べる。
「見事な作戦だ」
ホウトウ提督も、賞賛している。
戦艦オーガが、任務を終了の後、休憩している。
そこへ、法王庁十字軍の見えない戦隊が現われ、オーガ他すべての連合軍を制圧してしまう。
コウモリ型の不気味なバトル・シップ艦隊である。
「乗組員諸君、君たち全員の降伏と投降を要請する。抵抗しなければ、君達の安全は保証する」
イザヤ総司令官が、スクリーンに突然現われる。
イザヤ、胸にシャナ教の赤い紋章が入った甲冑を着ている。
戦艦オーガと空母インディペンデントなど連合軍の艦隊の全スクリーンにイザヤが移っている。
「速やかな投降をお願いする。我らも無益な殺生はしたくはない。我らが目的は、エルム星の奪回だけだ」
イザヤの声は落ち着いている。
白と赤の紋章入りの戦闘服を身に付けたイザヤ軍の兵士たちが、制圧した連合軍の艦船に乗り込んでいく。オーガの乗組員も、無抵抗でイザヤに従っている。
エルム星の上空には、法王庁十字軍の戦が集まり、その様子を静観している。
もう、大勢は決まっている。
連合軍戦艦オーガのブリッジ内で、ナオミがきいている。
「なぜ法王軍が?」
「ここは、シャナ教の聖地なんだ。だから、エルム星の奪取は、法王や教皇の長年の悲願なのだよ。だから、この時を、待っていたんだろう」
メイダ隊長が、教える。
エルム星の地上に、戦艦オーガ、イザヤ軍の戦艦シャルムが、着陸している。
戦艦オーガの乗組員、シャナ教の兵士たちに誘導され、地上の施設に入っていく。
しかし、その扱いは乱暴ではなく、規則と礼儀に守られている。
「これから、どうなるの?」
と、ナオミが訊く。
「イザヤ総司令官は、人望もあり、人格者でもある立派な将軍だ。捕虜として我々の人権も名誉も守ってくれるだろう」
ホウトウ提督、ナオミをやさしく見る。
「大丈夫だ! 何も心配することはない。我らの安全は確保されるはずだ」
「シャナ教はこの星をどうするつもりなの?」
ナオミが質問する。
「自分たちの支配下に置くだろう。それから、我らの追放」
「ナオミ、キミたちは心配することはない。シャン総司令官も、その線で交渉に応じるだろう」
メイダ隊長が、補足して説明する
空母インディペンデントのブリッジ内は、心配そうな雰囲気に包まれている。
「ナオミたちを助けなきゃ」
リュウが、はやって口を開く。いまにも飛び出しそうな勢いである。
「きっと、みんな無事だ。イザヤは無闇に人に危害を加える男ではない」
「絶対、大丈夫だよね」
「さあ、救出へ向かおう!」
シャン総司令官が、掛け声を上げる。
空母インディペンデントは、オーガ救出ためにエルム星へ向かう。
「ギーガ帝国の逆襲」へ、つづく
宇宙三国志 G(ギャラクチカ) 小説編 高原伸安 @nmbu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。宇宙三国志 G(ギャラクチカ) 小説編の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます