第34話 喧騒の後

「色々と大変でね」俺が今いるのは長の家だ。

 瓦礫撤去やら魔物の運搬やらも一段落ついた。


 残った問題は壊れた壁や男たちの家にあった穴の対処、捕まっている男たちの処遇と魔石を誰に売ったのか。


 結構、問題あるな。

 俺がすることは魔物の対処だから、あまりそういった問題に関わることはないと思うが。




 そんな状況でなぜここにいるのか、呼ばれたからというのもあるが「しかしどうしたものか」俺は今、長の愚痴を聞いている。


 あんなことがあったんだ、長に何か言う人間がいるのは分からなくはない。

 言われている本人は大変そうだが。


 ただ俺がそれを聞いても何を返せばいいのか、数週間いる程度の人間が偉そうなことも言えない。

 とりあえず無難な相槌を打ってやり過ごしている。


 これは遠回しに俺が魔物を報告したことの愚痴か、なんてことも浮かんできたが「勘違いするな魔物を報告してきたことは間違ってない、討伐だと判断したのは私だからな。あのまま魔物があそこにいたらあの男たちの家の穴から出てくる可能性もあった気にするな」


「……ならなぜ愚痴を俺に?」言うべきか迷ったが、勇気を出して言ってみた。

「それとこれは別だからだ。それぐらい聞いてくれてもいいだろう他の人には話しづらい」別らしい。


 責める気はないが愚痴は聞いてくれということか。

 周りにいるのは町民(と言っていいのか分からないが)だからなトップの愚痴なんて聞きたくないし聞かせたくもないだろう。


 そういう意味では急に来て町人とも呼べない俺を愚痴相手に選ぶのは間違ってないのか? 言われている俺はなんて返答したらいいか分からないが。




「まあ、近頃魔物が多い理由も解明できそうなのは幸い、と呼ぶのもあれか」

 そう魔物が多い理由も検討がついたらしい。


 なんでも、男たちが魔石を取っていた時期と魔物が増えた時期が重なっているという話。

 つまり魔物が多くなったのは、男たちが連れてきていた、という線が濃厚らしい。

 またあの男たちだった。ずいぶんと魔物に引き付けられる人たちだ。



 あれ? となれば俺はこの先どうなるのだろうか。

 俺が来た理由は魔物が増えたから。だけど魔物を引き付けたであろう人たちは拘束されて……。


 俺の将来一体どうなる。


「ああ、そうだ。短剣について、寝る時以外は常時携帯しておくように」

「ああ、はい」

「こんな状況だ。もしまた魔物襲来が起きたら次も頼む。そんなことが起きないようにするつもりだが」

「なるほど」町を守るためか。ということは、俺はまだ町にいるのか? 


 そのことについて質問しようと思ったとき、ガチャ「いるね」扉が開く音と聞き覚えのある声、顔を音がしたほうに向ける。


 秋山さんがいた。

 どうしてと思ったが「揃ったな座ってくれ」長の口ぶりからするに秋山さんが来るのは予定通りっぽい。



「現状はどうなってる?」秋山さんは椅子に座り、すぐに質問してきた。

 その質問に口を開いたのは長だった。


 報告は滞りなく進み、たまに俺がゴブリンやでかぶつと戦ったときの話をして報告は終わった。


「次はこっちだな。清心君おめでとう契約更新だ。まだしばらくここの町を守ってもらう少なくとも壁が直るまで」契約更新って、そんな契約をした覚えはないが、壁が直るまではいるのか。

 というかこの報告をするために俺を呼んだんだな。


「壁が直った後はどうなるんですか?」

「まだなんとも。しばらくはここにいてくれ、施設より暮らしやすいだろ? それとも戻りたいか?」

「分かりました。引き続き警備します」戻りたいかと問われれば戻りたくない、また閉じ込められそうだし。



 そういえば園田たちはどうしているだろうか「あの大内班の近況って知ってます?」今更戻ることもないだろうが、ちょっと気になった。


「大内班? ……ああ、前いたところか。清心君がいなくなった頃は忙しそうだったぐらいしか知らないな」俺を含めた大内班長、園田で3人の班だったからな1人欠けただけでも大変だろう。せめて心のなかでエールを送っておいた。



「質問はもうないか、なら僕は帰るよ。それじゃ」席を立ち、扉を開け去っていく。忙しないな、いつも。

「話はこれで終わりだ」長の言葉を聞いて俺は家を出た。秋山さんほど生き急いではいない。



 階段を下りながら、さてどうするかと考える。

 壁がなくなったことで警備の数は増えてその役割は俺にも回ってきたがまだ時間じゃない。



 ……まあでも行ってみるか。

 階段を下りきって瓦礫やら壁跡を見て回ることにした、行ったら行ったで何かしら頼まれそうだけど。



 町の様子は祭りがあったからか、時間が経ったからか、前にあった不安や混乱は表面的にはないように思える。完全になくなったわけではないだろう、長に対する不満云々はあるらしいし。

 まあそれはどうしようもない。


 そのまま町の様子を見ながら壁跡近くに行くと「交代はまだのはずだけど?」黒瀬さんがいた。


「散歩がてら」

「上と比べて見ごたえないと思うんですが」

「個人的にはワクワクしますよ」だけど数年も暮らしたら見飽きるんだろうな。

 どんな場所でもそうか、人間は良くも悪くも慣れるからな。


 というか上って、地上を知ってるんだな、どうやって出たんだろう。

 俺が入った来たところからだろうか?



「今じゃ危険と隣合わせですけどね」ちらっと瓦礫を見た黒瀬さんが言った。


 ここらへんに魔物がいないとしても壁がないと不安だよな。いつ入ってくるか分からないし。

 実際、入ってきたことを考えれば今まで以上に壁の重要性が増す。防衛的にも心理的にも。


「壁はいつぐらいに直るんですかね」

「まだなんとも。前よりは強固にするって話は聞きますけど」強固か魔石でも使うんだろうか。

 そもそも前の壁がどれだけ頑丈だったか分からないが、確か爆弾で扉は壊れたんだよな。


 壁自体はでかぶつが壊したらしい。近くに倒れていた男が目を覚ましたときにそう言ったと。

 ボデロックをそのままでかくしたようなあの魔物だ。



 でも俺、あのでかぶつの攻撃を一回受け止めたんだよな。

 壁が元々脆いのか、はたまた爆弾で脆くなっていたのか、でかぶつが強いのか、俺が強いってのは慢心か例えそうだとしても魔道具があったおかげだ。

 魔道具関係なしにしても俺1人で倒したわけじゃない黒瀬さんがいたから倒せたんだ。


「いてもあれなんで、家に戻ります。また」何かしら頼まれるだろうな思ったけど何もなかった。

 このあと俺にも警備がある。だったら家で休憩でもして万全にしたほうがいいだろう。

 ということで俺は黒瀬さんに背を向けると「あの」

「ん?」呼び止められた。なんだろうか?



「……一緒に戦ってくれて、助けてくれて、ありがとうございます」


 ……そうか、のか。ああだから、達成感を感じたんだ。

「俺も、ありがとうございます」


「感謝されるようなことは何も」

「そんなことないです、でかぶつに潰されそうなときに助けてもらいました」それは間違いない。


「それじゃ」俺は去り際に手を少し上げて「じゃ」黒瀬も手を上げてくれた。




「ふぅ」ベッドに座り一息つく。

 まだしばらくは世話になる部屋だ。


「しかしこうなるとはな」鞘付きの短剣を持ってまじまじと見る。

 予想だにしないことが起き続けたし、散々振り回された。

 発端はこの短剣だ。


 最初は、ああまたなんだなと思った。あの村で体験したみたいに、どうしようもない無力を味わった。

 閉じ込められて魔物と戦って。


 だけど少しづつ悪くないと思ってきた。

 たぶん強くなったからだ、強くなって魔物と戦って勝って達成感を得た。

 俺は思ったより強さに貪欲だったらしい、そして現金な人間でもあった。


 それでもそう感じたんだから仕方ない。

 同時にこの力が村にいたころにあったならとも思ってしまう。これも仕方ない。思っても詮無いことだが。



 そもそも短剣は俺の力かといえば違うだろうし、たまたま手に入った物だ。

 俺の手元にあるのは運が良かっただけ。

 慢心するのは良くない。


 結局、なんで俺が魔道具を使えるのかも分からない。


「どういう考えか」ふと秋山さんに最初会ったときに聞かれたことを思い出した。

 そもそも俺に確固たる考えなんてものがあるのかどうか。



 ……分からないな。


 ベッドに横にならず壁によりかかる。


 そんなことより先に、魔道具の威力をどう制御するか考えたほうがいいなと思いながら休憩した。

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魔法が使える短剣を手に入れた。自由に生きれるよう強くなると決意する 草原紡 @nasutenokusa

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