第16話 話し合い


「私、日曜日駅にいたんですよ」


「あそーなん?じゃあ会えてたかもねー。」


・・・声音は普段通りの先輩。


でも、玲先輩が使ってる〈軽弩〉の弾が明らかに逸れましたね。全く、この人はどこまでも自分自身に・・・。


「それで、先輩。私実はあの日全部、、」


ピンポーン♪


「うわーびっくりしたっ。誰かな?」


「・・・私が出ます」


「いやでもここ俺の、」


「私が出ますね」


「あー、はい。」


玄関へ向かい、覗き穴から外を見ると、


「・・・やっぱり。」


はぁ。まぁそうするよね。


扉を開けると、そこには琳月が立っていた。


「何しに来たんですか?」


「?!・・・瑞凪」


酷くやつれた顔をしている。隈もすごく、すっぴんだった。それでもどこか儚さを感じさせるのは、元が整っているからだろうか。


「瑞凪ー?誰が来たのー?って小野寺さん?!どしたのそんな、大丈夫?」


奥から玲先輩が来た。まさか琳月先輩が来るなんて思ってもいなかったのだろう。ましてや琳月先輩は今こんな見た目だ。驚くのも無理はないのかもしれない。


「っ!玲!あの、ごめんなさい急に来てしまって。その、昨日も来たんだけど玲いなかったぽくて。それで、謝りたくて・・・。だからっ、」



「とりあえず中に入ってくれませんか?ご近所さまに迷惑になります。玲先輩が叱られちゃいます。」


琳月の言葉を遮って、瑞凪が家の中に入るように促した。




「・・・あのね、だからここ俺の家なのよ。まぁ入ってもらうのは全然良いんだけどね。」


***


部屋の中に入ると、テーブルを挟むようにして琳月と瑞凪が座る。玲は、ベッドに腰をかけさせられた。ちなみにこの配置は瑞凪の指示によるものである。


「あのさ瑞凪。」


「はい、何です?」


「何で俺だけベッド?テーブルのとこまだ空いてるよね?小野寺さんがうちに来たってことは、俺に用があるってことじゃないですかぁ。ならやっぱり俺もそっちに、」


「先輩ちょっとうるさいです。あとうるさいです。」


「・・・はい。でもちょっとひど、」


「せ・ん・ぱ・い?」


「・・・はい。」


この間、琳月は思うところがあるような表情でふたりのやり取りを見ていた。


「それで、改めてご要件を聞かせてもらえますか?簡潔に」


「あの・・・その前に、なんで瑞凪が仕切るというか、話を聞く感じになってるの、?」


「はぁ。そんなの、おふたりで話したら『ごめんなさい』『いいよ』で終わっちゃうからに決まってるじゃないですかっ。どうせ玲先輩のことだからすぐ赦しちゃうに決まってます。でも今回のことはそんな簡単に終わらせていいものじゃないんです。それは琳月先輩も分かってるはずです。」


「それは、もちろん、。」


「それにこれは琳月先輩のためでもあります。簡単に赦されたら、きっとずっと心の中にしこりが残り続けます。罰こそが救いになることも往々にしてあるんです。だからこそ、私は琳月先輩のことを赦す気は少しもありません。一生根に持ち続けます。はっきりと言いますが、あなたに玲先輩はもったいないです。」


「・・・そう、ね。ありがとう。でも、それでもせめて、今回のことについての全てを私の口から玲に話したいの。それが、最低限の・・・。」


そう言うと、琳月は俯いて涙を流し始めた。


「琳月先輩、私はから。」


あなたの意図も、想いも。


「でも、だからこそ、やっぱりあなたを赦すことはできません。あんな形で、玲先輩をっ・・・。」


だめだ、感情に任せてはだめだ。冷静でいないと頭ごなしに琳月先輩を否定し、罵倒してしまいそうになる。でもそんなのは、ただの醜い何かだ。きっとそんな場面を見たら、玲先輩はまた傷ついてしまうだろう。でも、琳月先輩の気持ちも痛いほど解るからこそ、、辛いのだ。


熱を冷ますように、瑞凪はふぅっと息を吐いた。


「とりあえず、琳月先輩の思いの丈も、真意も分かりました。でもそのことについて、日曜日の出来事の全容について話を伺うのはまた別の日にしましょう。わざわざ部屋に上がってもらったのに申し訳ありませんが。」


「・・・わかった。誰か当事者以外の、中立の人も呼びましょう。その人には申し訳ないけれど。」


「はい、琳月先輩に『分かっている』と言ったことと矛盾しますが、私は玲先輩の味方です。それはどこまで行っても、何を聞いても絶対に変わらないことです。」


「わかってる。むしろそうでいてくれて、ありがとう。」


「立ち会ってくださる人はどうしましょうか。おふたりの関係を知っている必要がありますけど、」


「それは、私の友人にお願いしてみるわ。あ、もちろん事前に何かを言って私の味方になってもらうとかそういうことは、」


「分かってますよ。そこら辺は心配してません。琳月先輩はそういうことをするような人ではないはずです。それに、今のあなたの顔を見れば分かります。ではその人には琳月先輩から話を通しておいてください。事の概要は予め説明しておく必要があるでしょうし。」


「えぇ。」


話をして、思いの丈を本人から確かめて、その上で今の琳月の表情を見れば、そんな卑怯な真似をしないことはすぐに分かった。

メイクはしておらず、相変わらず隈はくっきりとしているが、瑞凪の目にはいつもの琳月に見えた。

それは、あの日の表情とは、どこか焦って視野が狭くなっているようなあの顔とは明らかに違うもののように思えた。



そのあとすぐに、琳月先輩は帰って行った。玄関まで送りに行ったが、やはり来た時とは別人のような顔つきをしていた。





あ、話している間ずっと玲先輩のこと忘れてた・・・。


「先輩すみませーん。ずっと蚊帳の外にし、」




ふふ。全く、この人は────



「瑞凪、ありがとね」



昨日からの曇り空は、いつの間にか晴れ渡っていて、部屋には光が射していた。


右目から零れる一本の筋は光を反射して輝いていて、玲先輩はとても綺麗に笑った。











全く、この人は。ほんとに、ずるい人ですね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女に浮気しているところを見せつけられたけど、特に何も言わなかった。(仮) さーれ @RE_I

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ