第15話 目撃 後輩の


少し遡って、日曜日。


「ふぁー・・・。さーて起きましょーかねー」


ベッドから降り、キッチンを通って洗面台へ向かう。


「つめた」


顔を拭いてキッチンに行くと、ちょうど電気ケトルがカチッと鳴った。


トースターで焼いた食パンとミルクティを持ってテーブルまで行き、スマホでモン狩情報を見る。


「新作は期待値高めだなぁ。はやく玲先輩とやりたいー」


さーてと、そろそろ準備しよーかな。


***


駅。


まだ午前中であるにもかかわらず、瑞凪は心做しか疲れた表情をしていた。


「ふぅーーーーー。やっと買えたよー。お店に入ってからお会計するまでに20分もかかっちゃうなんて誤算だったなぁー。」


予約してなかったら売り切れで買えなかったもん。もし買えてなかったら先輩とのモン狩生活スタートが遠のいてたわけで、それはつまり私のQOLが著しく下がることになるってこと。


あでも、先輩がプレイしてる横で見せてもらうってのもありかも。さすれば先輩の真剣そうな横顔を近距離で・・・。うん、それもありだ。


でもまぁこれで玲先輩との新しいモン狩生活が始まる!♡

たーのしーみだなー!玲先輩いつ空いてるかな?早くやりたいなぁ。


てか、もしかしたら玲先輩と会えるかもって思ってたけどいなかったなぁ。あの人のことだからもっと早めに列に並んでたとか?だとしたら家出る時間しくじったなぁ。


お店でばったり会って一緒に買って、その後駅ビルをちょっとぶらぶらして、お昼ご飯一緒に食べてからどっちかの家でモン狩するっていうのが今日のベスト展開だったのにぃー。


まぁ明日も大学だから会えるだろうし、火曜日は創立記念で休みだから、ずーっと一緒にモン狩できるからいっか。


瑞凪にとってモン狩は、琳月が間に入ってこない、玲とのふたりだけの特別な時間だ。


そいえば、玲先輩ってなんで琳月先輩と付き合ってるんだろ?確かに同性の私から見ても琳月先輩はめちゃくちゃ綺麗だけど、趣味とか性格とかはベストマッチってわけじゃない気がする。


やっぱり見た目かな?私も琳月先輩みたいに黒髪ロングにする?私ってば今はボブで全体的に白っぽくしてるし。正反対なんだよなぁ。

でも高校の頃に好きなタイプ聞いたら、見た目とかは別に気にしないって言ってたし。


私の方が、趣味も同じだしおふざけし合えるし、相性良いのに。私を選んでくれれば、一生幸せにしてみせるのに。


「まぁでも玲先輩ってば一途さんだからなぁー。私はもうしばらく虎視眈々としてなきゃですかね」


私だって、自分で言うのもなんだけどそこそこ可愛いのに。でも今よりもっと可愛くなって、玲先輩が振り向いてくれるようにならないと。


よし!まだ9時半だし、せっかくこっちまで来たんだから化粧品とかも見に行こう。



***


「あ、この色可愛い!えこっちのもめっちゃ良い!」


瑞凪は現在、口紅の品定めをしていた。


駅から見て1番手前にあるこのビルは化粧品や美容品等の品揃えが豊富で、高価な物からお手頃なものまで取り揃えられているため、若い世代の女の子たちだけでなく奥様方まで、様々な年齢層の女性が足を運ぶ場所だ。


弧を描くようにある5つの駅ビルのうち、モン狩を購入したお店があるビルを1番目とするとこのビルは5番目ということになり、距離的には200m程離れている。



「えーどうしよ。まってこのアイシャドウめっちゃ良いって聞くやつだ!んー・・・。」









結局、


「口紅とアイシャドウ含めて4つもコスメ買っちゃったよぉーー!!」


さすがに散財しすぎました・・・。いやまぁ、可愛くなるためだから、うん。つまり玲先輩に振り向いてもらうためだから!よし忘れることとしよう。



てゆーか、自分に似合うやつ色々試してたらもうとっくに10時半過ぎてるよー!


今が40分過ぎだから、帰ったら余裕で11時なってる・・・。早くモン狩進めたいのにー。


はぁ、もうここまで来たらお昼食べて帰ろーかな。とりあえず外出ますかねー。


***


「あれ、めっちゃ曇ってる。さっきまで晴れてたのにー。一応傘買っといた方がいいかなー。」


ビルから出ると、空が黒い雲で覆われていた。



「ん?あれ琳月先輩?」


自動ドアを出て右を見ると、遠くから見覚えのある人がこちらに歩いてきていた。


首だけ後ろを向いて歩いてるけど、あんな綺麗な人はそういない。


え、てか男の人と歩いてる?は?


玲先輩じゃない。誰?てか玲先輩がいるのに何してんの?


「ちょっと琳月先輩あんた何して、」




え・・・?玲先輩?どういうこと?


それまで見えなかったが、琳月先輩の目線の先に玲先輩がいる。それにさっきより琳月先輩が近づいてきていて、琳月先輩の横顔が見えるようになった。


え?どういうこと?琳月先輩は玲先輩がいるのを知っていて、それなのに笑っている?


見せつけてる?浮気現場を、玲先輩に?でも琳月先輩が玲先輩のことを心から想っていることは知っている。分かっている。だからこの人は浮気みたいなことをするような人じゃない。玲先輩がそんな人を好きになるはずがない。


じゃあ何か意図があって、?


でも、




どんな意図があっても、もしそれが結果的に玲先輩のためになるのだとしても、そのために玲先輩を悲しませるのは違うでしょ。




あぁ、玲先輩が行っちゃう。


そうだよね、玲先輩なら、声かけないよね。


どーせあの人のことだから、「琳月先輩がそれでいいなら、幸せなら」とか思ってんでしょ。


だからこそ、こいつはっ・・・。



あれ?


玲が背中を見せて歩いて行くのを見ると、琳月の顔には焦りと絶望が浮かび、歩みを止めた。


何を焦っているの?何を絶望しているの?こうなったのは、玲先輩を蔑ろにしたのはあんたでしょ?



琳月先輩たちとは少し離れているけど、微かに声が聞こえる。


「やっぱり、やめ・・・ばよかっ・・・ね、、。」


「あれ?どう・・・て?声をか・・・てく・・・ると思っ・・・のに。かんけ・・・が進・・・、・・・っと玲との距離を・・・られると思っ・・・のに。」


よく聞こえないけど、関係が進む?距離を縮められる?かな。


・・・なるほどね。なんとなく分かりました。


要はこの浮気自体は嘘で、あの男の人とも別に付き合ってなかったと。むしろ、思った通り結果的には玲先輩のためでもあると。



それでも、やっぱり赦せない。当たり前だ。



未だにその場に立ち尽くして何かを言っているけど、もうこの人はいい。


今一番大事なのは、心配なのは玲先輩だ。







瑞凪は早足でその場を後にした。

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